もらっていくからな

 繁みに隠れ、腰を落とし洞穴を見張る。


 今日の獲物は巨大鼬ペンタゾシン


 洞穴の中からはモクモクと煙がでている。ニフェたちだ。

 ニフェ達は他の出口に立ち、煙を炊いている。煙に巻かれ堪らずこの出口から出てきたところを俺達が押さえるという手はずになっている。


「なあ、キクちゃんってアトルのなんなんだ?お姉さん?」


 暇つぶしがてら、横にいるアトルに声をかける


「んなわけあるか」


 まあ、そうだろうな全然似てないからな。


「じゃあ何」


「えっと一応奴隷……?」


「キクさんがアトルの奴隷?」

「いや、俺がキクの奴隷」


「……どうみてもキクさんが奴隷にしか見えない」


 言うとアトルは渋い顔をした。


「……そうなんだよなあ。でもどうしようもなくってなあ……」


 キクちゃんはアトルの事を奴隷だとは思ってないことはわかる。奴隷どころか、とても大事に思っていることも。


「一応確認しとくが恋人じゃないんだな?」


 言った瞬間アトルの顔が真っ赤に染まった。


「はああああ!?」


 いきなりのアトルの大声に慌てて口をふさぐ。

 ばっか。作戦がパーになるだろ


「な、なんで、お、お、俺とキクがこ、恋人なんだよ!?」

「違うのか?」

「違うに決まっているだろっ!!」


 そうか、なるほど


「じゃあ、俺がもらっていくな」


 頬の赤がさっと引き目を見開くアトル。


「ちょ……っ」

「ん?何かまずいことでもあるのか?」


 俺の腕を掴みひどくうろたえていたが、そう尋ねるとお茶を濁してくる。


「いや、まずいっていうか……なんでキクなんだ」


「惚れた」


 俺がストレートに言うと再び目を見開いた。


「あ、あんなヘンテコリンのどこがいいんだ!口うるさいしよ!」


 愚問だ。


「可愛いし、料理は美味いし、気配り上手だし、家庭的。少々のことは目をつぶれる」


「いやっ、でもっ……弱っちいぞ?」


 何を言っているんだコイツは。


「……何か問題あるか?」


「……」


 てか、お前が一番よくわかってるだろ。


「お前はもっとキクちゃんに感謝した方がいい」


 そういうとアトルはムスとした。


「言っとくが、俺は本気だからな?」


 そんなぶー垂れてる暇はないぜ?


 そう挑発してみたら「勝手にしろ、俺には関係ない」アトルはプイとそっぽを向いた。


 ああ、勝手にするともさ。


 丁度その時、毛むくじゃらの動物が洞穴から飛び出した。

 今回の標的だ。ウサギのような大きな耳をピクピク動かし、こちらを振り返る。


 コイツは大物だ。


 三メートルくらいあるイタチの化け物、ペンタゾシン。

 しなやかな腰を丸め、毛を逆立たせ俺達を威嚇してくる

 相当頭に来ているらしい。



「キイーーー!!!」


 顔に似合わず高い泣き声が開戦の合図だった。

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