第118話 ジョイオミナの特務


同刻

ゴルトラ洞穴門


                 ――入口付近





「――どうされました?」


 公国人と別れた帰り道。

 明かりも灯さぬ暗闇の中、ふと足を止めた老人に先導していた白い女が問いかける。

 老人は答えずゆるりと左右に首を巡らし、最後に後ろを振り返るのみ。片目の器具に手を添えて、何かを探し求めるような仕草。


「センセイ……?」

「いや。気のせいだ」


 老人は力みをほぐすように軽く首を回す。


「先の戦いで、まだ気が昂ぶっているのじゃろ」

「そのことですが」


 切っ掛けでも待っていたかのように白い女が疑念を口にする。


「彼らの申し出を受けてもよかったのでは?」

「ア? そうさせなかったのは、誰のせいだ」


 途端に不機嫌になる老人が自身の右頬を突き出してみせる。そこにはくっきりと浮かび上がる手形の痕が。


 実は先の戦いで一区切りついたその時に、白い女が藪から棒にビンタをくれたのだ。あまりのことに誰よりも虚を突かれ、目をまんまるく見開いたのはジョイオミナ翁。

 そんな仲間割れを間近で見せられた冷貌の士をはじめ、誰もが言葉を無くして場が静まり返る中、白い女は公国人たちに向き直り、恭しく頭を下げた。


「これで先の暴言をお許し下さい」と。


 このタイミングで?!

 いや、いつ口にしても遅いということはないのだが、いやいや、それにしても。

 かくして皆の戸惑い醒めやらぬまま、気まずくなった老人はそそくさとその場を離れることにしたのである。


 そのような経緯を思い起こしたところで白い女の表情にさざ波を立てることなどできるはずもなく。

 

「それはセンセイの失言が招いた当然のバツ」


 あまりに平然と返される。


「どのみち、あれ以上戦いを続けたところで、彼らが手の内を見せることもなさそうでした。ならば場を収めるためにも、アレは適切な処置であったと自負しております」

「その“適切な処置”とやらのせいで、居ずらくなったのだがな」


 やけに晴れ晴れとした白い女の声音に対し、ますます感情を鬱らせる老人。


「あら。それでもなお、厚顔無恥に居座られるのがセンセイでは?」

「おまえ、ワシをどういう目で見とるんだ?」 


 怒りを通り越してもはや呆れる老人。

 ジト目で書記官を睨みつつ、やがてため息と共に大きく肩を落とした。

 

「……まあ、ともかく。ワシもおまえの見立てと同じだ。仮に申し出を受け伴連れになったところで、手の内を明かすとも思えん」


 自分たちの目があってはダメであろうと。

 「他にも気になることはある」と老人は考えに耽りながらゆるりと白髭をしごく。


「奥にはずいぶんと濃い魔力の気配があった。特にデカいのがふたつ。おそらく『俗物軍団グレムリン』の団長と副団長の組合せ――その難敵といまだ実力の底が知れぬ『魔境士族』とがぶつかりあえば、どうなるか……展開の読めぬ戦場に首を突っ込むほど愚かな行為はあるまいて。ヘタに巻き込まれでもしたら面倒だしの」

「その時はその時。本気を出して蹴散らせばいいだけです」


 どれほど自信があるのか、あっさりと告げる白い女に「おろかもの」と老人はたしなめる。


「今回の命は“狩り”ではない。なのにまかり間違ってワシらが『』の首を獲ってみろ。エドのやつにやっかまれるだけならまだしも、こちらの任務に支障が出ても困る」


 その任務を放り出したはずの当人が、矛盾することを口にして、「それに」と続ける。


「毎度言っとるが、ワシは学者であって戦士ではない。戦いにかかわらずして済むのなら、断じてそちらを選ぶ。そのためにうまく立ち回ることを心がけるだけよ」

「では……」

「ああ、帰らん」


 実にあっけらかんと。


「アレらが学園に来るまで待ってなどおれるか。このまま任務を続行するに決まっとる」


 そう宣言したところで老人がにたりと笑う。


「もう少し距離を置いたあたりで『御霊の偽証スピリッツ・パージュリ』を使い、こっそり戻るとしよう。次は物言わぬオーディエンスとして『魔境士族』のすべてをじっくり観察させてもらおうではないか」

