3.
記憶力はあんまりいい方ではないが、昨日観た白鳥の湖はあまりにも俺にとっては衝撃的で、すべてを忘れず覚えていた。
曲、動き、表情、衣装、会場の雰囲気、匂いまでも
すべてが頭に焼きついていて離れない。
確かに父さんや彰や裕輔が言うように、俺はおかしいのかもしれない。
普通の男はバレエなんてやってみたいと思わない。
それでも俺は一晩経った今でも、昨日の情景がまるで今見ているかのように思い出せる。
どうしてもバレエをしてみたい。あんな三人、放っておけばいいんだ。
俺はバレエがしてみたい。あの世界の一部になりたい。
だけど仲間外れは嫌だ。クラスのみんなにバカにされるのも嫌だ。
どうしよう。
そうだ。もう彰たちには言わない。もちろん父さんにもだ。バレエのことは秘密にすればいい。
ようやく答えを出してスッキリしてもまた父さんや裕輔のオカマやオネエなどと言った言葉を思い出し、俺は違う、と一人むしゃくしゃするのだった。
帰り道、白鳥の湖の音楽を口ずさみながら、誰も俺を見ていないことを確認して昨日観た動きの真似をしてみる。
跳んでみた。どうにもあんなに高くは跳べなかった。
家に帰ると母さんがリビングにあるパソコンの前に座っていた。
「あ、おかえりなさい。近所にあるバレエ教室を探してたの。一番近い教室に電話をかけてみたんだけど、電話に出なかったからちょうど今、もう一つの教室に電話をかけようと思っていたの。」
母さんが電話をかけた。
なぜだか俺は口から心臓が出そうなほど緊張した。
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