魔法学校にて


ホームルームの後。

見知らぬ教師に声を掛けられた。

話してみるとその教師は『アザミ』の担任の教師だという。


アザミ。

俺の数少ない友人だ。そして、アザミにとっても俺は数少ない友人だ。

廊下で会ったらよく挨拶をしていた(俺もアザミも人見知りだから滅多に人に挨拶しないのだ)。

魔法実技ではトップ。筆記試験に関しても平均点以上。俺とは大違いだ。

…そういや最近見てないな、と思う。


で、アザミがどうかしたのですか、と担任に聞いた。

すると担任は、沈痛な面持ちで


――アザミが不登校になった


と言った。



ハ?

いやいやいや。

ないない。

え?


思考が、凍りついていた。


……だって、なぁ、そうだろ?


不登校とか引き篭もりなんてモノはどこか向こうの世界の出来事で、俺たちとは無縁のモノなのだ。

平凡な生活を送る俺たちとはまったくの無関係。

大昔のおとぎ話で、畑を耕すだけの村人わきやくが魔王を討伐するはずがないのだ。

絶対に。


……永久にも思えた思考凍結は、担任の質問によって強制解凍した。


――アザミは、不登校になった。何か原因を知らないか?


俺にはまるで心当たりが無かった。

そもそも、魔法学校に入学してからはクラスが異なっていたため、遊ぶ機会が減っていた。

年頃の男子が女子を誘うということへの躊躇もあった。

心当たりが出来るはずがない。


わからない、としか言いようが無かった。


担任は残念そうに帰っていった。最後に言葉を残して。


――私がアザミの家を訪ねても彼女は出てくれなかった。でも、友人の君なら。


はぁ。


俺はため息をついて、どうしたもんかねぇ、と心の中で呟いた。




……おい。まて。今。

俺はなんと言った?

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