帝国側



 

 昨日はいつ町に着いたのかも覚えていない。


 一泊で帰るつもりだったが、延長し今日は一日ラクタムの町の観光をすることになった


 ここはクマリンと比べるとずっと小さな町だが河が近いため市では川魚が多く出回っていた。


「そういえばクマリンの真ん中には塀に囲まれた大きな建物があるの」

「一応名ばかりですが王様が住んでらっしゃいますよ」

「王様?クマリンは王国じゃったのか?」


「元な」


 ということは今は違うのかの?


「今はヒダトイン帝国の一部」


 ほうほう。でも王様は健在なんじゃな


「王様が超臆病者でさ、ヒダトイン帝国が攻めてきた時、結構な兵力持っていたにも関わらず戦わずに降伏したんだ。自分可愛さに帝国に媚びへつらってさ。おかげで周辺国からは大ブーイング、税金も増えて国民は不満たらたらさ」


「僕は賢い選択だったと思いますよ。無血開城そして納税するかわりに王による自治を認めさせました」


「帝国側も気が弱くてへっぴり腰のクマリンの王様を見てそこらの腹黒貴族より与しやすいと考えたんでしょうね」

「どんなに憶病者な王様でも、領民のことを道具としか見てない人が治めるよりずっとマシです。」


「下手に抵抗した占領地は悲惨になっていますよ。帝国から派遣された貴族が必要以上の税を取り立ててせっせと私腹を肥やしています。抵抗しようにも先の戦いで力が残っていないんです。おかげで復興もままならない」


「確かに税は増えたようですが王様が水際で食い止めてます。私兵も無傷で残っているので、目立った問題を起こさない限り帝国側もあまり強く出れないでしょうし。正直巧くやったなと思います」


「……クマリンでは皆口をそろえて売国野郎というけど」

「クマリンの人は他を知らないからですよ。以前と比べたら確かに苦しくなったのでしょう。ですが広い目で見ればとても恵まれています」


「他ではクマリンの評価は高いんですよ」


「ほうほう、勉強になったのあー坊?」


 行動範囲の広いクロ助ならではの意見

 広い視野を持たねばな。


 あー坊は素直にうなずいた。


「ちなみにクロは帝国側か?それとも反帝国側か?」


「……」

 あー坊の問いかけに滑らかにしゃべっていたクロ助の口が閉じた。


「……言いたくないか」

「そうですね。すみません。ただ僕がバスタチン王家、特にロス皇子には逆らえないということは覚えておいてください」


「!!」


 足を止めたあー坊を振り返る。


「どうしたんじゃ?あー坊?」


 何かに驚いた顔をしていた。


「ロス皇子とは、誰じゃ?」


 この国の情勢を全く知らないため今の会話のどこに驚くことがあったのか、さっぱりわからんの。


「ロス=バスタチン。ヒダトイン帝国皇帝フル=バスタチンの息子ですね」


 つまり、この国の皇子ってわけじゃの。


「……お前、ロス皇子に仕えてるのか?」

「違います」


「じゃあ、なんなんだよ!!」

「さて?」

 余裕なさげなあー坊にトボけるクロ助


「お前、いいかげん中途半端にしゃべるのやめろよ!!」


「アトル君こそ、興味本位で藪をつつくのをやめてください。大蛇がでたと文句を言われても困ります」


 なんでかわからぬが、二人の間に不穏な空気が流れておる。



 それにしてもおかしいの


「……クロ助は赤髪の差し金じゃろ?」



 二人の肩が跳ね上がった。


 赤髪は最高何とかってやつで、それがロス皇子と何か関係あるんじゃろうか?

 ……ようわからんの。



「そ、そうですよ!帝国側に決まってるじゃないですか!」

「そうだよな!帝国側だな!何聞いてるんだろうなー馬鹿だなー俺」


 二人は仲良く肩を並べて前を歩き始めた。


「なんじゃ?」


 よくわからんが二人の仲が戻ったので良かった








 この国に来て初めて宿屋に泊まった。


 お風呂もトイレもついてないただの素泊まりの部屋だ。

 こちらではこれが標準らしい。

 標準どころか、個室で個別にベッドがある分良質なのだとか。


 ちなみに今日は二日目である。


 観光から戻り夕食をとろうと向かった一階の食事処は丁度夕食時でとてもにぎわっていた。

 メニュー表などはなく壁に貼られた絵と、適当に肉、サラダ、パンといった感じで注文していく。

 どこの店も注文の定番がきまっているらしい。


 慣れているクロ助に全てお任せじゃ


 早速運ばれてくる食事に手を付ける。言葉通り手をつける。


「なんか、味気ないよな」

「おばあちゃんの料理の方がおいしいですね」


 ここらの料理は基本食材をそのまま茹でる焼く揚げるのどれかである。

 後は硬いパンそして、豆やトマトでできたスープ。


 味付けはほぼしてない。

 かわりに調味料がテーブルにたくさん置いてあり、味付けは各自でどうぞといった考えのようだ。


 他人様の作った料理に調味料をかけるなんて、とても失礼な気がして気が引けるのだが、あー坊達をみると思い思いの調味料を次から次へとかけているので、そういうものらしい。


 見たことない調味料がたくさんあったので、おすすめを聞きながらかけてみる。

 途中あー坊とクロ助の間で揚げた鶏に何が合うかで論争が起こり、どちらも味わってみたがあー坊の方は甘酸っぱく、クロ助の方は甘辛かった。どちらも好みじゃなかったので塩コショウで食べた。


 揚げる前に塩コショウしたかったの。


 そのまま揚げているでいで生臭さが残ってしまっている。



「前まで、こんなのでもすごいごちそうに見えてたのになあ」


 そんなことをあー坊がもらした。




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