「ジジイらしい悪趣味な行為ですね」

「趣味ではない」


 そこはきっちり否定する老人。


「ワシらはまだなんにも掴んでおらん。あの『ヴァル・バ・ドゥレの森』で魔境士族とやらがどういう立ち位置なのか、『狂ノ者』とどういう関係があるのか――それらを見定めるための情報は、あまりにも足りておらん。これはそのための――」

覗き魔行為ピーピング

「そう――ではないっ」


 両手でよいしょと邪心を体外へぬきとる仕草をする老人。なのに振って寄越した当人はイジリもせずにさらりと話を続ける。


「それにしても、彼らが『漂着者』であるという点が話をややこしくしますね」

「……」

「どうしました?」

「いや…………いや、むしろすっきりする」


 言いかけた文句を呑み込んで、老人は話の本題に集中する。

 これは聖市国のトップ『銀乙女』からの勅命に関わる重要事。公国人に気付かせなかった目的が老人たちにはあったのだ。


「あの魔境の中層域に『狂ノ者・・・はいる・・・。これは公表されることのない聖市国としての正式見解で、疑う余地はない。

 事実、ワシの調べでも、探索者の間で『絶望の城跡』と呼ばれる遺跡が発見されたエリアがそのあたり。おそらく、やつらの根城だろう。そこで目撃された人外の姿が『狂ノ者』に似ておることからも頷ける。しかし最近になり――」

「『狂ノ者』が消えた」


 白い女の言葉に「消えただけではない」と老人は鋭く指摘する。


「時を同じくして、ほぼ同じエリアに新たな種族の存在が確認された。それが『魔境士族』――その正体は異境からの『漂着者』であったわけだが」

「つまりセンセイは、『狂ノ者』と『魔境士族』が入れ替わった・・・・・・と考えているわけですね」


 「うむ」と感慨深くうなずく老人。


「承知のとおり、世の摂理を読み解くのには『錬金術』の知識が重要だ。その『錬金術』では『等価交換』や『万物連環』の考えがある。それらを踏まえれば、“世界の外から何かが漂着する場合、代わり・・・の何かが・・・・外へ放流される”と考えるのが必然」

「初耳ですね。ですがセンセイは『狂ノ者』が消えた理由もそれだと思うのですね?」

「あくまでワシの見立てだ。仮に万年筆1本に値する“何か”が、この広い世界から消えたことなどどうやってさぐれよう? あまりにも立証が困難すぎる問題だ。この件については、ワシの死後も研究され続ける永遠のテーマだろう」

「そうだとしても、これは『狂ノ者』に関する事案です」

「まさに」


 聖市国にとって『狂ノ者』は警戒対象。

 その行動が単純に『邪悪』であると言えず、むしろ天災の類いに近しいことから、いまだに扱いを決めかねているのが実情だ。

 それでも、ひとたび災い側に振れれば文字通り血の雨を降らせ、大地に屍山血河をつくりだす。ただ放置するわけにもいかない難物なのだ。


 だから聖市国では、あくまで非公式に『人外災害対策室』を内部に起ち上げ、今なお大陸各地で発生する『狂ノ者』を含めた人外による災害を調査し記録に残すだけでなく、場合によっては拠点まで築いて監視態勢を敷くことも人知れず行ってきた。


 つまり今回、公国内での異常発生については、それなりに初期の段階から聖市国では状況を掴んでいたのだ。そして誰よりもこの一件について、警戒感を募らせていたのも他ならぬ聖市国なのである。


「あそこは大陸に点在する住処のひとつにすぎぬとはいえ、その消滅は立派な事件と言える。この場合にかぎっては、“良い意味”になるが。

 なのに実際は“入れ替わり”が起きており、しかも新たな種族は『魔境士族』を名乗り、たった数日で公国中枢にまで深く入り込んでおった。……怖ろしくないか? 実は『狂ノ者』よりも厄介な相手が漂着したのやもしれん」


