第6話 来日

時が経ち、8月になった。

しかし、連日署にマスコミが押し掛ける状況は一向に変わらなかった。


ジャパリテレビ、アナウンサーのトキが、その様子を中継していた。


「10年前のロッジ銃撃事件の原因となった刑事が捜査復帰しているという

問題を受け、警察に説明を求めていますが2週間以上たった今なお、沈黙を続けています

記者会見を開くのかという問いに対し、“然るべき時が来たら”と述べています」


そこでテレビの電源を消した。


私は、でっちあげの記事のせいで自宅にいるようにと指示されていた。

非常に腹立たしかったが、ここで私が表に出てくれば騒ぎはもっと広がる。


自分の気持ちを抑えながらこの状況を耐えるしかなかった。


ふと、カレンダーを見ると日付に赤いマーカーで丸が付けてある。

犯人が来ると思われる、サマーフェスティバル。


それは、明後日の事であった。


もう時間が無い。なのに、私は何もできない。


取りあえず、このことはリカオン経由でキンシコウ達に伝わっている筈だった。

今は、運よく行く事を願うしか出来なかった。


――――――――――


時同じくして、署では


コンコン


「失礼します」


「なんなのだ、ヒグマ」


「明後日の音楽イベントに爆弾魔が来るそうです」


「それは誰経由からなのだ?」


「タイリクオオカミです」


ハァーと、大きな溜め息をついた。


「この前、PPPライブが開催された時、リカオンが警備をしていましたが

犯人は現れませんでした。ですが、オオカミは先に届いた予告文から、このイベントに

絶対犯人が現れると言っていました。一応、元はPPPのメンバー、

一般市民からの要請をオオカミが聞き受けこちらに流したのと変わりないので、警備しようと思ったのですが...」


「ですが...?」


「別の事件が入ってしまい、警備出来なくなってしまって」


「100万人以上入るライブなのだ。人手が足りなければ、ライブ自体を中止にせざる負えないのだ」


「しかし、犯人がファンだった場合、再びPPPのメンバーを狙うかもしれません」


「じゃあ、どうしろって言うのだ。青色のネコ型ロボットにでも頼んで人を増やしてもらうのだ?」


「冗談はともかく、それをどうしようか相談に来たんですよ」


「こんな忙しい時期に・・・」






一方外では...


「うわー。なにあの人の数・・・・。しょうがないか」


腹を括り、人の海に飛び込んでいった。


「ちょっと通してねー」

そう声を掛けた瞬間に言葉の雨が降り注ぐ。


「警察の方ですか!?」


「何か知っていることをお話しください!」


彼女はその言葉やカメラのフラッシュを無視して、何とか署内に入る事が出来た。





「警視総監、ご指示を・・・」


「うーん...」


難しい選択をしていた瞬間、ノック音が響いた。


コン、コン


「誰なのだ?」


ガチャ


「久しぶりー、アライさーん」


ヒグマも、扉の方に目線を向けた。


「フェネック!」


悩んでた顔が嘘のように吹き飛び、彼女に抱き着いた。


「・・・・」


いつもは偉そうにしている警視総監のそんな姿を見て、

ヒグマは言葉を失っていた。


「いつ日本に帰って来たのだ?」


「今日だよ」


「それは良かったのだ・・・」


「あっ、これお土産ね」

と、手に持っていた袋を差し出した。


「ありがとなのだ!」




「あの・・・、失礼ですが、こちらの方は?」


フェネックとは初対面であったヒグマが、アライさんに尋ねた。


「彼女は、フェネック。アライさんとは幼馴染なのだ」


「どうもー。よろしく」


軽く頭をフェネックは下げた。

それに合わせヒグマも頭を下げる。


「フェネックとは、高校まで一緒だったのだ。

アライさんは国立の大学に進学したが、フェネックはイギリスに留学したのだ」


「イギリスを卒業した後、アメリカに渡って国籍を取得して、警官になったんだ」


「あなたも警官だったんですか...。というと州警察?」


「いいや、連邦捜査局の方だよー」


「れ、連邦捜査局!?」


思わず驚いてしまった。


「フェネックはFBIの捜査官なのだ!」


「一応はね」

と、あっさりと答えた。


「そう言えば、あのマスコミの数何なの?」


「アレは、ちょっと説明すると長いのだが・・・」


今の状況をフェネックに説明した。



「ふーん...、なるほどねぇ...」


「日本に着いて申し訳ないのだが...明後日の犯人を捕まえてくれないか?」


「・・・いいよ。捕まえれば警察の面子が保てるんでしょ?」


「そ、そうなのだ。助かるのだ。ありがとうなのだ」


「久しぶりに会えたし、私は飛行機で疲れたから、ホテルに戻るよ」


「会えてよかったのだ。あと、お土産もありがとうなのだ。

帰りは裏口から出るといいのだ。ヒグマ、案内してあげるのだ」


「あっ、はい...」


ヒグマに案内されながら、フェネックは部屋を出たのであった。


――――――


翌日...


