第6話 惚れ直しのシャブシャブ



ここはショッピングモール。


俺、小山内おさない洋一よういちは、ここへプライベートの買い物に来ている。

と、いってもプライベートブランドをスーパーで買っているわけじゃない。

それを買うのもいいが、今日は前から目星めぼしをつけていたところへ買い物に

きたのだ。


「いらっしゃいませ。商品お預かりしまーす」

ロリっぽい声で応対してくれる店員さん。俺は、その店の常連ではないが

その店員さんを知っていた。

安孫子あびこ織姫おりひめ。300円ショップなるところで働いていた。


「はい。全部で900円になります。」

「はい。」俺は1,000円札を彼女に渡す。

「1,000円いただきましたので、100円のお返しです。」

唐突とうとつながら、俺は彼女に話しかける。

「ねえ、ひょっとして、織ちゃん?」

「えっ、ああ、おさないくん・・・・・」


彼女とは、中学以来、10年ぶりほどの再会となる。

織姫とは、幼稚園が一緒で、小学校も、当然おなじだ。

同じクラスになったことも何度もあり、よく話もした。

中学でもいっしょのところへ行ったが・・・同じクラスにはなら

なかった。そして、高校も別々になったのだ。


(ここであったのも、何かのえん・・・いや、運命では?)

俺は、心の中で舞いあがる。


「ここで働いてんの?」

「う、うん。一応、ここで正社員としてね。」

「ところで、織ちゃんであってる?べにちゃんじゃないよね?」

「ううん、わたし織姫だよ」

「そっか、じゃあ頑張ってね」

そういって、俺は店を出る。後ろには、けっこう列がならんでいた。


―――――――


その日の夜、両親が遠出とおででいないため、俺ひとりで夕食だ。

両親から夕飯代をもらって、外で食べることにしている。

ここはさいわい、ショッピングモール。外食産業の宝庫ほうこだ。


幼馴染と、運命の再会を果たしたのだ。こんな日は、お祝いを

しなければ。


「ん~、どこも混んでんなあ・・・なんなら、パーっとやりたい

んだが・・・おっ!?」


俺の目の前に飛び込んできたのは、フードコートではない。

1階にある、内装が広いテナントの、しゃぶしゃぶ屋だった。

一人だけど、大丈夫かなあ・・・と、言いたいところだが、

今の俺はハイになっている。手当たり次第しだい同席させてもらおう。


「ちわーす・・・」

「何名様で?」「一名です」

「開いてる席へどうぞ」男の店員に促されて、俺は4人用の席へ行った。


(へ~、ここのしゃぶしゃぶ屋は、バイキング形式なんだ・・・)


しゃぶしゃぶ用の具材は、肉をのぞいて、野菜や豆腐、白滝しらたきなどが

ずらりと皿にならんでいるスペースがあった。セルフサービスで、自分で

取りに行けるのだ。

俺も注文してから、取りに行ってこよう。


―――――――

~セット内のしゃぶしゃぶ肉~

牛ロース1箱、豚ロース1箱、豚バラ肉1箱。

小山内おさない'sセレクション~

白菜(多め)

チンゲン菜(2本くらい)

ニラ(100グラムほど)

えのき茸(1房まるごと。)

白滝(ゆでる前のスパゲッティみたい。10本くらい)


肉は、食べ放題コースの為、店員を呼び出せば追加注文できる。

鍋の温度は、自分で調整する。150℃まであげられるようだ。

だしも選べる。俺は昆布だしにした。

・・・そろそろ食べごろだ。まずは、王道おうどうの牛ロースにするか。

一枚箸にとり、沸騰したダシの中で、フラダンスをさせる。


小皿に注いであるポンのタレに肉をつけてから、俺の口に運ぶ。

おおっと・・・一口でいこう。あむ。もぐもぐ・・・

ん~~・・・と、うなるほどのうまさだ。

ポン酢もすっぱすぎない。肉のうまさでちょうどいい塩梅あんばい


あらかじめ、白菜をダシに入れて火を通しておく。葉との二種類。

さて、今のうちに、豚バラをいこう。豪快に二枚。

湯の中でおよがせて・・・余分なあぶらをとるイメージだ。

ポン酢をつけて・・・ぺろん。もぐもぐ・・・ん~・・・・

正解。ほんとに余分な脂がとれている。旨味だけ残った。

そして、柔らかい。

白滝も入れておこう。パスタの要領で、鍋のふちえんくように

白滝をざらあ、と居れる。


・・・3分ほど待っただろうか。

そろそろ、白菜も煮立ったころだろう。の部分を、食べてみる。

それも、豚ロースと一緒に。

まず、豚ロースを湯がいてから、葉っぱを豚肉で包む。

ポン酢につけて、あむ。はっふはっふ・・・


うふふ・・・・・うまい。肉の柔らかさと、葉っぱのシャキシャキ感の

ハーモニーが泣かせるよ。


の部分はどうか。

あんまり早いと、生で食べるのと変わらん。固いだけだ。

こちらは、単体で食べる。ポン酢につけて・・・

しゃく・・・・しゅくしゅくしゅく。

んん・・・俺の中で、喜びの花が咲いた。

火、通っとる。待った甲斐かいがあったってもんだ。

バランスよく食べなくてはなあ。

もっと白菜を入れておこう。ニラも。えのきも。


ポン酢が薄くなってきた。テーブルに置いてあるポン酢の入れ物を

手に取り、小皿に注ぐ。ポン酢。


さあて、肉もだいぶ減ったし、店員を呼んで追加注文するか。


「すいません」

「はい」女性店員を呼び止める。

「お肉の追加、お願いします」

「どういたしますか?」

「えー、牛ロース2つ、豚バラ2つ。」

「はい。かしこまりました。」


俺の夜は、なんだか長くなりそうだ。

今日の俺は、一人ではない。

近くに、4人で席に座っている家族がいるのだ。

そのとなりで俺をながめていた兄弟。

姉と、弟の兄弟。笑ってこちらを見ている。小学生くらいだ。


今日の俺は、上機嫌だったので、微笑み返してあげた。

兄弟の両親とも目があったので、俺は軽く

「あ、どうも」

と、笑顔で挨拶しておいた。


かくして、白菜も煮立ち、追加の肉もやってきた。

俺は、セットドリンクバーのウーロン茶で口をうるおし、

次の食事に取り掛かった。





















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