 眉間にシワを寄せる老人の懸念は深い。

 これに白い女も賛同する。


「センセイが対『狂ノ者』戦に構築された“速撃戦術”を地力の強さのみで破ってきた相手です。これに交渉や話術の巧みさが加わるとなれば、彼らがこの世界に根付いてしまうのも時間の問題……大陸の戦力バランスを大きく崩す存在になりかねません。

それでは昨今落ち着いてきたかに見えた状勢が、十年前に逆戻り。

 まあ、第一遭遇の感触としては、彼らから特筆すべき悪意や暴虐性を感じませんでしたが」

「わからんぞ。腕が立つ者は実力を隠すのがお手のもの。ワシらのようにな。同じ事がやつらにできぬとは言えまい。その本性さえも仮面の下に隠し通せるじゃろう」

「ならば離れて監視するというセンセイのプランBが結局は正解だったことになりますね」

「まあな」


 得意げに鼻を鳴らした老人が、「この辺でいいだろう」と立ち止まる。

 腕を振って白い女を装飾杖のランタンに戻し、みっつの『鍵言』を唱え組み合わせて『御霊の偽証』を発動させて。




 『御霊の偽証』――

 その原理は術の対象より『認識阻害』の波長を放たさせるもの。それは視覚的な認識の阻害であって音や臭いまでを誤魔化すものではない。

 効果の対象は一体または一個。

 仮に対象が人であれば、モノは持てるし、投げつけられれば当たる。実体そのものが透過するわけではないということだ。

 術をかける段階で触れてるモノは効果が与えられるが――つまり着るモノ身に付けるモノなども認識阻害させられる――発動後に触れたモノは不可とそれなりの制約はある。そこは術師のイメージに影響されるため、効果のほどには個人差が出る。そこが魔術の面白いところでもあるのだが。




 老人が杖先で地面を軽く突くとランタンの灯りが消えた。

 真っ暗となった洞穴内に老人の声だけが響く。


「こたびの命はこれまでになく重みがある。おそらくはワシらが思う以上に……」


 砂利を踏みしだく音が、入口とは反対方向に向かう。それが数歩で消え、すぐに老人の気配までが消えた。

 あとには真の静寂だけが残された。




         *****




同刻

ゴルトラ洞穴門


              ――中心部より手前





「勝手をしたこと、詫びる」


 素直に謝る士族長をバルデアもカストリックも責めはしなかった。


「精霊が封じられ、私もこのザマだ。これからの戦いを考えれば、あそこで“分け”として彼女の提案を呑んだ貴殿の判断は正しい」


 馬車のそばで横になるバルデアが、手当てを受けながら問題ないと告げる。


「それより、いらぬ危険を冒させた。冷静に考えれば、オーネスト卿がこの地に来ている公算は高く、ここで討ち取ってしまえば領都が危険にさらされることもない。無理に老人を引き留める必要はなかった」


 判断を誤ったのは自分の方だと非を認めるバルデア。

 「だとしても」と士族長。


「この手で“お仕置き”くらいはしてやりたかったな」


 あのご老人はお痛が過ぎると唇をへの字に結ぶ士族長にバルデアは小さく笑う。まさか仲間の手でお仕置きが実行されるとは思わなかったが、今となっては穏便に済ますよい方策であったと思われる。