「もしもし、キリンか?」


「オオカミさん!?大丈夫でしたか!?連絡なかったので心配しましたよ」


「ああ、私は大丈夫だ。ところで、君に頼みたい事がある」


「何ですか?」


「私が自宅から出てあまり行動できないのは、テレビを見て分かっているだろう」


「ええ...」


「代わりに、明日のライブで犯人を捕まえてほしい」


「わっ、私がですか!?」


「きっとヒグマなり、キンシコウなりいるだろ...。サポートしてやれ」


「・・・分かりました!名探偵アミメキリン!

オオカミさんに代わって事件を解決してみせます!」


「ああ、宜しく頼む。もし、困った事があったら、電話してくれ」


「わかりました!」



電話を切り天井を見つめ、フゥーと息を吐いた。


(私と何回も捜査をしてきたんだ・・・爆弾魔くらい・・・)


ふと、彼女の言葉を思い出した。


“犯人は、ヤギね!”


(大丈夫、だよなぁ....)


――――――――


PPPも参加する、大型音楽イベント。

サマーフェスティバルの日がやって来た。


民間の警備会社の社員が、手荷物検査を行っていたが

大変簡易な物だった。次から次へと、人が来るのだから。


一方の会場内では・・・


「さーて、会場に着いたわけだけど・・・。

オオカミさんが言うには、犯人はPPPライブの時に犯行を起こす

その前に犯人を見つけないと・・・」



(観客に犯人がいるとは考えにくいんだよなぁ...。確証はないけど)



二人は、考えながら互いに違う方向へ向かっていた。


ということは、互いの距離は縮まっているという事だ。

つまり・・・



(うーん...)


(・・・・)


互いの肩がぶつかった。



「あっ、ごめんなさい!」


「失礼・・・」


フェネックはふと顔を見た。

通り過ぎようとする、彼女に声を掛けた。


「ちょっと待って」


「はい?」


「君、警察?」


「えっ?いや...」


「犯人探してる?」


彼女の質問が的確すぎて、驚いてしまった。


「え、何でそれを・・・」


「私は警察で、とある事情から爆弾を仕掛けた犯人を捜しててねー」


「私は探偵です。とある依頼で爆弾を仕掛けた犯人を捜してて...」


お互いの顔を再度見合わせた。


「ちょっと来て」


そう言われ、物陰へと連れ込まれた。


人気が無いところで彼女は小さな声で話し始めた。


「同じ犯人を狙っているんなら協力しよう」


「は、はぁ...。あの...、捜査一課の方ですか?」


「いや、違う...ともかく、時間が無い。作戦を立てて、爆弾と犯人をなんとかしないと」


フェネックとキリンは話し合いを始めた。


「私の推理では、観客に犯人はいないと思う」


「何故?」


「脅迫文は“悲劇の合唱が花火と共に打ち上がる”と書いてあった。

普通の観客なら、花火が上がるタイミングなんて知らないでしょ?

だから、内部に詳しい人間、それか出演者じゃないかなと思ったんだー」


彼女の理由は、オオカミと似た説得力があった。


「なるほど!」


「それで、ライブスケジュール表に出演者が乗っていた」


彼女に、紙を見せられた。


「PPPの前のアーティストが犯行を行う可能性が高い。もしくは、スタッフ」


「じゃあ、ステージ裏を捜索しましょうよ」


「ダメ。勝手に入ったら怪しまれるし、犯人が逃げるかもしれない」


「どうすれば?」


「貴方に任せる。舞台裏に潜入して、先ずは爆弾を見つけるの」


「爆弾を見つけたらどう対処すれば?」


「私が取り除く。爆弾解体は何度もした。勝手に」


(この人もオオカミさんみたいに勝手に動くのね...)


