第5話 針の無い時計
前日と同じように、しかもそれより早く、日が登らないうちに外へと出た。
長を起こさないように荷物をまとめると、そっと扉を開く。
本当は、最後に別れの挨拶を言いたかったのれど、起こしてしまってはボルドを連れていく事がばれてしまい、オーパーツを手に入れることが、出来なくなってしまう。
外へと一歩出た所で、
「あ!」
と重大なことに気が付いた。
少年ボルドの家が何処にあるのかを、聞いていなかったのだ。
本当のまぬけとは、このことを呼ぶのかもしれない。このままでは、1日出発を遅くしなければならないかも。
しかし、せっかく出発の準備までして、外へに出たのに。
長の家へとおめおめと戻るのも、なんだか癪にさわる。
あるわけがない奇跡を信じて、街の東へと足を進めた。
薄暗い街を、二つの月が照らす。
目を凝らしてやっと見える道を進んでいくと、
「旅人のねーちゃん!」
と暗闇の中から手を振るシルエットが浮かび上がる。
この少年は預言者なのか、と思ってしまうほど、ベストなタイミングで彼は現れた。
しっかりと背中には、荷づくりがされている
まさに、私が今日出発するのを知っていたかのような格好に、驚きを隠せない。。
彼の顔が見えるほどまで近づくと、
「ボルド君だったわね。よく私がこの時間に今日出るって分かったわね」
と話しかけた、
それにボルドは、にこにことした表情で口角を上げ、
「うん。ねーちゃんが来てから毎朝この格好でここに立ってたから」
と首を縦に振った。
想像を超えるほどの、気合の入れようだ。
どうやら、彼は本気で私についていきたいらしい。
こうなったら、ちゃんと目的地まで連れて行こう。どうせ、そこに私も行くのだし、オーパーツが手に入るなら、文句は言わない。
私は手を差し出すと、
「で、オーパーツは?」
と尋ねた。
ボルドは鞄の隙間に手を突っ込むと、
「これでいい?」
と何かを握り、こちらへと差し出した。
開かれた彼の手の平の上には、腕時計があった。いや、時計の形をした腕につけるブレスレットのようにも見える。
なぜなら、時計としては重要な、針が付いていなかったからだ。
しかし外観と感触は、確実にオーパーツそのものだった。
見たことないものだと、私は顔を近づけて、
「これ、何?」
と尋ねた。
ボルドはそれを私に渡すと、
「分かんない。ねーちゃんが分からないなら、俺にも分かんない。でも、絶対これオーパーツでしょ?」
と少し不安げな表情を作る、
改めてそれをよく見る。
時計…をかたどった何かである。
この針がある所、その感触に何やら見覚えがある。時計の裏をひっくり返して見ると、そこにはよく見たことがあるロゴが彫られていた。
蜘蛛の巣を基調とするデザイン、そっと手で暗くするとうっすらと青く浮かび上がった。
「これは…」
私はくるくると時計をまわす。すると、記録の書物と同じように、充電するための穴が開いているのが見つかった。
それにコードを指すと、ピタリとはめ込まれて、一部が小さく赤く光った。
大正解だ。
不思議がるボルドの手を取ると、
「ボルド君、、行くわよ」
と引っ張った。
「え?何?何だったの?」
その疑問に、私は無視した。
街の外へと向かって歩きだす。
なんとなく何かは分かったし、これ以上あそこで騒いでいては、誰かに見られても面倒だ。
本当なら、このままバイクで一気に行けるところまで行きたいんのだが、大きな音を立てることはよろしくないから出来ない。
いまいち私の思考がうまく伝わっていないボルドが。
「ね?連れてってくれるんだよね?いいんだよね?」
と騒ぎ立てる。
私は人差し指を唇に当てる。
「連れてってあげるから静かにして。街の人に見られたら面倒でしょ」
「ほんと!?ありがとう。ねーちゃん」
私は小さくガッツポーズをするボルドを見て、少しだけ可愛く感じた
速足で歩いていると、道の端に2つの大きな石が置いてあるのが見えた。
そこから先は建物がなく、何もない荒野が広がっていた。
街の東側の出口に違いない。
ここからなら、見つかっても逃げ切れると思うし、この街に来ることも無いだろうし大丈夫。
問題ない。
私はバイクを指差し、
「乗って」
とボルドをバイクへとまたがらせた。
親指でアクセルのレバーをグッと押すと、静かな街にバイクのエンジン音が響き渡る。
さぁ、いこう。りんごの木を見に。そしてりんごを食べに。
バイクは、大きな音を立てて荒野を走る。
ボルドはバイクのような乗り物に乗ったことは無かったのか、大興奮だ。
「おねーちゃん、見てみてあの岩」
少々うるさいが、多少のことは大目に見てあげよう。
なにせこの少年は、オーパーツをくれたのだから。
数分走ったところで、想定通りだが、さっそくタイヤが回らなくなった。
しぶしぶとバイクから降りると、エンジン切った。
気が付くと太陽も昇り始め、辺りには日の光が差し始めた。太陽によって砂が温まり、これからは徐々に暑くなっていくはずだ。
バイクを降りたボルドは、
「ねーちゃん。このオーパーツは砂に弱いの?」
と指さす。
しょうがない。これでも、砂には強い方だけれど。
私は、残念そうな表情で、
「そうよ。もっとタイヤが大きい乗り物ならいけるだろうけどね」
と返した。
タイヤを動かすために、バイクから板を取り出そうとした時に、赤色の光が緑色に変わっていることに気がついた。これで充電が終わったということだだろう。
時計をくるくるとまわすと、ボタンらしき箇所が見つかった。
そのボタンを押すと、黒いかった画面が白く輝いた。
やはり、記録の書物を同じようなものらしい。
画面に色が付くと、そこには数字が映し出されていた。
なるほど、記録の書物と同じように充電する機能をもった時計らしい。ニコニコと私はそれを腕えと付けた。
太陽にかざしてみると、きらきらと輝き非常にかっこいい。気に入った。
よくやったと、ボルドに時計を見せてやった。
「それ何?」
ボルドは、それを不思議そうに見つめた。
自慢げに私は、
「時計よ」
と答える。
「時計?何それ?」
「時間っていうのは分かるわよね?普通は太陽の位置でしか分からないけど、これを使えばもっと正確なものが分かるのよ」
私の腕につけた時計を、
「え!凄い!!」
と服の袖は引っ張る様にボルドは興味深くのぞき込んだ。
が、どうやら文字が読めないらしく頭の上に?のマークが浮かんでいるような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます