第4話 胸騒ぎの一日part2 ~社食~

えーと、スマホスマホ・・・あれ?


会社の休憩所。

俺は、スマホを自宅のベッドに置き忘れたのだった。

そう言い切れるのは、今朝けさ充電しっぱなしによる、見過ごしだった。

俺に忘れられるとは、なんたる醜態しゅうたいだ。

おかげで、車での仮眠時間がけずられてしまった。帰ったら、とっちめいてやる。


そのとなりで、「なあ、ちょっといい?」と、話しかけてきたやつがいる。

俺の同僚の高木実だ。

「なに?高木。」

「俺、将来工場長をめざすことにした」

「はい?」

「夢はやっぱでかくなきゃなあ。いろんな部下を仕切ったり、いろんな仕事内容

を管理したり・・・だからいろいろ勉強しなきゃならない。それで、

に相談があるんだけど。」


こいつは、けっこうのお調子者だ。口ばっかりの番長。でもまあ、仕事はできるほうだ。わからないことがあったらこいつに色々聞けるし。


「なあ、?」

・・・喧嘩売ってる?「俺は、小山内おさないだよ」


「なあ小山内、ちょっと見てほしいものがあるんだ」


それは、ある書店で刊行されるビジネス書の、ラインナップ表だった。


「何々?・・・

”コミュニケーション力を伸ばすと、部下との関係はどう変わってしまうのか”

”一年間で億単位かせぐ方法”、”しあわせな家庭ファンファーレ”」


ビジネス書というより、ラノベのようなタイトルが多かった。

「で、これがどうしたんだ?」

「こういうの読んで、俺も大物になろうと思うんだよ。それでさ、お前に

どの本が俺に相応しいか、選んでもらいたいんだよ」

「ふーん・・・まあ、考えとく」

「俺が工場長になったあかつきには、お前の給料を・・・だから安心しな」


ふはは、と笑って返しておいた。

なれるわけないだろうけど。まあ、高木はいいやつだ。

夢を抱くのはいいことだ。それにくらべて俺は・・・・


―――――――


ふ~、やっと社食の時間だ。落ち着くぜ・・・俺は社員食堂へ向かう。

俺のポケットは、いつもよりも軽い。あいつがいないせいだ。

調子が狂う。今日は早く帰って、とっちめいてやる。


社食にメニュー表などなく、ランダムで日替わりの弁当が出される。

今日は何かなあ・・・


白飯(長方形のケースに入っている)

味噌汁(食堂でつくるからアツアツ)

~おかず~

サンマの竜田たつた揚げ、山クラゲのピリ辛和え、

大根と△こんにゃく、昆布巻き(おでんっぽい具。冷めている)

牛肉としょうがの煮物(牛肉は甘い味付けで、平ぺったいが、かたい)

コーンコロッケ、ひじきと枝豆の煮物


ほー、まあまあだな。俺は、自由にすわってもいい席にすわり、

食事をする。と、いっても隣に誰かいないとだめだ。


「ねえ田村、ここいい?」「ん、いいよ」


同僚の田村がいた。性格は、まあおとなしめな方だ。今はレーザー加工の

仕事にまわっているらしい。


さあ、めしだめしだ。俺が最初に手を伸ばしたのは、味噌汁。

食堂の弁当は基本、あたたかくないのだが、汁物だけは食堂でつくるため、

いつもあたたかい。

ずずーーー・・・ごくり、あ”---うまい。

みそ汁は白味噌で、入っているのは豆腐と長ネギか。

そして、白飯を食べて口に残った汁気をそうじする。

もしゃ、もしゃ。もぐもぐもぐ・・・・

山クラゲを食べてみるか。けっこう多い量をとる。

ぽきぽきぽき・・・・こりこり。

おでんの大根をほおばる。しゃく・・・・しゃくしゃく。

いい染み具合。三角のこんにゃくは、切込みが表面にいれられている。

ちゅぷん。ぷりぷり・・・・うまいうまい。

コロッケを、箸で真っ二つに割る。豪快にその半分を食べる。

サクッ・・・・しゃりしゃり。ぷちぷち・・・

コーンが中に入ってたんだった。甘くてうまい。


俺は、いつの間にか田村に話しかけていた。

「なあ田村、仕事はちゃんとできてる?」

「・・・うん」小さい返事が返ってきた。

「仕事は楽しい?」さらに問い詰めている。

「・・・う~ん?うん」と、わけのわからない返事が返ってきた。

「なんかあったら、俺とまた話そうよ、な?」と、俺ははげますつもりで言った。

・・・田村から返事はかえってこなかった。


―――――――


やっと定時か。今日はそろそろ帰るか。

早く帰って、スマホを回収して、たっぷり料理してやる。

俺は、残業が始まる5分ほど前に、席を立とうとした。が・・・

「小山内、ちょっとまて」

「はい?」


班長の声だ。俺があまりかかわらないようにしている、栗野くりの班長。


「お前、今日ヘルプで来てほしいところあるんだが、ちょっと手伝ってやれ」

「え・・・・」

「その分給料もらえるからいいだろ?」


帰るギリギリで残業を任されてしまった。ちなみに、大物になりたがっていた

高木は、残業をやらずに帰ってしまったらしい。

あいつ・・・・


―――――――


残業の、製品の選別せんべつを終えた。2時間はかかった。

今日はつかれた・・・・

車の中で仮眠をとることにしよう。寝過ごしてもかまわん。

ウチに着いたのは、9時前だった。

あんじょう、寝過ごしてしまったらしい。

俺は、母親がとっておいてくれた晩飯を、母親にレンジであっためてもらい、

食べた。

やはり、生きる為に食べ物は必要不可欠だ。


メシを食べ終えた俺は、風呂に入る前にやることがあった。

自分の部屋にむかう。ベッドをのぞき込む。

さあ、こっぴどくしぼってやるぞ。


ベッドには、充電しっぱなしのスマホが置いてあった。

もちろん、100%充電完了だ。


「・・・・・・・・・・・・・・」


俺は、何も言わずにスマホを手に取る。画面をのぞき込んだ。


「・・・・・・・・・・・・・・」


アラームが何回か鳴った履歴が書かれている。

どっかのサイトからのメッセージも大量にきており、

SNSの通知も、大量にきてきる。

その時の俺は、どんな表情をしていたのだろう。


「・・・・・・・・・・・・・・」



―――説教は、無言むごんで終わった。

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