第4話 危険と疑問

 太陽が高く上り、昼になった。

 レーションを噛りながら、だらだらと記録の書物を読んでいた時だ。

 突然、入り口の扉がガンっと開かれ、

「じーさんいるか?」

と声を荒げながら、一人の少年が入ってきた。

 目をそちらへと向けると、彼と丁度視線が合ってしまった。

 なんだか気まずくなった私は、ペコッと小さく頭を下げた。

 けど、そんな事を全く気にしないようなタイプらしくて、ずんずんと目の前まで来ると、輝かしい目をして目の前へと立った。

 座っている私に、彼は中腰で視線を合わせ、

「ねーちゃん旅人だろ?やっと見付けたよ」

 と息を荒げながら尋ねてきた。

 彼の顔全体が汗まみれで、ぽたぽたと床に垂れ落ちる。

 記録の書物をポケットにしまうと、

「私?長を探しに来たんじゃないの?」

 と顔をしかめる。

 少年は、これでもかとキラキラとした目で、

「じーちゃんに、ねーちゃんの居場所を聞こうと思ったんだ。ここに来てよかった」

 と言ってくるが、そんなに何かを私に期待されても困る。

 けど、この少年の口から飛び出した言葉は、私の予想から外れていた。

「りんごの木まで連れてってくれ」

 私は、あまりに思考から外れていたお願いに、

「うん?」

 と思わず聞き返してしまった。

 少年は眉をひそめ、うでを組むと、

「なんだ?ねーちゃん行くんじゃないのか?」

 と言及してくる。

 口ごもりながら、小さな声で私は、

「そうよ」

 と返答する。

 この少年は何を言っているんだ?

 行きたいなら、1人で行けばいいじゃないか。

 砂漠といっても、歩いて3日。1人でいけない距離じゃない。

 長が言ってた「帰ってきた人がいない」という台詞がまぁ気にはなるけど。

 私が返事に困っていると、

「これボルド!!」

 ろ会話を聞いてか、奥から長が出てきた。

「お主まだ諦めていなかったのか。生きてかえって来た奴はいないといったじゃろ」

 険しい剣幕で長が怒鳴り付ける。

 まるで自分の子供のように、厳しく愛がある怒りだ。

 会話からして、何度も同じようなことで喧嘩をしているに違いない。

「だって、このねーちゃん旅人だぜ?経験豊富なこの人に、ついて行けば平気だって」

 そう期待されても困る。ここまでこれたのだって運に近いものを感じるし、死にそうになった事だって何度もある。

 それに、こんなお荷物を抱えて旅なんかしたくない。

 私は心にある言葉をそのまま、

「駄目よ。邪魔よ」

 と口に出した。

 変に期待させるような事をいうと、諦めずにずっと付いてきたり、しつこかったりする。

 長は少年ボルドの頭を、こつんと叩く。

「そうじゃ。旅人もこう言っておるし、諦めるんじゃ」

 何だか納得出来ていないように、

「え~、、う~ん 、、」

 と悩んでいたが、これ以上ここで喚いてもどうしようもないと覚ったのか、大人しく回れ右をした。

 意外と賢い奴なのかもしれない。

 が、扉から出る瞬間の少年ボルドは、

(オーパーツあげるから、出発するとき声かけて)

「!?」

 と私に小さく耳打ちすると外へと出ていった。

 …全く仕方がない少年だ。

 ボルドが出て行くのを二人で見送る。

「すまんな旅人。あやつは好奇心旺盛過ぎてな、、」

 長は申し訳なさそうに頭を下げた。

 私はすかさず、手を横に振る。

「いえい、え大丈夫ですよ。そう言う人は多いですから」

 長、、すいません。

 申し訳ないけど、ボルドとかいう少年に、私は買収されたので連れていきますね。

 と心の中で謝罪をし、長が部屋から出ていったのを見ると、プランを練ることにした。

 まず、直ぐに砂漠地帯に入るから、バイクはまた動かぬ荷車へとなるだろう。

 しかし、あの少年がいれば、いつもより早く移動できるに違いない。

 問題は帰ってきた者がいないということだ。

 はじめに思い付くのが、りんごの木が存在しないということ。存在しなければそのまま砂漠の真ん中で倒れる可能性が高い

 ?そういえばなんで帰ってきた人はいないのに、りんごの木の存在を皆知っているんだ?

 まぁいい。次に思い付くのが未知との遭遇。私の知らない何かによって道を阻まれるという事。盗賊、狂暴な虫や動物も考えなければ。

「武器か、、」

 残念ながら武器と呼べるのは、サバイバルナイフを二本程度を持っているだけで、他には何もない。拳銃とかいうオーパーツ手に入れられれば、心強いのだけれど無いものはしょうがない。

 ぶつぶつと考えていると、大きな荷物を抱えた長がドアを開いた。大量のレーションだ。足元には水がたっぷりと入ったバケツが鎮座していた。

「ありがとうございます」

 慌てて外へと出て、バケツの水をタンクへと補給をする。空だったボトルに、井戸から汲み上げられたばかりの冷たい水によって、表面がキラキラと水滴が輝いた。

 次にレーションをこれでもかというほどバイクに詰め込む。

 貰えるうちに貰っておかないといざというときに困るのだ。

 過去にあった最悪の事態は水はあるのにレーションがないという事態だ。やっとこさたどり着いた街で、オーパーツと交換しないとレーションはあげないとか、最悪な事を言われた。その時に長く連れ添っていた手鏡を失った。あの街への恨みは未だに忘れない。次よる機会があれば廃墟にしてやる。

「これで全部だ」

 長から食料と水を全て受け取った。かなりの量だったが、全て1人で持ってきてくれたらしい。

 なんだか悪いことをしたような気分だ。これから悪いことするけど。

「ありがとうございます。ところで、明日の朝には出ようかと思うのですが、りんごの木があるって誰が教えてくれたのですか?」

 私はついさっきの思った疑問を投げかけた。

「そこにある木の石像は、私の友人が北東方面見てきたのを再現したものじゃ。しかしりんごの木はな、、分からんのだ」

 どういうことだろう。

「分からない?街の誰もが知っているのに?」

 長は首を傾げ、部屋の隅にある木の石像を見つめながら、

「そうじゃ。レーションのように、まるで空気のようにいつの間にか街へと染み渡っていたのじゃ」

 と教えてくれた。

 不思議なものだ。

 これはいつも以上に、気を引き締めなくてはいけないかもしれない。

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