第13話 ビルからビルへと


 私はこの服が気に入ってしまい、周辺のビル探索する間は、着ている事にした。

 室内なら、日光にやられることも無いだろう。

 とまぁ考え、前に着ていた服は、バイクへと結びつけて、この格好のまま外へと足を踏み出した。

 それを見たボルドは、

「ねーちゃん…流石にそれで探索は」

 と褒めてこそくれていたが、呆れた顔で止めに入る。

 私はボルドへと振り返り、軽く睨みつける。腰に下げているナイフにも片手をかけ、殺意を向けた。

 私が口をとがらせて、ボルドに、

「なによ?文句があわけ?」

 と言うと、彼は視線をそらし、

「いえ…何でもないよ…ねーちゃん」

 と言った。

 視線を周囲へと向けると、目の前にも同じようなビルがいくつも乱立していた。

 道路は砂によって埋もれていた。が、タイヤはコンクリートを捕らえたようで、空回りすることなくしっかりと回転をした。

 私たちは、ためしに目の前のビルへと入ってみる。

 階層はほとんどが崩れ去っており、2階への階段さえさ使えないような状態だ。

 前のビルと違って、棚のような物もない。

 せいぜい、割れた窓ガラスの破片が砂の合間から反射しているのが、見られるぐらいなものだ。

 さらに隣のビルへと入ってみたが、中は同じようにボロボロな状態だ。

 まるではりぼてのビルとでも言ったような感じがする。

 ボルドは残念そうに、

「…最初の建物が当たりだったんだね」

 と言う。

 けど私は、何度も外れのビルを引いて事がある。

「そうね、あんなに中が残っているビルなんて初めてだったもの」

 また次のビルへ、そしてまた次のビルへと。

 数多く乱立するビル群に、入口から中へと入っては出る、というのを何回も繰り返した。

 中には倒壊していて、中にさえ入れない建物も見られる。

 いつか回った所で、

「ねーちゃん…これだけの数を全部見るってなると何日かかるか分からないよ」

 とボルドは弱音を吐き始める。

 私は腕を組み、

「…そうね。でも…」

 と雲一つない、青い空を見上げた。

 もしかしたら、素晴らしいお宝があるかもしれない。

 もしかしたら、まだ誰か住んでいる人がいるかもしれない。

 そんな期待をして、ここで数日を潰すのは間違っているだろうか?

 いや、そんなことはない。

 何せ、オーパーツを探すことが私の趣味だ。

 りんごの木も大切だが、まずはここでの探索も大切だ。

 私は視線を正面に戻し、

「確かに見切れない可能性もあるわね。規模を調べにいきましょ」

 と適当に返事をすると、ボルドにバイクへとまたがらせた。

 バイクのエンジンをかけると、私もハンドルを握り、バイクへとまたがる。

 エンジン音が辺り一面に響き渡る。

 所々に、コンクリートの道路が顔を出している。

 バイクの切る風が、スカートがバサバサと音を立てる。

 スカートでバイクに乗るなんて初めてのことだ。すごい乗りずらい。

 通りすがる荒廃した風景を道路から眺めた。折れた信号機が、砂の中から顔を見せている。倒れかかっているビル同士が、仲良くお互いを支えあっている。すでに、壁だけが崩れて中が丸出しのビル。

