第36話:私達はきっと相性がいい

 

 弘樹との休日は公園に出かけたりすることが多い。

 今時の若い子達と同じように繁華街で遊んだりすることは少ない。

 綺羅はあまり人が多い場所が苦手なので、弘樹にも迷惑をかけてる気がする。

 けれども、彼はそれに文句を言わないで付き合ってくれる。

 公園の芝生の上で寝そべる彼の横で、

 

「今日はいい天気。晴れて何より」

「デート日和ってやつだな」

「うん。そうだね」

「どうした、綺羅。アレキサンダーとまだ遊びたかった?」

 

 ここに来るまでに弘樹の家でたっぷりと猫と遊んでいた。

 

「あの子は素直だからとても懐いて可愛らしい」

 

 今日も思う存分にお腹を撫でて楽しんだ。

 嫌がることもなく子猫も遊んでもらって大満足の様子だった。

 

「猫は十分に遊んだから。私が考えてたのは先輩のこと」

「俺のこと?」

「いつも私に付き合って、こう言う場所ばかりで嫌じゃないかって」

「別に。俺も好きだぞ。こんな風にのんびりと過ごすのもいい。そんなに気にしてくれてるのなら、今度のデートは俺に任せてくれてもいいか?」

 

 綺羅は小さく頷く。

 

「いいよ。先輩に飽きられて捨てられるのは嫌だから」

「そんなことしません」

「他に女の子を好きになるかもしれない」

「なんでそんなに不安なんだか」

 

 弘樹がそっと綺羅の手を握り締めて、

 

「俺は綺羅以外の子を好きにはならない」

「……私は先輩以外を好きになるかもしれない」

「おいっ!?」

「冗談。私みたいな女の子に興味があるのは先輩くらいだもん」

 

 風に流れて行く雲を見つめて綺羅は呟く。

 こういう風に同じ時間を過ごせる事が愛おしい。

 

「私達はきっと相性がいい」

「お、おぅ。綺羅からそう言う発言をされると照れくさいな」

「……言った本人がもっと恥ずかしい」

 

 慣れない事は言うべきではない。

 耳まで真っ赤になってしまう。

 

「先輩、こっち見るな。寝ていて」

 

 すぐに顔を隠すと、彼はそんな綺羅に言うのだ。

 

「……綺羅って照れる顔が可愛いよな」

「うっさい。黙れ、ヒロ先輩」

「ひどっ。ホント、素直じゃないなぁ」

 

 小さく笑って、彼は寝転がっている。


――もっと自分に素直になりたい。

 

 けれども、このひねくれものな性格が簡単に直せるわけもない。

 つい素直ではない態度をとってしまうことに反省しつつ、

 

「お天気もいいし、しばらくのんびりとしていたい」

「同感だ。今日はここでお昼寝タイムだな」

 

 穏やかな日差し、涼しい風を感じながら、池を眺めながら時間を過ごす。

 

「……あっ、カルガモ親子」

 

 前に見たときよりも子ガモが成長していて可愛らしい。

 お母さんカモの後を必死について行く子カモ姿に見惚れる。

 

「先輩、見て。カルガモ……あれ?」

 

 いつしか隣の弘樹は芝生の上で眠ってしまっていた。

 

「寝てる……?」

 

 これまで綺羅は弘樹に何度か寝顔を見られている。

 だが、彼の寝顔を見るのは初めてかもしれない。

 目を瞑り、静かな寝息を立てる。

 

「……男の子の寝顔を見るのは初めてかも」

 

 ぐっすりと眠っている彼の頬を触れる。

 

「起きない?」

「……」

 

 ここまでぐっすりと寝ているので大人しくしておく。

 綺羅は弘樹を寝かせてあげるために、大人しくしている。

 

「意外と寝顔って可愛い」

 

 弘樹は顔だけみるとカッコいい部類に入る。


――喋るとアレだけど。“イケメン”ではなく“イケメソ”って感じの惜しさがあるの。

 

 それでも綺羅は綺羅なりに彼を愛している。

 普段は面と向かって言えない事を言う。

 

「先輩……好き。大好き。もっと愛してほしい」

 

 思わず口元に笑みをこぼしながら呟く。

 彼は今聞いていないからこそ、言えること。

 起きてる本人に言うの恥ずかしすぎること。

 

「私、どうして、先輩の事を好きになったのかな」

 

 思い返してみても、綺羅にはこれだっと言える瞬間がない。

 屋上で毎日のように会って、少しだけ会話してただけの関係。

 気が付けば、傍にいて。

 気が付けば、好きになっていた。

 

「小さなことの積み重ね。想いを積み重ねて、先輩を好きになってたんだなぁ」

 

 綺羅にとって弘樹は一目惚れではない。

 何度も合う中で、彼の事を知り、綺羅の事を知ってもらい。

 そして、本気で彼を好きだと思えるようになった。

 

「先輩……私を捨てちゃ嫌だよ」

 

 可愛げもなく、素直でもなく。

 そんな綺羅を好きだと言ってくれる、綺羅の恋人。

 

「ヒロ先輩。私の事、これからも好きでいてくれる?」

 

 自信のなさが言葉に表れてしまう。

 返事などないと思っていたはずが、

 

「ずっと好きでいる。約束するよ」

「……は、はひっ!?」

 

 寝てるはずの彼がいきなり返事をしたのでびっくりする。

 綺羅は慌てて彼から距離をとる。

 

「お、起きてたの?」

「ん……綺羅が耳元で囁いてるから目が覚めた」

「聞いてた?」

 

 弘樹はおどけた口調で綺羅に言った。

 

「……半分くらい? 心配性だな。俺が綺羅を捨てるわけがないって」

「いやぁー!?」

 

 恥ずかしくて死ぬ。

 綺羅は悶絶しながら芝生にうなだれる。

 

「いやぁ、綺羅も俺が寝てる時には甘く囁いてくれるのだと」

「ち、違うの。違うの。これは違うのっ」

「いいじゃん。普段は素直じゃない綺羅の素直な一面を見れたし」

「……バカ」

 

 綺羅の頭をポンポンっと彼は撫でながら、

 

「毎日、好きと言ってやろうか?」

「そんなラブなバカっプルな行為はしない」

「綺羅って嫉妬しやすいからな。俺が彼氏として安心させてやらないと」

「調子に乗るな。先輩にそんなキザな行為は似合わない」

 

 綺羅は唇を尖らせながら言うと、

 

「いいじゃん。お互いに理解者なわけで。何を遠慮することがある?」

「……バカップルみたいじゃん」

「それの何が悪いのだ? 俺たちは愛し合ってるんだぞ」

 

 綺羅の彼氏は綺羅をちゃんと思ってくれている最高の彼氏だから。

 

「……私、ヒロ先輩と付き合って、自分を変えられるチャンスみたいに思ってる」

 

 だから、綺羅も少しずつ素直になると決めたんだ――。


「好きな綺羅がいつも安心できるように何度でも言ってやる。綺羅、好きだよ」

「な、なぁ!? 私も好きだよ。ヒロ先輩、こんなこと真顔で言わせるなぁ」

「あはは、可愛い奴め。照れて、丸くなってる姿も可愛いぞ」

「う、うるさぁい……」

 

 笑顔で微笑まれて、綺羅は嬉しく感じていた。

 

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