天才魔導士(アムロ視点)

「ごめん……以前にもみたことあって、そういうものなのかなあって」

 唇を尖らせるベラに、慌ててフォローをいれていた。


「でも、確かに炎の魔法の威力はベラの方が断然すごいな」

「でしょう!?」

 ベラの顔がパアッと輝いた。

 良かった。絞殺されずに済みそうだ。


「詠唱すると威力ってあがるのか?」


「そうね詠唱した方が気持ちが入るから威力は大きいんじゃないかしら」

「炎!と言ってもせいぜい暖炉の炎くらいしか思い浮かばないでしょ?それじゃあ駄目なの」

「だから、イメージを膨らませるためにも詠唱が必要なの」


 ベラの説明を聞きながら残りのアメーバを倒していく


「詠唱無しでも撃てるのか?」

「もっと鍛錬をつめば魔法名を唱えるだけでイメージができたり、無詠唱でもいけるようになるみたいだけど私はまだ出来ないわ」


「じゃあ連射は?」


「……できない」


「同時に二つの魔法使うとか」


「……でき…ない……」


 アトル、それ以上はやめてやれ。ベラが涙目だ。

 ずっとこの炎の魔法だけが自慢だったのだから。


「そんな高度な技無理!」というベラに「あいつら、結構すごかったんだな」とアトルが漏らした。


「あいつら?」

 そうだ。アトルは前にも魔法を見たことあるって言ったな


「一体どこの誰よ」


「ピルシカ=イニドとフレカ=イニド」


 アトルの口から飛び出した名前に息を飲む


「天才魔導士!!」


 想像以上の大物にメンバー全員が振り返った。


「天才……?」


「お前!イニド姉弟と会ったことあるのか!?」


 普通にⅠ群じゃないか!!

 驚く俺達に動揺しながらもアトルは「うん」と頷く


「いや、全然天才な感じじゃなかったぞ?むしろ頭悪かった」


「そんなはずないでしょ!幻の魔法を復活させた二人なのよ!」

「幻の魔法?」

「消滅魔法よ!四元素魔法を混成させる!」

「あーやっぱりあれか」

「見たことあるの?」

「ある」


 あの幻の魔法を見たことあると!?


「すごおい。いいなあ……」

 ニフェが羨ましそうにアトルを見る。俺も同感だ。


「それで同時に二つ魔法が使えるか聞いてきたのね」

 納得いったようにベラが腕を組んで頷いていた。


 そりゃあ消滅魔法見た後だとベラの魔法は見劣りするわな


「イニド姉弟と比べたらさすがにベラが気の毒かな」とジルが肩をすくめ、「敵うはずないわ」と両手を上げてベラが降参のポーズをとった。


「二人は、私のあこがれ!目標なんだから!」


「あこがれ……目標……」


 アトルはなぜか苦虫をかみつぶしたような顔をした。



 この日以来、炎の魔法で天狗になっていたベラが魔法の練習をするようになった。

 良い傾向だ。

 これだけでも、アトルを仲間にして良かったと思う。


 俺達CCブロッカーに新しい風が入ってきた。







 予想以上にアトルはいい剣の腕をしていた。


 お手本にしたいほど安定した綺麗なフォームをとってみせる。剣の師匠がいるらしいが、その人がアトルの事をものすごく丁寧に仕上げようとしているのが伝わってくる。


 多くの人はその時その時で、より力の入る構え、より動きやすい構えと、自分の体に合わせて癖がでるものだ。そしてそちらの方が断然強かったりする。だが、必ず壁にぶち当たり、そのたびに癖を修正していく必要が出てくる。


 アトルを教えている奴はそういうのを一切無視して、「今」ではなくもっとはるか高見に照準を合わせて育てている。


 今は身に合わなくても最終的に行きつくだろう構えだけをひたすら磨かせているようだ。聞こえはいいが、詰まるところ個性を潰した型通りの修行をさせているということだ。


 このまま磨いていればアトルは必ず将来化ける。それはわかるが、アトルは人間だ。どれだけ師匠の言うことに忠実でいられるものだろうか。







 というわけで危惧していたアトルの剣の腕は申し分なかった。


 そうなると週一回の活動だと物足りなく感じる。

 是非毎回一緒に来て欲しい。


「なあ、アトル。お前どうしても週一しか駄目なのか?」

「駄目っていうか機会がないっていうか」


 詳しく事情を聞いてみると家が町の外にあり、そのため週一の買い出しの時だけフランによることが出来るらしい。

 それならアトルの家に迎えに行こうという話になった。


 俺達がフランで依頼を選んで来て、目的地に向かう途中にアトルを拾って行くのだ。


 そうして訪れたそこには天使が住んでいた。





 ◆





 狩りが終わりアトルを家へと送り届ける。


 来た。来た来た来た。


 パタパタパタと足音が近づいてくる。


 奥から現れたのは、透き通るような白い肌に紅い瞳、美しい銀髪の少女。

 はじめて見た時は本気で天使かと思った。

 羽が生えてないのが不思議に思えるくらい浮世離れした外見。


「おかえり」


 そんな子がエプロンで手をふきながら嬉しそうにお出迎えしてくれる。

 見た目はすごく神秘的なのに、大衆感がハンパない。


 そのギャップが良いようなとても残念なような複雑な気持ちにさせる。

「頼む!頼むから黙ってジッとしていてくれ」と願いたくなる一方で、親しみやすくてホッとするのも事実。


「怪我せんかったか?」

「おー」


 アトルの装備を受け取りながら「危なくなかったか?」「お弁当は食べたか?」といろいろ聞いてくるが、その全てにアトルは「おー」と適当な返事を返している。


「いつも、アトルをありがとの」


 さっさと中に入っていくアトルを見届けた後、ちゃんと俺達にもねぎらいの言葉をかけてくれ、家に招き入れてくれる。

 美味しそうな匂いが家を満たしていてお腹がグウと鳴る。「やーね。恥ずかしい」というベラのお腹も鳴り顔を赤くした。


 そんな俺達を見てニコニコ笑顔で「あんたらも食べて行き」と背中を押してくる。


「いやでも……」


 流石にそれは悪い気がする。


「なんじゃ、急いどるんか?」

「急いではないけど……」

「ちぃと作りすぎてしもうての。困っておったところじゃ」


 これを断る言葉を俺たちは持っていない。

 明らかに二人では多すぎるその量をみて、女の子の心遣いが感じられた。


「遠慮せずに食ってけよ。キクの料理は死ぬほど美味いんだぜ」

「食べたら腰抜かすぞ」とアトルが自慢げに言ってくるので「あ、じゃあ」と勧められるがままご馳走になった。


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