第9話 戻れぬ砂漠の道

 あまりに都合が悪い出来後に

「はぁ」

 と私は口から魂が抜けていった。

 間違いない。

 私たちが歩いてきた方角に、ワームの大群が見える。

 しかも、流れる川のごとく地平線まで見える。

 なんで…なんで、来たときはいなかったのに。

 ボルドは、

「ほ、ほらワームも先に行けって」

 と言いつつも微かに声が震えているの。

 数分前に一度目の前で見ただけあって、遠くからではあまり恐怖を感じなかった。

 私は空を見上げ、

「、、はぁ」

 と大きく二回目のため息をつくと、しぶしぶとテントを片付け始めた。

 あのワームの群れが、いつこっちに来るかも分からない。早めに移動せねば。

 私はボルドに

「ほら、行くわよ。先に進むしか無いみたいだし」

 と催促をした。

 ボルドは親指を立てると、

「さっすがねーちゃん」

 とこちらに向けた。

 また、ゆっくりとバイクを押しながら歩き始めた。

 今までとは違い、常に周囲を警戒して回りを見ながらの移動だ。

 遠くにそれらしき影が見える度に、少し移動ルートを変更していく。

 なにせバイクを持っているので、走って逃げることができないのだ。

 逆に砂漠地帯でさえ無ければ、バイクで駆け抜けられるのだけど、なんともこそばがゆい。

 でも、最悪の時は置いて逃げるしか無いだろうけど。こいつと死ねるなら、ある意味本望かもしれない。

 歩いていると頭に血が回り、さっきの恐怖が完全に抜けてきた。

 すると、ワームについて考える余裕が生まれてくる。

 あの気持ち悪くて大きい生物が、なんで私を襲わなかったかということ。

 分からないことは聞く、そう学んだ私は、

「ワームって人間が食料なのよね?でも、砂漠なんてそんなん人間いないし、なんであんなに巨大化出来るのかしら?」

 とボルドに尋ねた。

 それに関してはボルドが知っている事があったらしいく、

「主な食料は人間らしいけど、こーごーせー?っていうので光りを食べるって昔に来た旅人が言ってた」

 と得意気に答えた。

 良く知らない単語に、私はしかめる。

「光合成?」

 本で読んだことがある。

 確か植物が光を使って、エネルギーに変えるんだとか。

 そういえば、あいつのぶよぶよとした皮膚は若干緑がかっていた…気がする。

 しかし、そしたらあいつは動物や虫ではなくて、植物なんじゃないか?

 光合成が出来るのは、植物だけのはずだが…これも進化というやつか。

 私は腕を組むと、

「私を食べなかったのは、光合成でお腹いっぱいだったからなのかな~」

 と考え込んだ。

 それにボルドは、

「さー」

と首をかしげた。

誰もワームの気持ちなんて、分かるわけがないか。

 あんなミミズ見たいに気持ち悪いの…。

 ミミズみたい?そういえばあいつ、目も口も鼻も無さそうだけど、どうやって周囲の把握をしてるんだ?

 もしかして、私が硬直して動けなかったお陰で、"私が見えなかった"んじゃないか?

「ボルド君。ワームってどうやって周囲を見てるか分かる?」

 直ぐに何を言っているんだと、

「え?、、目じゃ、、あれ?」

 返事をしようとするが、そういえば不思議だなと考え込む。

 私は自分の目を指で示すと、。

「少なくとも目がないのは確かだから、動かずに静かにしていれば向こうはこっちのこと認識出来ないんじゃない?」

 と言いながら、次に耳と鼻を指で示した。

「た、確かに、、流石ねーちゃん」

「いけそうね。私がビビって声も出なかったのが功を奏したわね」

 私は自信満々に、自分の恥ずかしい話を盛り上げた。

 でもすぐに、「あっ」とそれに気づいて少し顔が赤くなってきた。

 この暑さにも関わらずに、顔に熱が籠っていくのがはっきり分かった。

 口にボルドは手を当て、

「ねーちゃん、、かわいい」

 と小さく笑いをごまかしているのが見えた。

 むっと私はほほを膨らませ、

「…いくわよ」

 と足を少しだけはやめた。

 さっきまで意気揚々と、ワームのい分析をしていた自分が恥ずかしくなってきた。

 ここまで、すごい感じを出してきて、実は全然でしたみたいな感じになってしまっているのが、残念で仕方がない。

 緊張しているのかもしれない。

 自分では気が付いていないだけで。

 だから、彼を置いていきたかったり、はやく彼との旅を終わらせたがっているのかもしれない。

 オーパーツのためなら這ってでもいくとう性格の私が、あんな怪物程度のために引き返すと言っているのが、よく考えてみたらおかしい。

 一緒に旅をする、という行為は実は3年ぶりぐらいで、この重荷をはやくおろしてしまいたいのだろう。


 ワームの対処方法が分かったかもしれないかと言って、やることが変わるわけではない。

 遠くに見えれば避けるし、近づいてくるようなら、出きるだけ早くその場を離れる。

 変わった事といえば1つだけ。

 まったく会話をしなくなったことだ。

 音に反応されるかもしれない、と私たちは最低限の話をできる限り小さな声でしかしなくなっていた。

 ボルドが先に見つければ、

「ねーちゃん。右前に一匹見える」

 と小さく口を開き、それに私が、

「ありがと」

 と返事をする。

 若干の進路を左に向ける。

 そして、遠くにその横を通り過ぎるのが確認出来たら、また元のルートへと戻る。


 ゆっくりとしていられるのは夜になってから。

 ワームは光合成をする。

 つまりは夜はそれが出来ずに動かなくなると予想したからだ。

 太陽が見えなくなると寝て、また動きワームが始める前に動き出す。

 そうすることで、昼間の疲れをしっかりと回復させることが出来た。


 そんなこんなで歩いていると、遠くにまた何やら大きなものだ見えた。

 どうせまたワームだろうと目をこらすと、全く動いていなく、またワームとは違う形をしていることに気が付いた。


 記録の書物を取り出すと、カメラをそちらへとズームしていった。

 白く、四角い何か。ここからではそれが何だか、全く確認ができない。

 私はその方角を指で指して、

「ボルド君?あれが見える?」

 とボルドにも確認させた。

 また、私1人で判断して、恥をかいたりやばい目にあうのはごめんだ。

 ボルドは手を手をおでこにあてて、目をじぃ~と凝らした。

 ピントが合ったのか、さらに首を少し伸ばしてつま先立ちになる。

 そして、同じものが確認できたらしい。

「何あれ?」

「私が知りたいわよ。ワームではないし、、他にああいう四角い化け物とかいないわけ?」

「知らない。ワームしか聞いたことないよ」

「、、行ってみよう」

 徐々に近づいていく度に、まったく動かない事から、生物でない事はすぐに分かった。

 そして、その大きさにも驚いた。

 遠くからは見たときはそんなに大きくないのかと思っていたが、ワームの比じゃない。

 それの二倍三倍、、十倍そのぐいらいの大きさが、あることが分かった。

 だんだんと近づいてきた四角い何かに、何処か見覚えがあった。

 あれは、、多分旧文明の遺産、、

 私は声に出して、

「ビルだ!」

 と叫んだ。

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