第8話 未知との遭遇
あり得ないという言葉がある。
それは自分の世界の小ささの言い訳であり、無知への証明である。
だから、私がそいつに遭遇したときは、久しぶりに死んだと思った。
朝方。あまり眠れなかった私は、外の様子を見るためにテントの外へと出た。
砂嵐はすでに止んでいて、遠くに赤い太陽の光がさしていた。
が、遠くを眺めていた私は、テントへと戻ろうとして自分のいる場所が影に成っていることにようやく気が付いた。
雲でもかかったのかとばかり、
「ん?」
と私は上を見上げた。
が、そこにいたのは、化け物という台詞がピッタリの生命体だった。
いもむしのような形をした巨大な生物。目は無く、先端には円形に配置された歯。そして、ブヨブヨした皮膚が何より不気味さを強調している。
困惑して、
「え、、?」
と声を詰まらせる。
完全に想像の生物と信じ込んでいたワームが、目の前にはいた。
私の数倍の大きさで、一口で飲み込まれそうな口を持っている。
「まさか、、いや、え?」
言葉を失うのと同時に、体が硬直して動かなくなった。
全身が緊張のせいで、ピクリとも動かない。
記録の書物にあった、空想の生物、ワームは私の目の前にいる。
テントの後ろから、私の方にあの口を向けている。あれ吸い込まれる事を想像してしまった私は、珍しく頭の中が真っ白になった。
だが、幸運な事が起きた。
ワームは何故か私が目の前にいながら、襲いかかる動作もせずにその場をゆっくりと離れていったのだ。
それを見届けてしばらくした後、やっと全身から急に力が抜けた。
ぺたりとおしりから砂の上へと座り込む。
体からは、砂漠の中にいるとは思えぬ冷や汗が、全身から滝のように流れ出たのを感じた。
空想上の生物じゃなかったのか。ボルドが言っていたことが、まさか本当だったとは思わなかった。
過去にこういった生物を見たことがない。
絶対そうだ、奴はここら辺にだけ生息している、何かが突然変異でもして誕生した新たな生物だ。
ゆっくりと歯車のごとく思考が動き出し、
「どうする、、かな」
だんだんと事態の深刻さに気が付き始める。
なんで、ワームが私を見逃して去っていったかは分からない。
しかし、あいつらの縄張りに間違いなく入ったということだ。
あれが1匹だけならいいが…。
ぐずぐずしていられないと、テントを開けるとボルドを揺すり起こした。彼
は眠そうな顔をこすりながら、
「もう朝?ねーちゃん?」
とむくり起き上がった。
けど、直ぐに私の顔色をが、いつもと若干違うのに気が付いたのか、眠そうだった目を一気に見開くと、外へと出てきた。
「どうしたの?ねーちゃんなんだが…少し顔色が悪いよ。もしかして何処かケガしたとか?」
だましても仕方がないので、彼にさっきのことと私が思っていたことを伝えることにした。
私は深呼吸をすると、
「ワームが出た」
と口を開いた。
さらに目が覚めたのか、
「え!?今!?」
慌てて周りを見渡した。
が、当たり前だがすでにワームの姿は、視界の何処にもない。
「?ねーちゃんが追い払ったの?」
ボルドは期待の目を向けてくるが、
「まさか。勝手にどっかいったのよ…この顔色と汗を見てよ、、ビビりまくりだったわよ」
「え?でも、記録の書物?で何か分かったって余裕そうな顔してたんじゃ、、」
不思議そうな顔をするボルドに、事の顛末を言って聞かせた。
私の浅はかな考えと、そして考えていたことについてだ。
ボルドは空想上の生物だった、ということについてはかなり驚いていた。
が、自分の言った事が信じられていなかったというか。
完全に子ども扱いをされていたことに、
「えぇ、黙ってないで言ってくれれば良かったのに。本物を遠くから一度だけ見たことあるよ」
と、ほほを膨らませ、若干怒った。
本当に、大変申し訳ない。
「えぇ。悪かったわ」
と素直に謝った。
今回は奇跡的に助かったとはいえ、何かしらの対策を練らねばならないだろう。
でも、あんな化け物と戦うことなんて無理じゃないのだろうか?
バイクに体重を預け、お手上げだと手の平を空に掲げると、
「一応言うと、私はなんの案も無いわ」
と頭をかいた。
ボルドも、
「僕も何もない。何もないからこそねーちゃんに付いてきた」
と言う。
腕に巻いた時計を見た。
彼にこのオーパーツを貰ったのだから、一応私にはりんごの木まで連れていく義務がある。
だけど、あまりに、力不足でこっちの身の危険まで感じてきて、非常に引き返したくなってきた。
考えることを諦めた俺は、
「帰るわよ」
と元来た方角を指差す。
それに、
「マジで?」
とボルドが、飛び上がる様に驚いた。
あの気持ち悪い生物を思い出すだけで、全身が震え経つ。
諦めるというよりは、対策を練ってから再び挑んだ方が良さそうだ。
あれの弱点、対処法やっ武器の調達などやることが多すぎる。
「じゃぁさ、そのオーパーツ返してよ」
ボルドは、私の腕に付けている時計を指差した。
けど私は、
「いやよ」
と全力で拒否した。
「これは私が貰ったのだから私の」
と自分でも理不尽な事を言っていると分かるが、ぷいっと顔を背ける。
それに、ボルドは怒って飛びついてきた。まだ小さい体ながら、バイクを一緒に押していただけのことはある、ものすごい力だ。
「な、なにをするの!」
「ねーちゃんが役立たないは分かった。このまま一緒に行ってくれるならいいけど、引き返すなら返してよ」
「やだ」
「そんな無責任だよ」
私はボルドに取り上げられないように、腕を高く上げた。
それをぴょんぴょんと、砂に埋もれた足を引きずり出しながら取ろうとする。
私のが身長が若干高いおかげで、彼の手は腕を微かに触れる程度だ。
くるくるっと身体をまわして、彼を振りほどく。大人げないとなんと言われようが、これは私のだ。
「ちょっと、諦めなさいよ」
「ねーちゃん、、失望したよ。りんごの木はいいの?」
良くない。良くないけど死にたくない。
残念だが、私は帰らせてもらう。
彼を引き離すために、くるりと後ろを振り向いた。
が、そこで絶望を見た。来た道…そこには先程まで見えなかった多くの影が見えた。
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