アザミの家にて

アザミの家は、鍵がかかっていなかった。


意を決して中に入ると、鼻を突き刺すような不快な臭いがした。

具体的に言うなら、血の臭い。


ゆっくりと、一歩ずつ進む。

床がギシリ、と軋むと心が跳ね上がる。


リビングからかすかに声がした。

多分……いいや。

間違いなく、アザミの声。

俺は急いでリビングに向かう。


リビングは酷い有様だった。


まさか、『悪魔』の仕業?

唐突に出てきた思考を引っ込める。それよりもやる事がある。


壁は赤黒い血で飾られていた。

家具はバラバラになっていた。

けれど、バラバラになった家具は、不規則に見えて、一つの道を作っていた。

まるで誘っているように。


道のゴールには、アザミが横たわっていた。

黒を基調とした魔法学校指定のローブを纏っている。

その下には白い肌が見える。

ところどころ、血が飛んでいた。


――だれ……?


俺が近づいたことが合図だったように、アザミが言葉を発した。



俺は、その言葉に背中を押された。


気がした。

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