日本に帰りたい

「おまいさん日本じ……」

「いえ、日本じゃないですね」


 いきなり出鼻をくじかれた。

 目をパチクリさせる。


 日本じゃない?


「イミダゾールからです」


「はあ?おまっイミダゾールってどんだけ遠いと思ってるんだよ」


 傍で聞いていたあー坊が驚きの声をあげた。


「たった数日で往復したってのか!?」



「イミダゾール?」

 話についていけなくて、二人に説明を求める。

 イミダゾールはここらでは最先端の技術をもった魔法都市国家のことらしい。


 そう言えば、ラナもイミダゾール製がどうとの言っておったな。


 わしは期待に胸を膨らませた。


「そこには飛行場はあるのかの?」

「残念ながら飛行機は飛んでませんね」

「そうか……」


 期待がはずれた。


 だが、まだ可能性は残っている。

 クロはやはり飛行機を知っていた。

 ここに来て初めて「飛行機」を理解してくれる人に出会ったのだ。


「クロはどこか飛行機が飛んでいるところ知らんか?」

「知らないです」

「噂を耳にしたりとかは?」

「すみません」


 クロの行動範囲そして情報網をもってしても知らないという。


「……飛行機に乗りたいんですか?」

 シュンとするわしにクロが気遣う声をかけてくる。



「日本に帰りたいんじゃ」

「日本にですか」


「日本への帰り方、知ってたら教えてくれんか」

 期待の眼差しでクロをみるが「力になれなくてすみません」と申し訳なさそうに言われた。


「ここは嫌ですか?」

「嫌ってわけじゃないけどの、故郷はやはり恋しいの」


 クロの「そうですか……」という声とともに沈黙が落ちた。



 頭に浮かんだ帰るための光明が全て消えた。





 ただ二人に喋ったことで少しばかりスッキリした。


 今は無理じゃが、もし、帰れるとなった場合二人はどうするか聞いてみる。


「ニホンに行ってもばあちゃんと一緒に住んでいいんだよな?」

 もちろんじゃと頷くと「なら、一緒に行く!」と嬉しいことを言ってくれる。


 対し、クロは「僕は、おばあちゃんと一緒には行けませんね」とのこと。


 まあ、そうじゃろうな。

 クロは日本人だとしてもここに馴染みきっている。地位もある仕事もある。

 ここに残ると言われても特に驚きはしない。


「場合によっては止めにかかる事になると思うので悪しからず」


 その言葉に目を丸くする。


「なぜじゃ!」

「おばあちゃんの安全のためとでも言っておきましょうか」


 そういえば、クロはわしを老人ホームに入れたいんじゃったな。


 しもうた。

 遠い日本に旅立とうとしてるなんて知ったら、止めようとしてもおかしくない。

 余計な事を言ってしもうたかもしれん。


「今のは冗談じゃよ」

 と笑って誤魔化してみるが、クロの目を見る限りたぶん誤魔化せていない。


 クロには悪いが旅立つときはこっそりとじゃ。

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