傷だらけの剣聖《スカーレッド・エスカトス》-異世界行って成り上がり-

@narou222

プロローグ

 




 俺は現役高校生の男の子だ。

 高校生になって、ひどく後悔している哀れな少年でもある。

 夢と希望が詰まっている、そんな考えで入学した結果、ルックスや体型のお陰で周りからは疎まれ、

 同学年の生徒達にいじめられながら生きていくような人生になってしまった、悲しい人間だ。


 甘えた考えで入学するもんじゃない。

 入った瞬間見世物にされるんだから。


 ソースは俺。


 本当なら、今頃バイトや部活なんかして友達と遊ぶのが普通だろうけど、俺にはそんな大層なものは無かった。

 ゲームが友達ってやつだ。

 恋愛とかはマスターしているぞ。

 使い道は無いが。


 友達は、昔いたんだがな……。

 高校に入ってからはめっきり会わなくなった。

 それなりに仲は良かったし、中学校ではいじめもなかったんだが……どうやら入る高校を間違えたらしい。

 今の現状が全てを物語っていた。

 俺に救いなんてものはないし、逃げ道もない。

 こんなものだろう、俺の人生は。


「ハァ……」


 ため息が白く出る。

 顔や身体が熱く、ジンジンと痛む。

 思いっきり殴られたからだろう。

 あざになってるかもしれないな。

 本気で殴りやがって、顔洗えなくなるんだよ……


 近くのショーウィンドウの窓には、腫れきって血だらけの俺の顔が写っていた。

 ひどくブサイクだ。

 こうして見るとバケモノみたいだな。

 タダでさえルックスが悪いというのに……。


「容貌の違いでこれか……」


 ブサイクと言うだけで、デブと言うだけで、虐げられ、疎まれてきた。

 ただ自分より格下だから。

 そんな理由だろう。

 いや、理由なんてないかもしれない。

 面白いからとか、誰かがやってるからとか。

 本当に、自分が情けなくなる。


 先生にでも相談すればいいのに。

 誰かに打ち明けてしまえばいいのに。

 俺はそれができなかった。

 俺は弱かったのだろう、あれやこれやと考えてるうちに今度は報復が来るなんて心配してしまう。

 迷惑をかけたくない、自分の今を知られたくない。

 助けて欲しいくせに、自分から殻にこもってしまい結局誰にも気づかれないままなのだ。


 馬鹿みたいだ。

 自分からいじめに加担しているようなものじゃないか。

 いじめられて云々言う前に、自分で努力しろって話だよなぁ。

 たった一言いえば済む話なのに、変なプライドが邪魔をする。

 助けてが言えないなら、手も差し伸べられらない。

 明日からもずっと地獄が続くことになるだろう。


「さみい……」


 黒雲が立ち込め、雨は降りしきっていた。

 寒さは際立ち、顔の傷を刺激する。

 傘も刺さずに一人、トボトボと街中を徘徊していたのだ。

 車が行きかいライトが雨で反射する。

 暗い歩道がほのかに照らされるのを、俺はじっと見ていた。


 どうするべきか。


 親は一昔前に死んでしまった。

 多額の保険金と貯金で生活してきているが……。

 いっそのこと、引越しも考えた方が良さそうだ。

 この街は、いるだけで記憶がフラッシュバックしてくる。

 記憶が染み付いているのだろう。

 母親の故郷だが……仕方ない。


 まあまだ決まったことじゃない。

 早めに決めた方がいいが、焦ってたら冷静な判断もできない。

 ……まずは家に帰ろう。

 迎えてくれる人はいないが、ここよりは暖かい。

 というか風邪ひきそうだ。

 雨がどんどん強くなってくる。


「…………」


 思い返せば、両親が生きていた頃、俺はまだ真っ当な人生を歩めていたと思う。

 少なくとも今よりはひねくれてないし、またいじめもなかった。

 生憎彼女はいなかったが、友達に囲まれていた日々は充実していて楽しかった。

 小学生の時は活発で、よく他の子の家にお邪魔してたっけな。

 古い記憶だ。

 今とは大違いだな。


 こんなんになっちまったのも中学校の頃の記憶が原因だ。

 友達もそれなりにいて不自由ない生活が続いていた。

 だけど、中学三年の時、父親がポックリ逝ってしまった。

 突然のことだった。

 先日まで笑っていた親父が死んだんだぜ?