 ビルではないけど横に広い建物。公園だったのか空き地だったのか、ビルの隙間に現れるだだっ広い空間。砂の隙間から、微かに茶色い草が生えているのも視界におさめる。

 目をつぶると、そこに広がっているのは昔の風景。

 多くの人がここで生活をする。

 そして行き交う車やバイク、ちかちかと光る信号機。

 綺麗な緑の草花の中で遊ぶ子供達。

 そんな風景を想像し、

「あぁ、、昔は良かったんだろうな」

 なんて言葉が、自然に口から飛び出した。

「ねーちゃん?なんて言ったの?」

 風とエンジン音が、私の声をかき消したらしい。

「なんでもないわ」

 過去に行った事があるどの街よりも…いや都市よりもとても規模が大きかった。

 バイクを走らせてから1時間が経つが、未だに街の終わりが見えない。

 そんな中で、ボルドが何かを見つけたのか、

「とめて!」

 と後から、大きな声を突然出した。

 それを聞きき私は慌ててブレーキを踏んだ。

 バイクは土煙を上げながら、滑るようにゆっくりと停車した。

 後を振り返り、

「どうしたの?何か見つけたの?」

 と尋ねる。

 ボルドは、私の方を見ずに、

「何か動いてる」

 遠くの方を見つめていた。

 私もボルドが向いていた方角を見ると、一つ交差点の向こう側に、動く何かが見えた。

 遠すぎて、ここからだと何か分からないが恐らく生物のようだ。

 私はバイクを降りると、

「行ってみましょ」

 とボルドの手を引っ張った。

 動く何かに向かって、ゆっくりと接近していった。

 近づくにつれ、物ではなく生きている生物の動きであることが、はっきりと分かるようになった。

 記録の書物のカメラを使い、ズームで確認をする。

「人…?」

 そこには4足歩行で、ハイハイをして歩く人のような姿が、映し出されていた。

 記録の書物をしまうと、

「大丈夫ですか?」

 と小走りで近付いた。

 バイクを引っ張ていないボルドが、先に四つん這いになっている人の元へと近づき声をかけた。

 ボルドは心配そうに、その人の顔を確認しようとしたときだ。

「あぅぁx~」

 その人はこちらへと振り向いた。

 だが、そこにあった顔は到底健全な人だとは思えぬ顔だ。真っ青になったその顔には、複数の切り口や縫った後がある。

 思わずボルドは、

「え?」

 困惑の声をあげる。

 目の光は完全に失っており、もはや人として生きているかどうかさえ怪しい。

 困惑するボルドの手を掴んで引っ張ると、一歩後ろへと下がった。

 私がその人に、

「ねぇ?あなた?私の声が聞こえる?」

 と尋ねる。

 その人は

「あうぅあぁあ」

 と意味もない声を発する。

 そんな状況を見て、ボルドの手が微かに震わせながら

「ねーちゃん、、これは?」

 と私の顔をうかがった。

 ボルドの震える手を、私はしっかりと握る。

 恐らくなんかの病気だとは思うが、それにしても何かがおかしい。

 若干だが、腐敗したような臭いも漂ってくる。


 そいつは少しだけこっちに寄って来た。

 それに合わせるように、さらに一歩後ろへと下がった。

 もう一度私は、

「ねぇ?聞こえるなら返事して?」

 と聞く。

 そいつは私の呼びかけに反応して、

「あううぁああああ!”!」

 と奇声を発しながら、突然に立ち上がった。

 ビックリした私たちは、さらに数歩後ろへと下がった。

 手を前へとだらんとたらし、一歩一歩がまるで倒れるかのように、歩き出したのだ。

「あ゛あ゛あぁあ」

 人だが人ならざる姿を見た。

 記録の書物の中にあった小説で、読んだことがある。

 確か、ゾンビとか呼ばれる類で、腐った死体が歩き回るという現象だ。

 人間を襲ったり、音の敏感だとかはありがちな設定だ。

 もちろん、ファンタジー世界の話のはずだ。

 科学が発展する前は信じられたらしいが、目の前にいるのは果たして本物なのだろうか?

 ボルドの手を引っ張り、

「乗って!!」

 と私は静かに叫んだ。

 ゆっくりと後に後ずさりをしながら、バイクのエンジンをつける。

 バイクへと飛び乗り、思いっ切りハンドルを前へと倒す。

 合図とともに、ボルドは私の後ろへと飛び乗った。

 そのまま全速力で、その場所を後にした。

 ワームといい、なんでまたおとぎ話のような事が、次々と起こるのだろう。


 ここは、地球なのに。

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