第8話 公安

朝、自宅でコーヒーを飲み、新聞を開いた。

その見出しには、信じられないタイトルが記載されていた。


“ジャパリ大学附属病院元院長ヘラジカ、拘置所にて不審死”


(ヘラジカが・・・死んだ?)






ここの所、私の身の回りで奇怪な事が連続している。

キリンなども巻き込まれてしまわないか、不安になった。


署内に入り、廊下を歩く。私の部署は3階にある。

その途中であった。


フードを深くかぶった人物・・・


「あっ」


と声を上げる。


「ん、お前は」


彼女も何かを察したようだ。


「久しぶりだな」


「一匹オオカミさんか」


そっけなく言われた。


「他人に冷たい所は変わらないなぁ。公安のツチノコさん」


「こんな所で会うとは、ツイてねぇな...。今日は空から槍でも降ってくんのか?」


「お前の毒舌が朝から聞けて嬉しいよ」


私は微かに笑って見せた。彼女とは旧知の仲であった。

だが、私は彼女の事はあまり好きではなかった。


「俺は仕事なんだ...邪魔すんな」


先に行こうとしたところを無理やり引き止める。


「まぁ待てって。

警察を毛嫌いしているお前が何で、こんな所に?」


興味本位で尋ねた。


「例の宗教団体のガサ入れだ。公安じゃ人が足りねぇからな

一課の奴らを少し引き込もうと思って来た...」


「随分と大がかりで行くんだな」


「ヘラジカの不審死にも関連がありそうだからな」


「ふぅん...」







数日後、公安による宗教団体“みんみ教”の総本部の家宅捜索が行われた。

教団の総本部は廃校となった中学校の施設を買い取って、そのまま転用している。

その為、規模が大きい。


公安のツチノコは、教団幹部に案内され、教祖のいる部屋に案内された。


扉を開けると、教祖と言われる人物が椅子に座っていたのだった。


「こんにちは」


と、軽快する様子も無く挨拶した。


「公安警察のツチノコだ」

と手帳を開き見せた。


「少しお話を伺いたい。まず、お名前を伺っても?」


「スナネコです」


手帳を開きメモを取りながら質問を始めた。


「ここの教典みたいなのはなんかあるのか?」


「ここの教えですか・・・?そうですね...

みんなの為に、愛の為に、平和の為に


この三つを大切に重んじています...」




一方、オオカミは一瞬公安に興味を持ったものの

現場には行こうとしなかった。


他に気になる事がオオカミにはあったからだ。

私は自ら、総監室に赴いた。


「まぁ...、色々と災難だったのだ...」


「ええ、でも、命はこうしてしっかりとありますから

ところで今日はお話に来たんです」



「話ってなんなのだ?」


「これを」


と机に紙を置いた。


「異動届?」


「1ヵ月程度の、"転勤"をお願いします」


「なんでいきなり...」


「理由は2つあります。

1つは、元警視総監に合ってくるのと、

もう一つはここのエリアにいると身の危険を感じるからです」


「ちょっと考えさせてくれなのだ。今週中には結論を出すのだ・・・」


「いえ、今すぐに判断をお願いします」

と頭を下げた。


「のだっ!?今すぐ!?」


「紙を破くか、受け取るかしてください。時間が無いんです」


「・・・わかったのだ、好きに行ってるのだ」


「ありがとうございます」


再度頭を深々と下げた。


私は、キリンに電話を掛ける。

「もしもし?」


「オオカミさん、ご無沙汰です」


「しばらく私は旅行に出かける」


「え?旅行?」


「私は暫くここを離れている。

探偵であるお前に一つ、依頼をしたい」


「なんの依頼ですか?」


「サーバルを監視してほしい」


「あの...敏腕弁護士の?」


「実は一課の捜査資料をこっそり見たんだ。

例の大学病院・・・、ヘラジカを弁護する予定だった弁護士はサーバルだ」


「えっ!?」


「何かあるかもしれない。洗い出して欲しい。彼女の闇の部分を」


「わかりました!」


「報酬も出すから、しっかり捜査しろよ」






「もしもしー?」


「公安の捜査は終わった?スナネコ」


「ばっちりこなしましたよ~。何も怪しまれず」


「あなたならやってくれると思ってたよ!」


「貴方の理想を、現実させる為ですから」


「ありがとう!」






≪JPR(ジャパリ鉄道)きょうしゅう駅≫


"寝台特急オリオン 21:50 しゃっぽろ"


という電光掲示板を確認し、ホームに進んだ。


手持ちの切符を確認し、列車に乗り込む。


私の目的は二つ。

“私を狙っている奴ら”から、身を隠すこと。

その隙に、ソイツの正体をキリンに暴いてもらう。


もう一つは、“元警視総監”の言葉を聞くことだ。


彼女は北の国に住んでいる。



ジリリリリリというベルの音が鳴り、ドアが閉まる。



8両目の個室のドアを開けて、荷物を置いた。


流れゆく暗闇に包まれた街を見つめながら列車は北へ向かった。





「何も収穫がないだと・・・?おかしいだろッ!」


資料を見ていたツチノコが、机を叩く。


「過激思想を持っているような団体ではないと思いますが...」


今回の捜査に参加していたキンシコウが言った。


「バカ野郎!俺はあの教祖と話して感づいた...。これは公安の勘だ。

何かが・・・大きな何かがスナネコを操ってる。

いや、アイツは・・・、身代わりかもしれない!」


「あくまでも、貴方の推測でしょう。そうやって自分の思い込みに飲まれるのは...」


ヒグマが、言いかけるが途中で遮る。


「うるさい!あぁ、もう!これだから一課の奴らは嫌なんだ。

勝手に捜査してやる!」


と立ち上がり、乱暴にドアを開けて外に出て行った。


「何だよアイツ...」


ヒグマが愚痴を零す。


机の端っこでやり取りを聞いていたリカオンはおもむろに立ち上がり、外に出た



「チッ...」


と舌打ちをして、廊下を進んでいる時、後ろから声を掛けられる。


「待ってください!」


「あん?おめぇは一課の新米だろ?どうしたんだよ...」


「私はあなたの考えを信じてます」


「何だよ...。そんな事言いに来ただけか」


「いえ、考えを確固な物に出来る知り合いがいます」


「知り合い...?」


「探偵です」


「探偵だと?」


リカオンは彼女に電話番号が書かれたメモを手渡した。


「私はこれで...」



リカオンは余計な蛇足をせず、元いた部屋に戻っていった。



「・・・・」



ツチノコはそのメモに書かれた電話番号をじっと見つめていた。

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