第15話 死の都市
ゾンビのような人間だろう、ということが分かったにしろ、普通の人を殺したとうのは、心が痛くなる。
過去に私のバイクを奪い取ろうとした集団と、一戦交えたことはある。けど、それ以来人殺しなんてしてないないし、ゾンビってことにしておかないと、心が持たなそうだ。
私の願いも悲しく、周囲からはゾンビの意味のない叫びが聞こえてくる。
辺りをうろつくゾンビは増えるばかりで、聞こえてくるのは、和気あいあいとした声ではなくて、うめき声、それが生きている街かのように騒がしい。
ボルドはというと、私の腰に抱き着きながら、黙って乗っていた。
手の力が抜けて、そのままバイクから落ちてしまうんじゃないか、と思うほど弱弱しい力に、
「ねぇ?大丈夫?」
と思わず尋ねる。
しかし、ボルドは
「、、、、、うん」
と顔を私の背中にうずめたまま、小声で返事をしただけだった。
思えば、ボルドの目的は悪い意味で、達成出来てしまったのだ。つまり、これ以上、私に付き合う必要はないということ。
が、こんな所に乗り物が無い状態で放り出されても困るだろうし、ここに置いていったらこのまま、さっき兄貴がいた場所へと、無言で戻って行ってしまうような気がしてならない。
さて、彼を乗せたまま、何処まで行こうか。
ハンドルを握る手が、妙に汗ばんできて、それを握り直す。
そうだな、いったん街の端まで行ってしまおうか、と心の中で決めたとき、不意にバイクのエンジン音に、違和感を感じた。
続けるように、アクセルを押しているはずなのに、アクセルを完全に離したような感覚がするのだ。
そこで私は、
「あ、、」
と気が付いた
最近ずっと砂漠地帯が続いていたせいで、燃料の事が頭から飛んで行ってしまっていたのだ。
メーターを確認すると、すでに赤いランプが点灯し底をついていた。
誰が見ようと、間違いないくガス欠だ。
まだ、しばらくは動くだろうけど、街を出るまでは絶対に持たないと思う。
「ボルド君?近くのビルに入るわよ」
「、、、うん」
辺りを見渡す。
比較的に綺麗な建物で、近くにゾンビがいない場所を探すと、そこにバイクごと中へと突っ込んだ。
入口にあった瓦礫を勢いよく乗り越えると、すぐにブレーキを踏んで降りる。
中は想像よりも広く、そのままバイクで中へと入っていけそうなぐらいだった。
中にゾンビがいるかもしれないので、ナイフを抜いて周囲を軽く確認するが、何も聞こえてこない、特に問題はないようだ。
「ほら、降りて」
「、、、うん」
ボルドを持ち上げてバイクから降ろした。
涙と鼻水によって、目と鼻が赤くなっていた。
荷物から新しい布を取り出すと、目の下の涙を拭き、鼻水を拭いてやる。
奇跡的に入った入口の真ん前に階段があり、まだ崩れていない上へと昇っていけそうだ。
でも、バイクは持って行けそうにないので、最低限の物を持つと、入口を軽くふさぐようにして立てかけた。
ボルドの背中を押すようにして、ゆっくりと階段を昇って上の階へと上がっていった。
所々が崩れていて、ちょっとジャンプしたりしないと登れない。
どうやら公共の施設か何かだったようで、天井が高くて壁が非常に少ない。
高く見えた建物は5階までが限度で、それ以上先は崩れていて昇ることが出来なかった。
後十階ぐらいはありそうだが、此処までくれば、そうそうゾンビも上ってこれ無いだろう
風が入り込んでこない位置を選ぶと、どさっと座り込んだ。
「疲れたぁ」
振り返ると、相変わらずの顔をしたボルドが座り込んでいる。
まさか、私が子守唄をする日が来るとは思わなかったな。こういうことは苦手なのだ。
私はボルドの背中を撫でると、
「ボルド君?」
と優しく尋ねた。
相変わらず、
「、、うん」
としか答えなかったが、
「兄貴さんのこと聞かせてよ」
と言うと、
「え?」
と返した。
ボルドは、うつむいていた顔を少しだけこちらへとあげた。
私の視線ととボルドの視線が交差をした。
出来る限りの笑顔を作ると「ね」と問いかけた。
「うん」しか話さなかったボルドが
「、、兄貴はね、俺の憧れだったんだ」
とようやく口を開く。
「兄貴は読み書きが出来たし、街で1番力強かった。旅人が入りやすいように街の入り繰りに大きな石を置いたりとか、教会から出てきた子を誰よりも面倒見ていて、、」
「うん」
「俺はまだ良く分からないけど、恋愛?とかして彼女さんを作っていつも一緒にいたし、、とりあえず凄かったんだ」
今までうつ向いていたのが嘘のように、それは良く喋った。
それだけ兄貴との思い出が強いということだ。
そして、この子にとっては親同然の存在だったのだろう。
「でさ、、彼女さんが未知の病気にかかちゃって、、。お医者さんからはもう無理だろうって、、でも兄貴はりんごを食べれば治るかもしれないっていう噂を信じて、、」
りんご。
それはただの果物である、、はずだ。
もうここまで来たら、本当に万能薬になったとしても不思議ではない。
だけど、私は旅人。知識なら誰にも負けない。
「しかも、俺もついて行くって言ったのに、、ダメだって。じーちゃんも兄貴が帰ってこないのに、、ダメって、、」
話を聞き終えた私は、そっとボルドに身体を寄せると抱きこんだ。
聞こえてくる呼吸音から、震えているのが良くわかる。
兄貴さんもね、、長もね、、きっと貴方の事が大切だったのよ」
そっと身体を放す。
「でも、、」
「でもじゃない。もういいでしょ?貴方は十分に頑張った。だから街に戻って兄貴さんの事を皆に伝えて、長にもちゃんと謝るんだよ?」
「ねーちゃん、、」
やっと、ボルドは少しの落ち着きを取り戻したようだ。
少しした所で外の様子を見るために、壊れた窓のから顔を出した。
先ほどまでと違い、見た所周囲にはゾンビの姿はなく、いたって平和そうに見える。
そうか、もしかしたらバイクの音の反応して近づいてきたのかもしれない。
そしたら、囲まれ前にガス欠が起きたのは、ある意味ではラッキーだった、、のかもしれない。
バイクをしばらく使えないことは、非常に痛手だ。
当たり前だが、石油は貴重品。
すでに予備も切らしているので、しばらくは徒歩になことを考えると、心が非常に重く感じる。
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