おいでよ!ソシャゲ学校!!

ちびまるフォイ

スクールカーストが人気直撃!

『本日も登校ありがとうございます!

 ログインボーナス:人気ポイント10ptプレゼント!』


校門を過ぎるといつも通りの報酬を受け取った。

ここはソシャゲ学校。僕の通う学校だ。


「みんなーー。席につけーー」


先生が教室に入ってくると、みんな筆記用具を机に出し始めた。


「よし、昨日言っていたように今日はテストを行う。

 テスト用紙を引くから、出席番号順に引きに来い。じゃあ、赤石」


「はい」


僕は席を立ってテストガチャへと手を入れる。

初回は無料。人気ポイントは消費しない。


「うっ……!」


引いたテストは★5の超難関テスト。顔が引きつる。


「どうした赤石。ポイント使って引き直すか?」


「いえ……頑張ります……」


「せんせー。確率しぶってんじゃねぇのーー?」

「バカ野郎! そんなことするか! いいいから次引け!」


生徒全員がテストを引き終わるまで問題を眺めていたが、

★5というだけあってどの問題もちんぷんかんぷんだ。


(ああ、人気ポイントをケチらずに引き直せばよかった……)


人気ポイントが高いクラスの男子は、

テストガチャを何度も何度も引き直して簡単なテストを引き当てた。


「っしゃーー! 小学生レベルの問題だ!!」


「それじゃ、テストはじめ!!」


 ・ 

 ・

 ・


廊下に成績上位と下位が張り出される。


「やっぱりか……」


僕の成績は下から見たほうがずっと早い。★5のテストに挑むんじゃなかった。

★1のテストを引き当てた輪島は笑顔でやって来た。


「赤石、まぁそう気を落とすなよ、なっ?」


「う、うん……」


「それに今日はクラスの人気投票だろ?

