第18話 ゆくべき道へ
元居たビルへと戻った私は、スヤスヤと眠るボルドを確認して、とりあえずひと安心をした。
身体に疲れを感じつつ、そのまま横になると、記録の書物で電化製品図鑑2037を開く。
「エアコンとエレベーター…と」
記録の書物で検索をかけると、エアコンは直ぐに見つけることが出来た。
管理人がいたビルで見つけたタイプとは違い、ひと回り小さかったが、同じように冷気を出すことが出来る装置らしい。
写真を食いつくように見つめ、
「へぇ、色々あるのね」
と私はつぶやく。
様々な種類のエアコンが、説明と写真付きで載っている。
丸っこくて可愛いの。四角くてかっこいいの。
いつか手に入れてみたい。
体いっぱいにオーパーツのエネルギーを感じ取りながら、旅ができるなんて最高じゃないか。
説明欄に目を絞り、そのサイズを確認した。
「重さは…20kg!?横が1m…流石に大きいわね」
これは、仮に手に入れられたとしても、持ち運ぶのに無理がありそうだ。
いやでもきっとあるはず、持ち運べるエアコンが。それに似たオーパーツが!!
一方でエレベーターは電化製品には含まれないらしく、この本には載っていなかった。
だが、エアコンとエレベーターの実物を見た私は、興奮が収まりきれず、朝まで記録の書物を見てニヤニヤとしていた…と思う。
熱中しすぎて、途中から時間がとんだ。
「ねーちゃん?」
と太陽が昇り始めた頃、ボルドがゴソゴソと動き目を覚ました。
昨日泣いていたこともあり、目の下はまだ若干赤い。完全に冷静さは取り戻してる。
時計を確認しながら、
「おはよう」
とボルドに返事をした。
「おはよう。ねーちゃん」
ボルドもそれに対して返事をした。
もう朝か。ゆっくりと立ち上がり、窓の外を覗いた。
管理人がいっていた通り、群れは何処かへといなくなっていた。
昨日より少し多いぐらいが、まだちらほらと、ゾンビはよろよろと動いているのが見える。
安心して、私はボルドの手を引っ張り、
「さて、行くわよ」
と立ち上がるせる。
ボルドは夜の出来事を知らない。
「行くって…何処に?」
不思議がるボルドに、私はこう言った。
「りんごの木にね。どうせ帰るなら、貴方もお土産があった方がいいでしょ?」
広げていた荷物をまとめて、下へと2人で降りていった。
夜の時と同様に、一応辺りには警戒しておく。
音さえたてなければ平気だと言ってはいたが…。
バイクまでたどり着くと、荷物をしまいこんだ。
ふりふりのロリータ服は丁寧に畳むと、布で巻くと鞄の奥の方へと突っ込んだ。
それを見たボルドには、
「あれ?ねーちゃん着替えたんだ」
と言う。
「着替えたんだ。って昨日みたいに汚れそうになると困るから」
「えーそのままで良かったのに」
「昨日と言ってる事が逆だけど…」
バイクをゆっくりと引きながら、夜に来た建物の入口へとたどり着いた。
すでに、管理人は小さな鞄を背負って、私達の到着をガラス越しに待っていた。
私が軽く手を振ると、向こうも手を振り替えした。
ボルドが不思議そうに、
「誰?」
と尋ねた。
それもそうだ。
ボルドが寝ている間に出会ったのだから、知るはずがない。しかもここに来てから、普通の人間を一度も見ていなかったのだから。
「えっと…りんごの木の管理人だそう。昨日の夜に会ったの」
ボルドは管理人を見つめ、目を瞬きしたあとで、
「え?こんな小さい子が?」
と驚く。
私から見ればボルドも、充分小さい子の部類に入る。
だからこそ、そこにいる管理人が異様なのだ。まず、本当に人間なのかという疑問さえ持っている。
「初めまして。旅人さんのお連れさんですね?管理人です」
管理人の男の子は小さく頭を下げた。
あまりの礼儀正しさに驚いたのか、きょどりながらもボルド「よろしく」と頭を下げた。
そして管理人は、握手を求めて手を伸ばした。
ボルドもそれに答えるように、手を伸ばす。が、それを私はにやにやしながら見ていた。
ガンっ
という音と共に、ボルドの指先が何かに当たった。
勿論、私はそれが何かを知ってる。
「いった!え?」
驚いたとしたボルドは、目に前のガラスをドンドンと叩く。
直ぐに透明な壁であるガラスがあると気が付くと、馬鹿にされた事に気が付き、ドンドンとさらに強くガラスを叩いた。
痛そうに手をさすりながら、
「えー酷いよ。ねーちゃんも笑ってないで教えてくれれば良かったのに」
とボルドは私の方に振り向いた。
それにたいして、ガラスのドアを開けながら、
「大丈夫ですよ。そこのお姉さんは、昨日ここに入るとき、、」
と管理人が外へと出てくるのを、
「ああーあぁーー、っさ、さ行きましょ?」
と恥ずかしい話が暴露される前に、管理人の言葉遮った。
「では。歩いて30分ぐらいですので」
ニコニコとする管理人に連れられて、りんごの木へと向かって歩き出した。
周辺にゾンビがうろうろとしていたが、管理人は初めてここに来たような人では、絶対に分からないような路地へと通っていく。
高いビルとビルの間で、ギリギリバイクが通れるような隙間。
倒壊して瓦礫となったビルの中を通る。
不思議なことに、ゾンビに囲まれるような事は一度もなく、スムーズに足を進められた。
流石はここに住んでいる、ということなのだろうか?それにしても管理人は軽装だ。
片手にライトを持ち、肩から下げている鞄はポーチと言っても過言でもではない大きさ。あの小ささに何が入るのだろう?
