第17話 管理人
降りた先には1人の男の子が、立っていて
「いらっしゃい。お姉さん」
と私を椅子に座って出迎える。
私は部屋をキョロキョロと見渡す。
が、彼と椅子以外誰もいないし、何も見えない。
まさか、この子はここに1人で住んでいるというのか?
こんな小さい子が?
6、7歳といった年齢で、ボルドよりはるかに年下に見える。
「お姉さんもりんごの木を探しに来たんじゃないの?」
「そうだけど、貴方は?」
ぴょこっと椅子から降りると、唖然と立っている私の前まで近付く。
「僕は管理人。りんごの木の管理人だよ」
ニコニコとした男の子は、小さな手を伸ばして握手を求めた。
その手を軽く握り返す。
何故かその子の手に、異様な冷めたさと違和感を感じた。
「よろしく…。貴方はここに一人で住んでいるの?あのゾンビの中?」
「はい。ゾンビというのが、外を理性を失って歩いている人の事なら大丈夫ですよ。音さえ気を付けていれば、襲ってきませんから」
やはり、ゾンビには詳しいらしい。
ここで、私の疑問を解決できるかもしれない。
出来る限りのことを聞いておきたい。
「彼らは病気なの?」
「僕には詳しいことはさっぱり」
「じゃぁ、管理人っていうのは?」
「そのまんまの意味です。りんごの木のお世話をしているのですよ。もう何代も」
何代もというのは少し引っ掛かりを感じた。
それは代わるがわる、ここに誰か来ているというのか?
誰が?近くの街から?それともここら辺に住んでるの?
とか考えて頭がパンクしてしまいそう。
「ふぅ」
と一息を付く。
この子は頭がいいし、しっかいりしている。一番したかった質問が出来そうだ。
「この建物の、あれとあれ何?」
ワーム、ゾンビ、バイクのガソリン。脱出方法やりんごの木の位置などをすべて置いておいて、今出てきた小さな部屋と天井から冷気が出ている場所を指で示した。
「それは、エレベーターとエアコンですよ」
「エレベーター?エアコン?」
聞いたことが無かった。
似たものでエスカレーターはあったが、見た感じあれとは全くの別のもにみえる。さらにエアコンとは?
「まずはエアコンですが、部屋の中の温かい空気を取り出して外へ逃がす装置です。そうすることで冷たい空気だけが排出されます」
おぉ。まさに部屋を冷蔵庫にする機械じゃない!!
これをバイクに付ければ、涼みながら旅が出来ないよね。
「そして、エレベーターですが。窓をご覧ください」
ほとんどがガラス張りの部屋の窓へと寄る。
外を見ると、はるか下に地面が見える。どうやら、あの部屋へと入ると上へと移動することが出来るらしい。
でも、どうやって?
「瞬間移動?なわけ無いわよね」
「勿論です。部屋に丈夫なひもが括り付けられていまして、モーターの力で巻き取ることで部屋ごと上へと移動してるのです」
そうか、あの時した機械音はモーターが紐を巻き取っていた時の音だったのか。
「で?なんでこれだけのオーパーツがこんな所にあるの?」
にこりと微笑むと
「秘密です」
と管理人は答えた。
情報には対価をというが、私がこの子に差し出せるものは無さそうに感じる。
脅すという手もあるけど、流石にそれは気が引ける。
「じゃぁ何か教えてくれることない?」
「りんごの木の場所なら教えますよ」
管理人という割にはあっさりと場所を教えてくれるというのに驚いた。
管理しているのだから、むしろ外部から来た人間から見つからないようにしたりしているのかと。
「なら案内をお願いするね。でも、群れが」
もう一度窓から外を除いた。
ガラスがあるから声こそ聞こえないが、未だに多くのゾンビがさまよっているのが見える。
あれが何処かへと行くまではここら辺から動くことは出来ない。
不安そうに窓の外を見つめた私を見て、
「大丈夫ですよ」
と管理人は言った。
「どうして?」
「ああやって集まるのは夜だけです。朝にはなるにつれてバラバラになっていきます」
やっぱりここに住んでるんだな、改めて実感した。
ゾンビの習性をよく知っている。この子について行けば安全にりんごの木までたどり着けそうだ。
「出発は太陽が昇ってからでいいですか?行くのでしたら、こちらも少々準備が必要になります」
「そうね。お願いするわ。こんな深夜にお邪魔したわ」
「はい。それとその格好はお着替えになったほうがよろしいですよ。こんな気候の場所で肌の露出はよろしくないです」
お節介な子供だと、帰り際睨みつけた。
が、全く気にしてないようでニコニコとこちらへと手を振っている。
私の負けね。
エレベーターへと乗ると振り返り、手を笑顔で振り返した。
「後でね」
と言葉を添えて。
入るときぶつかったガラス扉の前まで来る。
今度は入るときみたいなミスをしないぞと、扉をゆっくりと押した。
「開かない?」
さらに力を加えて扉を押す。
だが、びくともしなかった。
入るときはあんなに簡単に開いたのに…まさか閉じ込められた?
「お姉さん、、それ押すんじゃなくて引くんだよ」
さっき別れたばかりの管理人が、いつの間にか後ろに立ち、呆れるかのような目で、私を見ていた。
もしかして入ってくるときも、私のことを見ていたのかもしれない。
私は顔を背けると、ぶっきらぼうに
「…知ってるよ」
と返した。
震える手で扉を開くと、ボルドがいるビルへと駆け足で戻る。
はやくこの服から、着替えてしまおう。
また、誰かに何か言われる前に。
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