 俺はお前に入れてやったからな、安心しろよ。

 きっとランキング報酬の人気ポイントもらえるはずだ」


「ほ、ほんと!?」


教室に戻ると、まさにクラス人気投票結果の集計中だった。


テストガチャを引き直すことができる人気ポイント。

貯める方法はいくつかあるが、とくにクラス人気投票での獲得量が一番多い。


クラスの人気投票順にランキングが発表されて、

ランキングに応じて人気ポイントが配布される。


だいたいは0票とかの下層で固まるため1票でもあれば、ポイントはもらえる。


「今期のクラス人気投票結果を発表します。

 まず、クラス1位は――輪島くん!」


クラスの女子からは黄色い歓声、男子からは羨望のまなざし。

結果発表は続くもいっこうに僕の名前は出てこない。


「……はい。以上でランキング発表を終わります。

 これ以下は0票なので、人気ポイントは付与されません」


「ちょ、ちょっと待ってください! 僕に1票は!? 数え間違えてないですか!?」


慌てて詰め寄ると、人気者の輪島が投票用紙を持ってやってきた。


「ごっめーーん。赤石、マジごめんなぁ。

 俺、投票したと思ってたけど、紙を机の中に入れっぱなしだったわ」


「そんな……」


「ま、お前も人を当てにせずに自分の力で人気を取ってみろってんだよ。

 あーっはっはっはっは!!」


輪島の投票しなかった紙には僕の名前なんて書かれていなかった。

ただ「クラスの生ごみ」とだけ書かれていた。


負けるもんか。

こうなったら、必ずこいつより上に行ってやる。


学校から帰るとまっすぐ勉強机へとかじりついた。


「サトシ、晩御飯は?」


「勉強してから食べる!!」


テストガチャで簡単なテストを引き当てられなくってもいい、

難しいテストを引いても答えられるように勉強すればいいだけのこと。


良い点数を取れば人気ランキングも上がって人気ポイントを手に入れられる。


「うおおお! 負けるかぁぁ!!」


クラスメートを見返したいという反逆心が勉強へと転化された。

次のテストがはじまると、出席番号1番の僕が呼ばれた。


「よし……引きます」


「ため込んでるなけなしの人気ポイント使わなくていいのかーー?」


どっ、とクラスが笑いに包まれる。

そうやって嘲笑してられるのも今の内だ。お前らよりいい点取って……。


「う゛っ……!!」


引いたのは★5のテスト。ふたたび最難関のテスト。


「人気ポイント使って引き直すか?」


「い、いえ! このままでいいです!」


ここで簡単な方に流れれば見返せない。

他のクラスメートは人気ポイントを使って引き直す。


「では、テストはじめ!」





結果、惨敗。


「すごーーい! 輪島くん、また満点なんだねーー!」


「いやぁ、テストが簡単だったからさ」


廊下に張り出されるテストの結果には、受けたテストの★の数までは出ない。

★5のテストを受けようが、★1のテストを受けようが、いい成績の人が上に表示される。


「うう……こんなに難しいなんて……」


あれだけ勉強しても太刀打ちできなかった。

テスト後に行われるクラス人気投票では輪島派閥が多くを占め、僕には1票も入らなかった。


「あいつ、名前なんだっけ?」

「がり勉の赤石でしょ」

「うわっ、こっち見た! きもーい!」


蜘蛛の子を散らすようにクラスメートは逃げていく。

僕は自分の誤算にやっと気づいた。


良い成績を取るために勉強に必死になるあまり交友関係をおざなりにしていた。


僕が家で必死に勉強している間にもクラスメートは親交を深め、

お互いに投票し合えるような関係へと進んでいった。

一方で僕に仲間はいない。


「む、無理だ……。仮にこれから必死に勉強したとしても勝てっこない……」


ソシャゲ学校の学生生活に暗雲が立ち込めた。




以来、僕はクラスメートにいじめられるようになった。


「バカ石ぃ。お前、そんなに勉強したってどうせテスト0点なんだろ?」


「バカ石。お前、次の進級試験で留年決定だな! あははは!」


「なにログインボーナスだけもらいに登校してるわけ?

 お前ごときが人気ポイントため込んだところで意味ねぇよ!」


ポイントを貯めるばかりで、テストガチャで使わないことでケチのイメージがつき

必死に勉強しているのに成績が低いということで、からかうには格好の標的だった。


クラスメート全員が僕の敵になっている。

いまや、ランキングでポイントを得ることなど不可能の四面楚歌。


「バカ石、お前ずいぶん人気ポイント貯めてるなぁ」


輪島がニヤニヤしながら肩を組んできた。


「なぁ、ポイントを俺にわけてくれよ。貯めるばかりで使わないじゃないか。

 通帳の数字を見て喜ぶタイプなんだろ? そんなのムダだって」


「ほっといてくれ」


「悪いようにはしないさ。俺にポイントとよこせば、

 進級試験が終わった後の人気投票でお前に投票してやるよ。

 次の学年からは華々しいスタートが切れるんだぜ?」


「そんなのムダだよ」


「そんなことはないさ。約束するって」


なおも食い下がる輪島を突き飛ばした。


「いらない。お前らの助けなんかいらない」


「こいつ……! まぁいい。お前ごときにケンカしてたら人気が下がる。

 ま、せいぜい、進級できますようにって神にでも祈るんだな」


そして、進級をかけた試験がはじまった。

ここでの留年は人気ポイント没収という恐ろしいペナルティがある。



「では全員、筆記用具を出せ。最後の進級試験をはじめるぞ」



輪島やクラスメートはこの日のためにポイントをたんまりと貯めていた。

簡単なテストを引き当てるために。


「出席番号順にガチャを引きに来い」


「はい」


僕が席を立つとクラスメートが冷やかした。


「今日も★5を引くんだろ――?」

「やめろって。バカ石は★1のテストでも最下位なんだから」

「マジかよ。ぱねぇ~~!」


テストガチャを引いた。★3のテストが出てきた。


「赤石、引き直すか?」

「はい」


再びテストガチャに手を入れる。★5のテストが出てきた。


「先生、引き直します」

「お、おお……」


テストガチャを引き直す。★1のテストが出てきた。


「引き直します」


「お、おい、いいのか!?」


最も簡単なテストが出てもなお僕はテストガチャを引き続ける。

その様子にクラスメートは「ついに壊れた」とあっけにとられる。


「引き直します」


「引き直します」


「引き直します」


「引き直します」


「引き直します」


「引き直します」


「10連で引き直します」


今までため込んでいた僕の人気ポイントはがりがり減っていく。

けれど躊躇することなくテストを何度も引き直す。


「引き直します」


「引き直します」


「引き直します」


さすがに異常性を感じ取った輪島が立ち上がる。


「お、おい! いつまでテストガチャ引いてるんだよ!?

 いったい何が目的だ! 時間稼ぎか!?」


「黙ってろよ」


僕は輪島を無視してガチャを引きまくる。


「引き直し」「引き直し」

「引き直し」「引き直し」

「引き直し」「引き直し」

「引き直し」「引き直し」

「引き直し」「引き直し」「引き直し」...



「お前、まさか……!」


テストガチャの中身がからっぽになったとき、クラスメートはやっと僕の狙いを悟った。



「ところで先生、出席しているのに進級試験を

 受けなかった生徒はいったいどうなるんでしたっけ?」



その年、僕を除き、クラスメート全員が留年した。

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