 傷跡は大きかった。


 それと、タイミングが悪かった。

 受験勉強するべき期間と重なってしまったのだ。

 おかげで俺は碌に勉強に身が入らず……。

 あとは知っての通り、底辺校に来ちまった。


 親父が悪いとは思わない。

 もっと勉強しておくべきだったのだ。

 そうすれば、もっといい生活が出来ただろうし。

 ……死んだ母親のためにも、もっと楽させられたはずなのに。

 供養もできないな、こんな体たらくじゃ……。


 実際問題、あいつらは何をしでかすかわからない。

 いつもどおり暴言吐いて殴って終わり。

 そんなことがいつまでも続くだろうか?

 いつかまでその状態を保てると?

 無理だ、日に日にいじめはエスカレートしてきてる。

 親が死んでからは好き放題やってくる。


 ……後悔ばかりしちまってるなぁ


「ハハ、バカみてぇ」


 いっそのこと馬鹿になれたらどれだけ楽だろうか。

 思ったが口には出さなかった。

 自分で逃げ道ふさいでどうするよ。

 何もしなくても気づくだろ。

 なんかすればわかるだろ。


 あーあ、悩んでもなんにもならねーっていうのにな。

 なんか急にあほらしくなってきたわ。


「お、コンビニ。飯でも買ってくか」


 開き直ったように俺はコンビニへ足を運んだ。

 うだうだ考えてもしょうがない。

 腹いっぱい食ってから愚痴をはこうと考えていた。



「……いらっしゃ……ってあれ、君は……」


 まずい、もしかして同級生に会ったか!?


「いやその違います人違いで―――」

「やっぱり!いつも端っこで本読んでる子!」

「……え?」


 想像より甲高い声が聞こえて顔を上げた。

 俺を知っているようだが……。

 嫌悪しているそぶりはなかった。


「君は……嘉藤さん、だっけ。ごめん、覚えてなくて……」

「ううん、合ってるよ、ホラ!」


 そう言って彼女は胸のネームプレートを見せてくる。

 確かに、嘉藤であってはいるが……。


「その、近……」

「その怪我、大丈夫?応急手当なら出来ると思うけど」

「いやそのあの」


 近いんですけど。

 豊満な胸がコンビニの制服で強調され、どことなく色気を醸し出していた。

 あどけなさが残る笑みを浮かべる彼女。

 黒髪を後ろでまとめあげ、ぱっちりとした目を上目遣いで見上げてくる。

 身長が低い。

 だからこそ破壊力がすごかった。


 また何か企んでるのか……?

 どうせ嘘だ、また見世物にするんだ……。

 そんな疑問が浮かぶべきなのに、頭は真っ白だった。

 彼女とはほぼ初対面なのだ。

 同じクラスとはいえ彼女は高嶺の花。

 接する点が皆無なはずなのに。

 彼女から話しかけてくるなんて、正常な判断もつかなかった。


「いや、その、仕事中でしょ?お邪魔するのは悪いなーって……」

「帰ろうとしないでよ!その怪我で傘もないんだから!」

「うぐぐぐぐ」


 踵を返し別のコンビニに行こうとしたが、制服の襟を思いっきり掴まれたせいで首が思いっきり絞まる。

 苦しい苦しい。


「た、たんま……」

「あ、ごめん……」

「けほっけほ……応急手当なら自分で出来るから」


 家に救急セットがある。

 わざわざ他の人の手を借りなくても慣れたことだから大丈夫なのに。


「ダメだよ!……それに」

「うおっ」

「通学路で田沼君とかが待ってたから」


 俺の制服を引っ張り彼女はそう囁いた。


 田沼……俺をいじめてる奴らだ。

 待っているってことは出待ちってことか?

 おいおい冗談だろ……。

 本気で殺しに来てるってか?