 そうして場が少し和んだところを見計らったようにカストリックが口を開く。


「申し訳ありませんが、バルデア卿。そろそろ出立しなければ」

「そうだな」


 バルデアも無論と同意してからだを起こそうとする。先よりも力が入らないのか、手当てをした騎士が二人掛かりで助け起こす。それを痛ましげに見守るモーフィアが訴える。


「もう少し休まれては?」

「問題、ない」

「ですが、『送迎団われわれ』の損害は甚大です。このまま進んでも……」


 モーフィアの不安は当然だ。

 自分達をのぞけば騎士の生き残りは3名。部隊としての機能は失われたに等しい。しかも最大戦力であるバルデアはもう戦えない状況だ。

 次に控えるだろう戦いは、より苛烈になると思われ、眉間にシワ寄せながらモーフィアが対案をひねりだす。


「あえて“領都の危機”だと、『断罪官』の来訪をやつらに伝えたら、状況を変えられませんか? 戦いを避けられるとか」

「それは本末転倒だ。この機に、外道と化した『俗物軍団』を葬る狙いがあるのを読み取れぬおまえではあるまい」

「それは、まあ……」


 ルストラン側では今挙げた狙いが、ベルズ側でももう一度『俗物軍団』の凄さを公国中枢に分からせる狙いが、それぞれにある。

 そのことはモーフィアにも分かっているのだが、戦力的な不安があるため諦めきれない彼女に、「そう悲観することはない」とバルデアはなだめる。


「全力を出せない私が矢面に立ち、『魔境士族』を温存させる策はうまくいっている。まして、ツキノジョウ殿は『断罪官』を相手にできるほどの実力ありと示してくれた」


 これほど力づけられることはないと。

 

「今なら信じられる。たとえ大戦の英雄が相手であろうと、『魔境士族』ならば打ち勝てると」


 そうだろうと士族長の顔を強く見つめるバルデアに、


「任せあれ」


 力強く請け合う士族長。


「ここまでもったいつけたのだ。そろそろ儂の見せ場をあつらえないと立つ瀬がない」

「……ちょっと。奮起するのはいいけれど、ヘタなことはしないでよ?」


 自分の立場を分かっているのかとモーフィアがすっかり砕けた調子で士族長に突っかかる。どうやら先の戦い振りを見るには見たが、あくまで家臣の力が特出しているのであって当主は別と捉えているようだ。

 良く云えば士族長の身を案じているともとれるのだが、相手は自信たっぷりに応じるのみ。


「そう案ずるな。むしろ儂が前に出た方がもーふぃあ殿を休ませられよう。ちと足下が覚束ないようにみえるでな」

「え?」


 図星であったのか、一瞬硬直するモーフィア。

 すぐに表情を怒らせ、「な、何を云ってるの?」と勇ましげに袖まくりまでしてみせる。


「あのヘンな爺様のせいで気持ち的に疲れただけ。こんな時のために用意したとっておきの回復薬ポーションさえ呑めば、何の問題もないわ!」

「そうか?」 

「そうよ!」


 売り言葉に買い言葉。

 たった今不安の影を差していた顔をうっすらと朱に染めながらモーフィアが息巻く。


「ここ以外でなら精霊術が使えるし、たとえこの先であいつらが軍団を動かしてきたとしても、私の術で血祭りに上げてやるわ。集団戦闘なら私が主役。ゲンヤ殿が活躍する場なんて奪ってしまうかも」

「それは頼もしい」


 さらりとした士族長の返しが気に障ったのか、 


「冗談に聞こえた? 私は本気よ」


 モーフィアは声を尖らせる。

 みてなさいと言わんばかりに目力を強め、懐から取り出した薬瓶を豪快に煽り、グビグビと咽を鳴らす。

 「ぷは」と息つき口をぬぐう姿も勇ましく。


「これで回復も間に合う。では、お休みな……」


 そう言ったかと思えば近くの騎士へ向かい、二歩と数えずよろけるように倒れ込む。慌てて抱き留める騎士。呆れたことにモーフィアは寝息を立てて眠り込んでいた。


「?!」

「心配ない。あれは薬の効能にあわせ、睡眠を重ねてより大きな回復効果を狙っているだけだ」


 いつものことだとカストリックが教えてくれる。

 抱き留めた騎士の反応が良かったのも術師の行動を理解し、馴れていればこそだと。


「それでも戦いの最中に仮眠をとれるのはモーフィアくらいだ。あれで中々、男よりも肝っ玉が据わっているところがある」


 優秀なのは術だけではないと。

 むしろ精神力の強さが彼女の武器であるらしい。

 そう士族長に教えてから、カストリックは本題に

入る。


「地理的に、洞穴門の先はジャガイモ畑が広がる耕作地だ。辺境にとって貴重な畑地を戦いで荒らし自分で首を絞めるバカはしないはず。無茶をするのも洞穴門だけだろう」

「つまり出口付近での戦いが最後だと?」

「そう思う」


 それは計画段階でも言われていたことである。士族長にとっても異論はない見立て。

 「それでだが……」と切り出すカストリックの本命はこちらの提案にあったらしい。


「戦う際、副団長フォルムの相手はツキノジョウ殿に任せたい。だから団長オーネスト卿との対戦は私に任せてくれないか?」

「御免こうむるっ」


 なぜかムキになって拒否する士族長。


「手柄がほしいのではない。諏訪の当主は戦場で先陣を切るしきたりがあるのだっ」

「初耳ですな」

「おい、月ノ丞!」


 ぎろりと睨み付ける士族長に彼は涼しげな表情をぴくりとも変えず。


「当主が乱りに突っ込むのは貴方様だけ。領を興す前ならいざ知らず、今はお立場を弁えていただきたい」

「隊長のくせに孤りで勝手に戦うおぬしに言われとうない。それに万雷だとて真っ先に斬り込むぞ?」

「あれは一介の将。……まあ諏訪に降った理由のひとつが、家臣に咎められず好きに戦うためとも聞きましたが。若はそういきますまい」

「……っ」


 そう返されると言葉が出ない士族長。

 そこへこれ幸いとカストリックまでが言い募る。


「差し出がましいが、ツキノジョウ殿に同意する。士族長の命は家臣と並べられぬもの。自ら戦うのでなく戦いを見守るのが貴殿の役目であろう」


 こちらは協力組織のトップを乱りに散らせるわけにいかない立場の発言だ。自愛せよとの訴えが目力にこめられる。


「……むむ……」

「とはいえ、この少数だ。本当に戦わずに済むはずもない」

「では?!」


 思わず口元をほころばす士族長に、カストリックは困った御仁だと片眉を軽く上げて。


「先ほど逃げたヤツがいたはず。その者の相手をお任せしたい」


 マルグスのことだ。

 そちらも決して楽な相手ではないはずと他の二人よりはリスクが低く、それでいて歯応えのありそうな相手を勧めてくる。

 確かに先の因縁を考えれば悪くない配役。


「まあ、実際は乱戦になる可能性が高い。ここで決めても成り行き任せになるのは間違いないが」

「そのとおりだな」


 それには同意する士族長。

 まさか「まだ機会は我にあり」と思っているわけではあるまい。やけに穏やかな目元が不安になる。


「とりあえず、提案は提案として頭に入れておくとしよう。ただし戦いの相手は無理せず流れのままに決めるものとする。それでよいな?」


 当然、異論を唱える者はいない。

 これ以上の議論は無用と出立の準備にとりかかることにしたが、話し合いの結果、ある程度の休息はいれることになった。


 それは回復薬の効能発現時間を踏まえてのこと。

 『遺跡』からの発掘品であれば即効性があるのだが、現代で調合される回復薬はそうなっていない。人が持つ回復力を大きく後押しするつくりであるため、どうしても時間がかかるのだ。

 さらに言えば、回復の糧となるものも重要だ。

 これまでの体験から、“栄養”と“睡眠”が回復力に関係していることが分かっている。

 

 なので支度を整えながら、バルデアとモーフィアのどちらかが目覚めることを待つことにした。追撃の怖れもあるから、ある種の賭けでもある。


「行きます」


 しばらくして、ただ一騎の先頭騎馬が進み出す。

 続いて大公専用馬車が動き始め、すぐ士官用馬車で最後となる。

 もはや洞穴門をくぐった時にいた人員は見る陰もない。

 それでも緊張感や戦意はさらに高められ、送迎団一行は毅然と出口へ向かって進むのであった。

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