そして着ている服も、私のふりふりの服は辞めとけと言っていた癖に、短パンにTシャツを着ている。勿論、両方オーパーツの服だけど…ずるくない?
管理人はの後ろを黙って歩いていると、大きな穴がある場所で管理人は立ち止った。
地面が陥没して昔は地下道だったであろう場所が顔を出している。
「もう少しだよ」
ボルドと協力してゆっくりと、下へとバイクを降ろした。
崩れた箇所が坂になっているとはいえ、デコボコとしていて降ろすのには一苦労する。
かいた汗を袖でふき取り、
「ふぅ…やっと降ろせた」
とつぶやく。
あと少しと言われたが、降ろすのにここに来るまで以上の体力を使った気がする。
タイヤへと付いていた砂が、服へとパラパラとついて下半身が砂まみれになった。
着替えておいて正解。
手伝ってくれたボルド、
「ありがとね」
「うん」
陥没していたのはそこだけで、すぐに暗いトンネルへと入っていった。
中は真っ暗で、所々に昔は付いていたであろう電球の跡などが見られた。
管理人がライトを前方へと照らしながら進む。
本当はバイクのライトでも、照らしたい所ではあるけど、ガソリンがないのだからどうしようもない。
まだ、少しは動くだろうけど…これは記録の書物の充電するために取っておきたい。
「あっ」
あ、すっかりガソリンのこと聞くの忘れてたと思わず声に出した。
ビルの電気も自家発電だとすると、ガソリンを使っている可能性が高い。分けてくれないだろうか?
少し前を歩く管理人に
「管理人さん?」
と呼びかける。
狭い通路内を声が反射して、自分の声が二重になって戻ってくる。
「なんです?」
管理人は足を止めずに、そのまま聞き返した。
「ガソリンって余ってない?無くなっちゃって」
管理人は振り向いて、バイクと私を交互に見た。
手に持っているライトがこちらへと当たり、とても眩しい。
「残念ですが、ガソリンは無いです。私のビルはガス発電なので。ですが、ここから北へ徒歩で1週間…長くて2週間ぐらい歩いた所に、石油が出る街がありますよ」
その返事に、私の心は安堵を覚えた。
「本当?なら、次の目的地はそこね」
よい事を聞いた。
石油が出るということは、それの技術がまだあるということ。オーパーツや多くの人がいるに違いない。
石油は、この時代においても貴重だ。
オーパーツのほとんどは電気で動く。だから、そのためには石油が必要というわけ。どんな優秀な旅人でも、石油の入手には苦労させられる。
「ねぇ?ねーちゃん?」
顔が暗くて良く見えないが、不安そうな声から深刻な話をしよとしていることが分かった。
「何?」
「俺も付いて行っちゃったダメ?」
「付いていくって、旅に?」
「うん」
いつかは、そう言い出すのではないか、と若干は思っていた。
昨日の兄貴の事もあり、大人しく街へと帰ってくれるのではと思っていたんだけど。
私は少し考えても、結論が出せないと思い、
「考えておく」
と返し、返事を先延ばしにした。
ふと、前方から光が差してくるのが見えた。
出口だ。
光へと近づくたびに、視界が段々と白くなっていく。
そのまま外へと出ると、一瞬だけ完全に視界が奪われ、外の景色が映し出されていった。
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