フランのシステム

 クマリンにつくと最初にフランに連れていかれた。

「僕がいない間の護衛を頼むやり方教えておきます。仕事で抜けることもあるので」


 護衛の依頼の仕方だ。

 紙に仕事の内容と、報酬金額、希望の階級を記入して窓口へ持っていく

 揉事防止のため報酬は先にフランに渡しておく決まりになっているらしい。


 行列ができている窓口の大方は、字が書けない読めない人の列だという。


 壁の張り紙も絵と金額、階級が大きく書かれており一目でわかるようになっている。

 この国はずいぶんと字が読めない人が多いようだ。


 あー坊は普通に読んでいるようだが。


「ここらには学校はないのかい?」


 もしあるならどうにか通わせてあげたいのだが。


「あるところもありますが、大体が金持ちだけですね」


 教育とは金持ちが独自でうけるものらしい。これでは貧富の差ができて当然じゃ。

 そう考えると、あー坊はわしがしっかり教えてやらねばなるまい。


「あの、おばあちゃん? 話続けていいですか?」

「やはり九九からはじめるべきかの」


 腕を組んで今後の教育方針に頭を悩ませる。足し算引き算は出来るようではある


「……そうですね、九九は大事ですね」


 クロ助の同意に顔をあげる。


「そうじゃよな!やはり九九からじゃ!」


「え、最初はⅣ群からって書いてあるぞ?」


フランの利用規約を読んでいたあー坊がこちらを振り返る。


「一体何の話じゃ!」

「こっちのセリフだ!」



 そういえば護衛の頼み方の話をしとったの。わしの方が脱線しとったか。


 それでどのランクの護衛を頼むかの話だ


 Ⅰ群 Ⅱ群 Ⅲ群 Ⅳ群とランクにわけられており登録してすぐはⅣ群。

 そこから手柄や経験によってランクが上がっていく仕組みになっているらしい。


「なら、Ⅰ群頼めば間違いないかの」

「間違いないですけど、高いですよ?」

「いくらくらいじゃ?」

「単発で、何千万ドパはしたかと」


 絶句。


「そんなの誰が雇うんだよ」

「主に国ですかね。戦になった時、Ⅰ群いるかいないかで勝敗を分けますから軽く兵器扱いです」

「Ⅰ群はキープの意味でも国が大金払ってお抱えにしようとするので、フリーはなかなか見つかりませんよ」

 じゃあ、どうすればいいんじゃ?


「心配しなくてもこの周辺だとⅢ群でも十分務まります」


 Ⅳ群は素人から初登録の猛者までとピンキリなので護衛で使うのはやめておいた方がいいとの忠告があった


「遠くに出かけたい時はⅡ群が一人いたら非常に心強いです。雇うのに多少お金はかかりますけどね。

 突然強いモンスターに出くわしたとき、経験の差でⅢ群が何人いても手に負えないことがあります。Ⅱ群は経験を重ねないとなれないので」


「ちなみにクロ助はどこじゃ?」

「僕はⅠ群ですね」

「おお!クロ助はすごいんじゃな!」と褒めると「どうも」と照れていた



「……俺ら、超贅沢してね?」







「俺も登録しようかな」


 あー坊の言葉に驚く


「なんでじゃ!?そんなんせんでええ」

「おもしろそうじゃん」

「全然面白くないぞ。命かける順位付けしとるだけじゃないか」

「オリンピックとはわけが違うぞ」


「おりん……?」

「野球選手でも、サッカー選手でも、何でもなりゃええ。それならばあちゃんも応援してやろう」

「でも、これはいかんぞ!」

「ばあちゃん、ちょっと落ち着けって、え?なんだって?」


 これが、落ち着いていられるもんかい。


「ええか、あー坊!平穏な日常が一番なんじゃ」

「そんなのつまんねーよ」

「詰まってなくてええんじゃ。死んだらそこで終わりなんじゃぞ?」


「おい、クロ何か言ってやって」


 あー坊はフランの大ベテランのクロ助に助けを求めた。


「僕もおばあちゃんの言うことに同感です。普通に考えたらこんな金額で命かけるなんて割に合わない」


「そりゃ、クロから見ればな」


 何千万ドパも稼げる人から見ればはした金だろうけどさあ……とあー坊の口が尖る。


「なら、来てみますか?Ⅰ群レベルが次々に即死していく世界ですが」

 クロは目を細めてあー坊の妬みと羨望の視線を受ける。


 わしはたとえどんな大金積まれても戦争の最前線に行こうとは思わない。

 行かせようとも思わない

 そんなのは物好きにまかせときゃええ

 大金など必要ないから、安全で心静かに生きる方がいい


「それなのになぜか、この血生臭い世界が楽しい世界に見えて来るんですよね」

「目が覚めるのは、痛くて苦しくてでももう助からない今際の時です。涙を流して語る人を何人も見てきました」

「おばあちゃんの感覚の方が正常なんですよ。アトル君の感覚は酔狂と言うんです」


 クロ助の真っ当な意見にほっと胸をなでおろす。

 ここでクロ助に「楽しいから入れ」などと言われたらどうしようかと思ってたところじゃ


「なんでクロはまだやってるんだよ」

「僕はもう戻れないんですよ」

 そう言って笑うⅠ群に複雑な感情を見る。歳のわりに酸いも甘いも噛み分けた表情をしていた。


「じゃあ、クロも俺の登録には反対なのか」


「僕としては絶対反対なわけじゃないですけど。目的ではなく、手段として使うのはありだとおもいますよ」


 そこは、はっきりきっぱり反対と言わんとな!こういうところはクロ助もまだまだ青い。



 最初の気持ちはどうであれ、呑まれるに決まっておる。

 人は朱に交われば赤くなるのじゃ!


「絶対無しじゃ!」


 わしの断固反対の姿勢に、今回の登録はあきらめてくれた。

 あくまでも、「今回の」である。

 あー坊が虎視眈々と狙おうとしているのがわかる。目を光らせておかねば。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る