おっぱい女
「お前がこっちの方が近いなんて言うから」
「道なんて知るわけないでしょ」
「適当なこと言いやがって」
「はあ?近そうって言っただけだし」
「なのにあんたが勝手にこっちに向かったんじゃない」
「てっきり道知ってるんだと思うだろうが!」
「だから知るわけないつーの!!」
「知るかよそんなこと!!」
「ほら、勘違いしたアンタのせいじゃない」
「紛らわしいお前のせいだろ」
どうやらこの二人、どこかに向かってる途中で迷子になりその責任の押し付け合いで喧嘩していたようだ。そして俺はその流れ弾にあたってしまったと。
なんて迷惑な奴らだ。
キクの罠から降ろしたイニド姉弟を、身動きが取れないように縄でグルグル巻きにした所で二人は目を覚ました。もちろん魔法石は没収している。
それからはずっと二人のくだらない言い合いが続いている。
「うっさい!」
あまりの五月蠅さに、つい口を出してしまった。
とたんアホの矛先が自分に向き、俺は激しく後悔した。
「テメーの方がうっさいわバーカ!」
「これが黙っていられるかバーカ!」
「殺すなら殺せバーカ!」
「死ぬのが怖くて魔法使いやってられるかバーカ!」
「死んでもこの口は閉じねーからなバーカ!」
「世の中なんでも思い通りになると思うなよバーカ!」
「こっち見んなバーカ!」
バーカバーカ
こいつら、俺より年上だよな。
知能レベル低すぎだろ。
低能には低能な対応をお返しすべきだろう。
「おしっこかけるぞ~」
一瞬にして二人は口を閉じた。
「こいつらどうする?」
やっと静かになったと、クロの方を見ると口を押え肩を震わせていた。
イラッとしたので裏拳を入れるとカエルがつぶれたような声を出した。
ちょうどいい位置に鳩尾があるから仕方ない。
「この二人のことなら放置しておきましょう」
「お迎えが来たようですから」
そういって右後方の森に視線をやる。誰もいないように見えるのだが、クロの目は確信をもってそちらを向いている
しばらくすると、森の奥から人影がこちらへとやってきた。
「っっっ!!!」
現れたのはものすごい美女だった。
絶世の美女といっても過言ではない。
足なっげぇ、胸でっけぇ、顔ちっちぇ
世に言うボンキュッボン体形。
そして本人の自信の表れなのか、非常に露出度の高い恰好をしていた。
要所が隠れてれば良いって問題じゃないだろ。
エロすぎる。
一体どこに目をやればいいんだ
美女はクロの方をじっと見ながらゆっくり近づいてくる。
近づいてくる。
まだ
近づいてくる。
あと半歩でクロとぶつかる所まで来たところで
「こんにちは。プロパ=フェノンさん」
そういってクロが一歩下がった。
それを見た女の眉が下がりの唇の両端がきゅっと上がる
「クロ……会いたかったわ」
女は一歩半を一気に詰めて、クロに重なった。
「まさか、こんなところで会えるなんて」
クロに腕をまわした美女は、ルージュの唇で頬にキスをおとす。
あいさつのハグ&キスはそこまで珍しくはないが、この美女がすると卑猥に見える。
「運命 感じちゃう」
クロの知り合いか? どういった関係だ?
「相変わらずのようですね」
諦め顔で身を引いたクロは頬についた紅をぞんざいに拭った。
「ええ。変わらないわ」
無粋なクロの行為を特に気にする様子もなく、クロを見る目が細くなる。
「あなたは『らしく』ないようだけど?」
「あんな雑魚に手こずってどうしたの?調子がわるいの?」
それまでおとなしかったイニド姉弟が「雑魚って誰のことだ」と再びぎゃあぎゃあわめき始めたが、美女がチラリと視線をやるだけで静かになった。
その二人様子だけで、この美女が只者ではないことがわかる。
「相手が口を開く前に首をはねるのが貴方の定石なのに」
美女の長い指がクロの胸を伝う。なにか行動一つ一つがいやらしい
「私がこんなに近くに寄っても動かないなんて」
背伸びをしてクロの耳に唇を寄せる。
「もしかして、溜まってるの?」
お相手してあげましょうか?と小さな声で言っていたが、聞こえてる聞こえてる
「それとも……」
クロの肩越しに俺に目を向けてきた。
うわっこっち見んな
「その子が見てるから?」
エロ女はそんなことを言った。
は? 俺?
「相手が手を出す前に殺しちゃったら流石に体裁悪いものねえ」
エロ女の指がねっとりとクロの顔の輪郭をなぞる。
「あの子の前では正義の味方のふりしたかったのよねえ。かわいい」
クロの腕がエロ女を振り払った。
それをフワリとかわしたエロ女は「図星だった?」とくすくす笑う
「そうそうその目よ。ゾクゾクしちゃう」
クロの顔がどんな顔をしてたかは、背を向けてるため見えないが、それをみたエロ女は恍惚した表情を浮かべていた。
非常に気になるが前に回って見るわけにもいかない。
「今夜、私と熱い夜を過ごさない?」
「いえ、一人で静かな夜を過ごす方がいいです」
「そう?残念」
つれないクロの返事に、案外あっさりと手を引いたエロ女は、こんどは俺の方に近づいてきた。
ゲッ
エロ女は俺の前で立ち止まると、上半身だけかがめて顔をのぞき込んできた。
ふわりと甘い香りが香る
あまりに顔が近すぎて、俺はドギマギしながら後ずさった。
「ふうん。なかなか好い顔つきしてるじゃない」
む、胸が。
やばい。駄目だと思うのに視線が谷間に吸い込まれていく。
唐突にクロの刀がおっぱい女の首筋をとらえた。
「触らないでください」
見ると、気が付かないうちにおっぱいの手が俺の頬へと伸ばされていた。
何か、やばいのか?
明らかなクロの警戒の構えに、俺もおっぱいの手が触れる前に遠ざかる。
「冗談よ。じょ・う・だ・ん」
おっぱいはクスクスと笑いながらクロの腕に絡みつく。
……クロはあんなにベタベタ触られているけどな。
豊満な胸の谷間にクロの腕がはさまれている。
べ、べつに羨ましくなんかないんだからなっ
「でも本当殺さなくてもいいの?」
楽し気だったおっぱいは、つと真顔にかわった。
そっとクロの耳に囁く
「今、殺しておかないと、後で後悔するかもよ?」
「……っ」
苦々しい顔をしたが結局クロは動かなかった。
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