第7話 未知との遭遇
灼熱の太陽が、砂漠の中でバイクを引きずりながら歩く2人へと、容赦なく叩き付ける。
タイヤの下へと板を潜り込ませ、押すことで少しずつ前へ前へと移動する。
歩けど歩けど、ゴールの見えない砂の道に、ついにボルドが音をあげた。
ボルドはバイクを足で小突くと、
「ねーちゃん。疲れた…バイクを捨てて、荷物を背負った方が楽なんじゃないの?」
と愚痴言いながら足を止めた。
それにつられて私も足を止めると、ため息をつき、
「砂漠地帯ではそうかもしれないわ」
と返す。
地球のほとんどが砂漠地帯とはいえ、いうならば船で陸地は移動できないみたいなものだ。
船は、1番輝ける海を移動すればいい。同じように、バイクなら平地を走ればいい。
けど、こんな風に目的地があるときは、仕方がなく砂漠をバイクを押し、横断せねばならない。
砂の地へと、根をはったように動かないボルドに、
「そんなに、嫌なら1人で行けばよかったじゃない?」
と私は彼の背中を叩く。
ボルドは少しよろめくき、足を数歩前に出すとこちらを振り向くと、
「いやいや。俺1人じゃ、砂漠なんて踏み込めないよ」
物凄い勢いで手を横に振った。
私はなんだか、彼の言葉と挙動に違和感を覚える。
「そんなに危ないところかしら?方角さえ掴めていればたいしたことないと思うけど」
今の時代を旅する、いや旅だけではなく、ただ単に移動するだけでも砂漠の移動は必須である。
昔で言うところの、道路の交通ルールみたいな、初歩の初歩である。
実際に私も、バイクさえ無ければここまでの苦労していない。
まぁ、オーパーツを手放すという選択肢は、絶対にないけど。
「え?じゃぁねーちゃんはワームと会ったときどうしてたの?」
聞きなれない単語が私の耳に入ってきた。
ボルドに、
「ワーム?何それよ?」
と聞き返す。
無垢な反応をした私に対してボルドは、
「え?冗談だよね?」
とボルドはキョトンとしたような顔つきになった
長く旅をしているが、ワームという正体不明の出来事には、遭遇したこともないし、見たこともない。
砂嵐の別名だったりするのだろうか?
だが、彼の反応を見る限り、からかっているわけでは無そう見えた。
だからこそ、不安になり、
「真面目に聞くわね?ワームって何?」
と真剣な顔で尋ねた。
なにせ死活問題である。
ここで情報の錯誤があった場合、これから先に余計に困ることになるだろう。
本気で私が分からないと察したのか、
「ワームっていうのは砂漠地帯に住んでいて、人間を襲う大きな細長い生物だよ」
とボルドは説明をしてくれた。
生物…聞いたこと無いけど…。
「初めて聞いたわ。もしかしたら。ここら辺の砂漠地帯にしか生息してないのかもしれない」
首をかしげる私に、
「えっと、、じゃぁねーちゃん、、もしそいつに遭遇しても?」
とボルドの顔はひきつっていた。
私はニコニコした表情を浮かべ、
「死ぬかもね」
と手のひらを上へと向けた。
ワームが、どの程度の大きさで、どれだけ凶暴化にもよるが、どっちにしろ絶望である。なにせ、知識がない。
不安がるボルドついに、
「えぇえ、引き返そうかな、俺…」
とまで言い出す。
街を出てから、既に2日が経過していた。
バイクのことを考慮すると、あと1日…2日かかるかもしれない。
正直、ボルドがいるだけで、体力減りが違う。
いやいや連れてきたが、最後まで意地でもついて来てもらおう。
そうだ、記録の書物なら。
「ちょっと調べるわ」
ポケットから記録の書物を引っ張り出した。
そこで、ワームと名前を打ち込み、検索をかけた。
見つかるはずないだろと思っていたそいつは、意外にも直ぐに見つかった。
何せ、名前がそっくりそのままワームだったからだ。
「ワーム」
いもむしのような形をした巨大な生物。一般的には目が無い・円形に配置された歯・ブヨブヨした皮膚といった特徴を持つ。なお、空想上の生物である。
最後の1文である空想上の生物である、というのを読んだ私はちらりとボルドを見た。
不安そうにこちらを見つめ、嘘をついている様子は無かった。
けど、砂漠に出たことない彼がワームを直接見たことがあるとは到底思えない。
それに長の友人は、あの街から北東方面にある木を見て帰ってきたのだ。そんな生物がいるわけがない。
ワームは存在しない。
街の人がボルドを、もしくは若い人達を、興味本位で砂漠へと出さないようにするための嘘だったのだろう。
きっとサンタみたいなものだ。この旅で真実を知ってもらおう。
一人納得した私は、
「なるほど」
と頷いた。
「何か分かったの?」
と駆け寄ってくるのを手であしらい、
「そうね、、秘密よ」
と唇に人差し指を当てた。
ここで、教えてしまっては面白くない。
是非とも街に戻るまで、びくびくしている姿を見ていよう。と、性格が悪い私は考えた。
不満げに声で
「え~でも」
とボルド漏らした。
まぁ、いいじゃないかと、短い休憩を終わらす。
タンクからコップに水を入れると、ボルドへと渡した。
火であっためた分けでもないのに、コップからは湯気が見えるような気がする。
「ぬるい、、」
冷たい水が飲みたい。
井戸でキンキンに冷やされた水を、一気に飲み干したい。
記録の書物にある、電化製品図鑑2037によると、物を常に冷やし続けられるオーパーツがあるという。
ぜひとも手に入れたい。
持ち運ぶのは難しそうだけど。
水を飲み終えると、私達は再び足を動かし始めた。
私は何となく、
「そういえば、ボルド君はなんでりんごの木に行こうとしてるの?私はただの趣味だけど」
とボルドに尋ねた。
彼の意気込みと、オーパーツにのせられて連れてきたが、彼の目的を聞いていなかった。
突然の質問に、神妙そうな顔をしたが、
「長から、帰ってきた人はいないって聞いたでしょ?」
と口開いた。
そういえば、そう言ってた。
「そうね」
「俺の仲が良かった兄貴がさ、病気の彼女のためにりんごを食べれば治るっていう話を聞いて出て行ったきり帰ってこないんだ」
想像より、突然重い話が始まり、私は聞いたことを少し後悔した。
「彼女は?もう、、」
「うん、、」
「兄貴を探しに行くって事か、、」
兄貴か。私には親しい中の友人や家族がいなから、よく分からないけど、命をかけるほどの事なのだろうか?
それに彼女って、
まだ、この世界には、恋愛という概念が存在したんだな。
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