第16話 川と光

 

 綺麗な2つの月が仲良く寄り添い、真っ暗な闇を照らしている深夜。

 何かの音が耳へ入り込み、私の睡眠を妨害され、目を覚ました。

 細いくなった目を擦り、中途半端な時間に起きてしまったことに若干イライラとしながら、腕につけている時計を見た。

 焦点を合わせると、時計の数字が見えだす。

「まだ、、1時か」

 髪を整えながら、私は呟いた。

  時刻は深夜1時。

  朝とは到底呼べないような時間に、一体何に起こされたのかと、窓へと近づくと顔を外へと出した。

 空見上げると、満点の星空が広がっていたが、星が音を出すわけがない。

 視線を音がする方向へと移動させると、そこには星とかどうでもいいぐらいの出来事が、視界に入り込んだ。

 見えたものは、海のように波をゾンビの群れ。

 群れというよりは、川という表現が正しいかもしれな。

 私が建物の近くの通りを、何十という数のゾンビが、。

「あぁああぁいあい」

「うぅうぃいsだ」

 と、うめき声を上げながら、うごめいている。

 そんなゾンビを睨み付け、

「うるさいわね」

 と言った後に舌打ちをする。

 すっかりと、ゾンビに耐性が出来てしまったのか、その数を見ても特に物怖じすることは無かった。

 しかし、私はゾンビより別のところの目をくぎ付けにした。

 今日が満点の星空とはいえ、5階から真っ暗は地上を、肉眼でみることはまず不可能なはずだ。

 では、なぜ見えたのか。それは光があったから。

 誰に教えるわけでもなく光を指差し、

「…あのビル。光が」

 と心の声をそのまま口に出した。

 私がいるビルから、3棟ほど離れたビル全体から、溢れんばかりの光が漏れていたのだ。

 焚火やライトのような小さな光ではなく、各フロアから出る光は、まるで建物全体に電気でも通っているかのようだ。

「誰かいるのかな」

 もし、誰か住んでいるのなら、りんごの木の場所をぜひとも聞きたい。

 ついでに、ここからの脱出も手伝ってくれないだろうか。

 ゾンビが徘徊する都市で、あれだけの芸当が出来る人物だ。

 きっと、凄いのオーパーツを所持しているに違いない。興奮した私は、どうせもう寝ていられない。

 記録の書物を取り出すと、ライトを付けた。ボルドを起こさないように足を忍ばせ、ゆっくりと下へと降りて行った。

 聞き耳を立てながら、念のためにナイフを片手へと持つと、いつでも攻撃でき姿勢を保つ。

 あの小さなバイクが、仕事をしてくれたとは思えない。だけど、この建物の階段は非常にボロボロなのだ。

 ゾンビが、ジャンプをしたり景気よく上へとまっすぐ目指してくるとは考えにくいが、1階や2階なら入り込んでいる可能性は、十分にある。

 ゾンビに、暗闇からガブッといかれるのは避けたい。

 視線を複数に向け、注意深く歩くが、外に相当な数が歩いていたのにも関わらず、建物の中には、その姿は一切確認できなかった。

「いないわね」

 道路まで出ると、周囲を確認して音を立てないように、明かりがついている建物へと走った。

 私はゾンビに気づかれぬうちに建物に入り込もうと思って、その光の中へと走り込む。

 中へと入れたと思った矢先に、何か思い切りぶつかり、

「いったぁ、何?」

 と思わず大きな声を出してしまった。

 掌で、ぶつかった所を触ると、現れたのは透明な壁だ。

 肩と顔らへんを思いっ切りガラスへと打ち付け、ヒリヒリと徐々に痛みが伝わってくる。

 が、瞬間的に痛みが何処かへと吹き飛ぶ。

 今の声で、あのゾンビの川が襲ってきてはひとたまりもない。

 全身から、冷や汗が流れるのを感じた。

 注意深く周囲を確認するが、運よく特に寄ってくるような、ゾンビはいなかった。

「よかった」

 と安心すると。また、痛みが徐々に戻ってくる。

 痛むところを抑えながら、目の前のガラスを確認し、押してみるとゆっくりと扉が開いた。

 その瞬間に、涼しい空気が身体全体を包み込んだ。

 初めて感じる変な感覚に、

「え?涼しい」

 と困惑した。

 まず、私はその温度変化に驚いた。

 1度2度ではなく、まるで温度が違うのだ。暑い砂漠の中なのに、20度程度といった適温が維持されている。

 物を常に冷やし続けられるオーパーツというのは知っていたが、建物全体を冷やすオーパーツは過去に聞いたことさえない。

 不意に、寝ている間にかいた汗が、ヒヤッと身体を冷やすのを感じた。

「あ、着替えるの忘れてた」

 膝からしたや首元がやけに冷えるかと思ったら、ひらひらの服から迷彩服へと着替えるのをすっかりと忘れていた。

 物事は慣れるというが、汚したくないので、早めに脱いでおいきたい。

「着替えておくんだった」

 と呟きながら奥へと進んだ。

 建物の中は、夜とは思えないほど明るかった。

 上を見上げると、天井には一定の間隔でライトが付いていて、どの窓にもしっかりとガラスがはめ込まれている。

 声を大きくして、

「誰か~いませんか?」

 といるであろう誰かに声をあげたが、何か反応が返ってくることは無かった。

 さらに探索をするが、不思議なことに上への階段が、何処にも見当たらなかった。

 そして不思議なことに、室内はとても綺麗だ。

 まるで、最近建てられた建物かのように…新しい。

 私が歩いていると、突然上からの冷たい風が吹いてきて、

「寒っ」

 と背中を身ぶるした。

 何せ肩が出ているので、風が吹くと直接肌に当たるのだから直ぐに分かる。

 上をみると、冷たい空気が出てくる隙間があった。

 しばらく同じ場所に立っていると、冷たい風は横へと移動し、私もそれにつられて移動する。

「動いてるのね、、これが冷蔵庫?にしては違いそうだけど」

 その隙間を記録の書物でパシャリを写真を撮る。手を上へと上げると、ぶんぶんと手を振ってみた。 

 当たり前だけど、誰かが手で動かしている分けではなさそう。

 冷蔵庫擬きの冷風で遊んでいると、「ピンポーン」と何処からともなく音がするのが聞こえた。

 音の方角へと向かってみると、さっきは壁だった所が開いて中へと、入れるようになっていた。

 壁を観察すると、三角の記号と数字が壁に描かれいる。

 好奇心には勝てない。

 その小さな部屋の中へと足を踏み入れ、扉は勝手に閉まると動き始めた。

「え?え?」

 と困惑する私をあざ笑うかのように、ごぉ~と下から機械音が鳴り響く。

 私は狭い部屋を右往左往しながらも、しっかりと部屋の様子は写真へと収めていった。

 機械音が止まると、「ピンコンッ」という音と共に、閉まっていた扉が静かに開いた。

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