「ホラ、こっちきて」

「ちょ、店長とかに怒られないの!」

「だいじょぶだいじょぶー」


 安心できないんですけど。


 彼女は俺を引っ張って従業員入口から外へ出た。

 小さな廊下がそこにはあり、部屋もいくつかあるようだ。

 俺はその中の部屋へと引っ張られていった。


 手、握られてた……。


「ここはちょっとした医務室でね、ちょっと待ってて……」

「あの、さ。悪いんだけど……」

「んー?」


 さっきから思っていたことだ。

 接点がなかったにも関わらずいつもと変わらないように話しかけてきたんだ。

 彼女のコミュニケーション能力が高いとかではないだろう。

 俺だったら、いじめられてるやつと関わりたくない。

 だから、


「どうしてここまでしてくれんのかな、って……」

「…………」


 彼女はその質問に押し黙る。


 まずい、流石に失礼すぎたか?

 そうだよな!

 ただ親切心で助けてくれてるのかもしないし!


「ごっ、ごめん!別にそんなつもりじゃ……」

「覚えて、ないよね……」

「え……」


 彼女の手が止まる。



「本当に、覚えてないの?」


 涙ながらに彼女は迫ってくる。

 覚えてるも何も、俺は彼女とは初対面だ。

 いうまでもなく、知り合いとかではない。

 親戚間の繋がりもないと思うし……。


「第一俺みたいな人が関わりを持つことはないって!」


 自分で言ってて悲しくなってきた。

 でも確かにそうだろう。

 こんな美人な知り合いがいたとするなら、俺は一生忘れはしないはず。

 彼女は何か勘違いをしているんじゃないだろうか。

 あるいは罰ゲームとか?


「だって、私……あなたに―――――」


 ――――――ゴトンッ!


「ヤベッ!」


 それでも言い寄ってくる彼女に後ずさりし、そして俺の肘が近くの花瓶に当たってしまった。

 グラりと大きくバランスを崩す花瓶。

 落とさないようにしようにも、彼女が近すぎて動けなかった。

 そして、そのまま。


 バランスを崩した花瓶は自由落下して――――






 消えた。


「―――――――逃げて!」

「キャッ―――」



 気づけば俺は、彼女を突き放していた。

 ただ事ではないこと、ここは危険だということ。

 花瓶が消えた異常性からそれを察した俺は、いち早く彼女をここから引き離したのだ。

 そしてその考えは、


「クッ――――!」


 どうやら当たっていたようだ。

 唐突に足元から発せられた、目もくらむほどの光。

 普通はこんな光がただのコンビニの床から発せられることなどありえない。

 つまり。

 ありえないことが、今まさに起きようとしているのか。


 ―――――異世界召喚


 そんな馬鹿げた考えが浮かぶ。

 だが可能性はゼロとは言いきれなかった。

 疑惑と困惑、焦燥が渦巻いていく。


 その中で、だんだんと光が収まっていく……。

 そして、完全に光が収まった時。


 そこには魔法陣があった。


「やっぱり!」


 こんな状態でもなお、俺は喜んでいた。

 異世界だ、異世界なんだぜ!?

 夢と希望が詰まっている、まさに理想郷だ!

 俺だけが召喚されるわけでもないだろう。

 きっと彼女も、


「なに、これ……」


 ……え?


 待てよ、色が違う……?

 俺は赤色で、彼女が青色……?

 一体、どういう―――――



「―――――ッ!!?ッガァァァァ!!!」


 突如として、魔法陣から槍が飛び出してきた。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

 身体は貫かれ、天井に縫い付けられていた。

 血が滴る。

 魔法陣で消える。

 嫌だ……死にたくない……。


「―――――!!――――――!!」


 嘉藤さん、何叫んでるのさ。

 ハハハ、泣きじゃくってさ。

 なんも聞こえないよ……。

 なにも……なにも……


 ああくそ……俺はさしずめ、生贄ってことかよ!


 ああ…………

 クソったれ…………


「――――――――――――!!!!」





 再び光が発せられる。

 大きな大きなその光は。

 彼女の明るい未来を指し示すとともに。





 俺の意識を刈り取っていった。


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