第3話

「補佐官! 団長補佐官! アウニ団長補佐官!! 」

「あぁもう、うるさい! そう何度も呼ばなても聞こえている。冷静に行動しろといつも言っているだろう」

「しかし、王が決断なされました! 開戦です!!」


 あれから数年。私は騎士団に無事入団し、トップまであと一息というところまで上りつめた。


「あのバカ……無謀なことを」


大きくため息をつくと机の上にあった書類を片付け、立ち上がる。先ほど報告に来た騎士に王と団長のところへ案内をさせる。


「おぉ、来たか。待っていたぞ。アウニ。やっと腕の見せ所だな」

「僭越ながら申し上げます。今すぐに戦いをやめてください。我々に勝ち目などありません」

「おい、何を言うか! アウニ」


団長を無視し、王を睨みつけるように、目線を合わせる。

竜と戦うことがいかに危険であるか説得を試みるも、王の機嫌を損ねるだけで終わってしまった。


「もうよい、下がれ! お前にそんなことを期待していたのではない。勝つことこそお前の使命だ! 今すぐ最前線へ迎え!! 」


こんな能無しでも、王は王。命令に背くことは自分の命と弟の命を無駄にするということである。

私は大人しく最前線へと馬を走らせる。



「報告します! 第五部隊、戦闘不能に陥りました!! 」


基地に着いたとたん、これだ。移動中も含めるとこれで何度目だろうか。全滅という報告が来ないだけましである。

手加減されているのだろう。竜が本気を出せば、こんな被害では済まない。むしろ三日もあればこの国を壊滅させることだって、容易なはずだ。


「だからやめろといったのに……。全部隊、第二戦線まで撤退し、攻撃をやめよ。私が一人で前線に出向く。誰一人として付いてくるな。死ぬぞ」


いまさら何を言ってもどうすることもできない。ならばここで私がこの無謀でばかげた戦争を終わらせるまでだ。

戦線恐々と返事をし部屋を退出する騎士を見届け、身だしなみを一応整える。会うことはないかもしれないが、もし会ったときみっともない姿は見せたくない。

ノックの音に首を傾げつつも、入室を許可をする。


「姉貴、行くんだったら俺も連れてけよ。俺だったらいいだろ。万が一姉貴に何かあっても困るしな」


立派に育ってくれたのはいいが少々シスコンになってしまい、彼女ができないことがが気になる弟を見やり何を言っても引き下がらないと判断する。


「死ぬなよ」

「姉貴を残して死ねるかよ」




青々とした森が広がっていた大きな湖のあるこの場所は、今やかつての姿を失っていた。

木々は倒れ、花々は枯れ、ところどころ火の手も上がっている。

こみあげてくる感情を抑え込み、竜の国との国境へ急ぐ。



「やったぞ! 竜の首を取ったぞ!! 」


そんな声が遠くから聞こえる。目視できる距離まで近づくと、一匹の森を思わせる緑の鱗をした竜が横たわり、その周りに本来ならここにはいないはずの騎士たちがいた。そして、その後ろには―――。


「姉貴!? 」


慌てる弟を後目にほとんど使ってこなかった魔法を使う。


(この人数の防御は間に合わないだろう。なら―――)


竜の周りに集まる騎士のところへ移動した後、すぐに騎士を後ろへ吹き飛ばす。


「イグザス……会えないのが残念だよ……」


目の前が炎で包まれた。懐かしい暖かさと、におい、色。竜独特の火炎が私を焼いた。







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