魔法少女の番外編

げじげじ

1話目

「人間を人間足らしめているものは、酒とアニメとショタである」

目の前のチラシの裏には、そんな名言が記されていた。

凡そ人が書いたとは思えない、恐らく私の筆跡で書かれたそれを、クシャクシャに丸めてゴミ箱に捨てる。


最悪の気分だ。二日酔いで頭がガンガンする。

今日が休みだからっつって、朝まで飲んだんだっけ。

水道水をコップ一杯に注ぎ、腰に手を当て一気に口に入れる。

「ゲホッ、ゲホッ」

流石に一気飲みは馬鹿だった……むせた……


確か頭痛薬は切らしてたっけ。まあ、買いに行くのもめんどくさい。

それよりもご飯だご飯。

「お腹と背中がひっつくぞ~っと……マジか」

冷蔵庫の中身は、ビールと酒のつまみで占領されていた。


取り敢えずジャーキーを手にとって、ビールも手にとって……流石にこの体調でアルコールを入れるのはやばいか。

ジャーキーを肴に水道水を飲むか。笑えない。

ジャーキーの次はチーズ、チーズの次は柿ピー、柿ピーの次は……

うっそ。家にある食料これだけ?

「……しゃーない。買いに行こう」


玄関に行って、靴を履き、ドアノブを開け……る所で、自分の格好に気づいた。

ショタisゴッドTシャツに、パンツ丸出し。

流石にこれで外出をすれば、人権を失ってしまう。

「……着替えるか」


取り敢えず適当なジャージを履いて、上は……このシャツの山から見つけるか。

「洗濯してなくても死にはしない死にはしな……うぉっと」

足元のゴミに躓いた拍子に、シャツの山へと頭から突っ込んだ。

変な生臭さがするが、適度な柔らかさで居心地は悪くない。

このままシャツの精にでもなってしまおうか。

そんな馬鹿なことを考えていると、タンスの上に飾られた、一枚の写真が目についた。


五人の男女が写っていて、その真ん中には私が居る。

大きなトロフィーを両手で掲げて、太陽みたいに眩しい笑顔を浮かべて。


「どーしてこうなったんだろ」

またこの台詞の連続記録の更新だ。

昔は懐古厨なんて、汚らわしいものを見る目で見てたけど、まさか私が見られる側になるなんて。


写真の私は化粧ノリがよくて、精一杯のおめかしがキラキラしてる。

あの時は確か、明日が来るのが楽しみすぎて、眠れない日もあったっけ。


「……――うぅ……」

両手で顔を覆って、唸り声をあげる。

もうヤダ。寝よ。

明日目が覚めたら、きっと写真の日々に戻ってるさ。




「残念だけど、それは少し難しいかもね」

何処からかそんな声が聞こえた。

あの声の高さ、柔らかさ、しなやかさ。

この音色にはショタの匂いが染み付いている。


「やあお姉さん。初めまして」

「は、初めまして……」

目の前には、尊いという字を擬人化したようなショタが立っていた。

妖精……天使……いや、これは日本語では表すことが出来ない。

というか人の話せる言葉じゃきつい。宇宙語もってこい。


「何処から話そっかな……あっ、そうか。まずは謝らないとね。ごめんなさい。突然夢の中に入り込んだりして」

「ご、ごめんなんて……全然大丈夫だよ!そんなことより、君は何処から来たの?何歳?身長何センチ?まだお母さんとは一緒にお風呂に入る?」

「えっと……」

おっとマズイマズイ。明らかにドン引きされてるぞ私。

引っ込め私の中に眠る怪物よ。


「あーっと、失礼。何か話したいことがあるんだよね?どうぞどうぞ」

「うん、そこまで構えてもらう必要はないんだけどね」

そうは言われても、こっちとしては一言一句逃さないように、耳に全神経を集中しないと。


「そうだなぁ。まずは、僕よりもこの場所のことに触れたほうが良いかな」

彼に言われて、私は初めて周囲を見渡した。


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魔法少女の番外編 げじげじ @underG

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