ネジが飛んでいる

「アイツ何者だ?」


 横を歩くクロに尋ねる。

 おっぱい女と別れ、やっと落ち着いて話ができる。


「プロパ=フェノン Ⅰ群ですね」


 まーたⅠ群か。


「Ⅰ群って頭おかしい奴多いのか」


 クロは痛いところ突かれたという顔をした。


「そう見えます?」


「ああ」


 気まずい汗をかいているクロの横顔をじぃーっと見つめる。


「……大体みんなおかしいです」


 堪忍したクロはため息とともに吐き出した。


 やっぱり。


「そもそも、まともなの人は『兵器』にならないですからね。良識の範囲でブレーキかけますから」


 かけないどころか暴走を加速させるⅠ群はどこか頭のネジが飛んでいると。なるほど納得。



「巻き込んですみません」

「いや、まあ……」


 クロは申し訳なさそうだったが、正直いい経験になった。

 我ながら矛盾しているが、クロがいない状態であんなのに絡まれたくない。


 最後の女は謎のままだが。


「あの人には近づかない方がいいですよ」


 クロがそんな忠告をしてきた。

 あの人どころかⅠ群には近づかないようにしようと心に決めたところですが。


「あの人は男を誘惑して操ります」


 誘惑して……?


 目の前に広がる峡谷を思い出す。というか、もはやおっぱいしか思い出せない。



「えーっとその、それって魔法か?」


 顔が赤くなるのを自覚しながら、なんとか考えをまとめる。


「魔法です」



 マジか。そんな魔法まであるのか。


「魔法はその人のイメージですからね。イメージしやすい四元素魔法が主流になってるだけで基本何でもできます」


「なんでも?」

「イメージ出来ればですけどね」



 そうか、なんでもか。


 すごいな魔法って……



 魔法に感心しながら腕を組んで歩いていると、



「やはり魔法使いになりたいですか?」


 とクロが聞いてきた。心なしか寂しげだ。


「やはり」ってなんだそんなに魔法使い人気なのか。


「いや、俺は剣士がいい」



 もっとカッコイイ魔法使いに出会ってたら意見が変わってたかもしれないが、あのイニド姉弟を見た後だと印象が悪すぎた。その上、あのエロ女だ。


 これだけの情報量で質問したら十中八九の子供が剣士と答えるだろう。

 理由は単純クロの方が断然かっこいい。目指すならクロの方だ。本人には口が裂けても言わないが。


「それなら、よかったです」


 俺の返事を聞いて安心した表情をした。


「……魔法使いに嫌な思い出があるのか」


「いえ、肩身がせまいので」


「どういうことだ?」

「……言ったらやめると言われそうなので言いません」

「知ってるか?そういうのを詐欺って言うんだぜ」


「……」


 おもいきり目をそらされた。



 ……魔法使いになりたくなったわ




 ◆




「ところで、キクはどこだ?」


 元いた場所にもどっても姿が見えないのでクロに尋ねる。


 あんな見事な罠をしかけておいて本人は一体どこで何をやっているんだ?


 クロは崖っぷちへ歩み寄り下を指さした。


 のぞき込んでみると、確かにキクがいた。

 木々が邪魔をしてよく見えなかったが銀髪がゴソゴソ動くのが見えた。


 なんでアイツあんなところにいるんだ?


 俺らも下に降りてキクを迎えに行く。

 それにしても近くであんなにドンパチしていたのに、全く気付かなかったのか?

 キクらしいと言えばらしいのだが。


 キクは一人穴掘りに没頭していた。



 一体今度は何をはじめたんだ?

 なんでもいいが、そろそろ出発しないと日が沈む。


「おーいそろそろ、行くぞー」

 キクの背中に声をかけたが、聞こえていないようだ。


「おい」


 いい加減やめろと、腕をつかむとヒステリックに振りほどかれて驚く


 また一心不乱に掘り続ける。


 素手で掘っているため、爪が剥げて血も出てるのにお構いなしだ。


 まるで狂気の沙汰だ。


「なに?そんないいものが埋まってんの?」


 またよくわからん根っこの塊でもあったか?


 前に回って穴をのぞき込んでみるが何かあるようには見えなかった。



 俺の声にキクがやっとこちらを見た。


 上げた顔を見てわかった。

 コイツ、俺が生き埋めになったと思ったんだ。


 よく見ればここは俺が土砂とともに落ちてきた場所だわ。

 ここら一体だけ地面が新しく土砂が上から崩れたとわかる。

 タイミング悪く、さっき飛んで行った俺の上着が燃え残って落ちていた。


 キクは涙と鼻水と泥でぐちゃぐちゃになった顔で、まるで幽霊でも見たような目で俺を見上げていた



 馬っ鹿だなあ


「なに?俺が死んだと思った?」


 ぶっと笑うと、

 鼻の穴を拡げ、大きく息を吸い込み胸をふくらませたキクはキッと目を吊り上げた。


「どこ行っとったんじゃーーー!心配かけよってーーー!!」


 あまりの大声に耳の鼓膜が破れるんじゃないかと思った。

 両手で耳をふさいでいたら、頭をどつかれた。


「遠くに行くなら声かけて行かんかいっっ!」


 続けてクロの脛を蹴ったキクは、ドスドス足を踏み鳴らしながら馬車の方へ歩いて行った。


 プンプンと肩を怒らせて歩くキクを見送り、頭を擦りながらクロをチラリと見るとクロも脛を擦りながら俺をチラリと見ていて吹き出す。



 癒されるなあ


 あんな変な女と会った後だと余計に可愛く感じるな。





 キクは崖から無理に降りたのか、打撲と切り傷があちこちに見受けられた。


 たぶん俺らの中で一番負傷している。

 おでこにできた大きなタンコブとか見るたびに変色していって痛々しい。


 クロが回復魔法をかけようとしていたが「こんなん唾つけときゃ治るわ」と取り付く島もなかった。


 二人がかりで謝ったが町に着くまでずっと拗ねていた。


 結局魔法がかけれたのはキクが寝静まってからだった。



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