異世界姫スキル無双(プロトタイプ) ②

 みたいなやり取りを、唐突に『思い出した』のは。つい昨日、8歳の誕生日の出来事だ。ついでに、『自分じゃない人生』の記憶が、ごっそりと頭に流れ込んでくるような感覚があった。そしてその後、熱を出して数日寝込んだ。

 今でもまだ、寝物語に聞いたお話のようで、『自分のもの』という覚えは無いけれど。確かに、それは自分のものだと、頭の中のどこかが主張していた。

「……随分と冴えない男だったのね、昔の『わたし』は」

 ベッドの上で早咲きの百合の花を嗅ぎながら、わたしは呟く。この意識もそのうち、『自分ではない自分』と溶け合って消えてしまうのだろう。なんとなく、そんな予感がする。

「でも、納得はいったかも」

 『姫スキル』とかいったのか。この、は。

 今の、『自分ではない自分』の知識がある状態なら。わたしは、わたしに何が起こったのかを、認識することができる。

 私は、『この世界』では、ただのパン屋の娘として生まれた。皆から「かわいい」「かわいい」とちやほやされて育ってきたし、客観的に見ても、まぁ、悪くない容姿をしていると思う。特に、ずっとのばしている銀色の髪は。父親にも母親にも似ていないけれど、私の自慢だ。

 だから、周りが優しいのは当たり前だと思っていたし、可愛がられるのも自然なことだと思っていた。ただ、私の場合は、どう考えても

 3歳の時。私に忠誠を誓う騎士が現れた。といっても、少し年上の男の子だったのだけど。その関係は、今も続いている。というか、騎士団ができている。

 4歳の時。領主さまに、『店』を貰った。新しいパン屋は木のいい匂いがして、今日も私のベッドまで、パンの香りが漂ってくる。

 領主さまの行動の理由は、その時の私にはわからなかったが、今ならわかる。この髪が、父にも母にも似ていないから。私は、どこかの貴族の落胤ではないかという噂が流れているのだ。『前のわたし』の知識によれば、これはアルビノという生まれつきの遺伝子異常らしい。ただ、それだけの筈なのに。

 私は、ベッドから身体を起こして、部屋を見回す。

 わずか8歳にして、私の部屋は、高価な貢物で溢れるようになっていた。どこかの王女ではなく、ただの平民の、少し道具いじりが好きなだけのパン屋の娘の部屋がだ。


 異常だった。そして、今の私には、この騒動が拡大したときにどうなるか。『先』がなんとなく見えてしまっていた。

 だから、もしかすると。こんな時に『前のわたし』が起きたのは、必然だったのかもしれない。

 次に目覚めた時。私は、新しいわたしになっているのだろう。

 『姫スキル・レベル5』。この力は、私にとっては呪いの力だった。

「……それでも、それとも」 

 新しい『わたし』なら。この呪いに満ちた人生を、良いものにしてくれるのだろうか。

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