彼女はポッケから携帯を取り出した。


「爆弾を見つけたらこの携帯から、番号を掛けて。電話帳に入ってる」


「ガラケー・・・ですか?」


「使えないの?」


「いえ...わかりました!やってみます」


「私はここで待ってるから」


キリンは彼女に肩を叩かれた。


息を吐き、立ち上がって作戦を開始した。


(まずは...舞台裏に侵入しないといけないですね...)


関係者用の入り口の扉の前に1人の民間の警備員がいる。


(どうやって入れば・・・)


一つの考えが浮かんだ。


(手荒な真似はしたくないけど...仕方ない...)



(時給が良かったから警備のバイトに応募して採用されたけど・・・

まさか、爆弾事件に巻き込まれるとはなぁ...何もなければいいなぁ...)


キリンは腹を括り、声を掛けた。


「ねぇ、ちょっとそこの人」


「ん?どうしました?」


「あのトイレの中に変な物があったんだ」


と仮設のトイレを指さした。


「ちょっと危ない物かもしれないから、確認してくれない?」


「えっ...ちょっと別の人に...」


「私はあなたに頼んでるの!お願い!」


「わ、わかりました...!」


キリンは無理矢理警備員をトイレの中へと連れ込んだ。


「ここです」

一つの個室の中に入れる。


「何かあります?」


と言った時だった。

ガチャッと個室のドアを閉め、警備員と二人になる。


「えっ?」


キリンはすぐに警備員の口を塞いだ。


「ゴメンね!」


警備員は何か口を動かしていたが、構わず

手でチョップを食らわし、気絶させた。

申し訳ない気持ちで、服を拝借する。

騒ぎになるとまずいので、壁を這い上がって外へ出た。


見た目は警備員のままだ。


(ばれなきゃいいけど...)


顔がわからない様に帽子を深くかぶり、スタッフ用の入り口に向かった。



出演者の控え室にて・・・


(準備は大丈夫...。ステージの前方から噴き出す花火の仕掛けに

起爆装置を仕掛けたし...。

予告文も届いて、観客がいっぱいいるはず!

フフフッ...これで、PPPは終わりよ...私の時代が来る!

地下アイドルから抜け出して、表舞台で光を浴びるのはこの私なのよ!)


ふと時計を見た。


「もうすぐ私の出番ね!」


と鏡の前で衣服や髪に乱れが無いか確認した。


ノックがあってから扉が開く。

スタッフが彼女の事を呼びに来たのだ。


「ショウジョウトキさん!スタンバイお願いします!」


「はーい」


意気揚々と、楽屋を出て行った。




(まずは、爆弾を片付けないと...)

キリンは、運良く技術スタッフの名札を下げた人物を見つけ声を掛ける。


「すみません。花火の装置をご存じですか?」


「あ?花火?PPPの演出に使うヤツだな。サビに入った瞬間パーンって」


「因みにどこに仕掛けてあります?」


「花火の装置は舞台下だけど...、なんでそんな事聞くんだ?」


「えっ...いや、ちょっと気になったもんで..,」


「変なヤツだな・・・」


と冷たいまなざしで見られた。


急いで外にでて、ステージの真裏に移動し、電話を掛けた。



ピピピッと音が鳴った。


「もう見つけたの...有能だね」


そう言って、急いで向かった。


関係者用の扉の近くで手招きしていた彼女を見つける。


「こっちです!」


と、ステージ裏に誘導した。


側面は木で出来た、仮設の物であった。

一か所だけ、人が一人膝を付いて進める場所があった。


「懐中電灯ある?」


「えーっと...」


警備員のポケットを探った。

すると、小さめのライトが入っていた。

それを渡す。


「どうも。後は大丈夫。あなたはその服を着替えた方がいいねー」


彼女はステージの舞台下に入っていった。


口で懐中電灯を加えながら奥へ進んだ。

暫くすると、花火の装置と思われる筒形の機械があった。

確認するとその機械に繋がっているコードの中間地点に

起爆装置を見つけた。


(なるほど、スイッチを入れた瞬間にボカンね...ん?)


透明なケースの上にある物を見つけた。


(・・・赤い髪の毛?

ま、いいか。犯人は来るでしょ...)


そそくさと工具を取り出し、解体を始めた。

透明の箱の四隅を外し、黒い機械を取り出す。


「ここを...こいつを...こうしてっと....」


素人とは思えない早業で爆弾を処理していった。




時同じくして、ステージ上ではショウジョウトキが拍手喝采を浴びていた。


「ありがとう!ありがとう!」


と言って、ステージを降りて行った。


次はいよいよPPPの番だ。

「みんな行くわよ!」リーダーであるプリンセスの掛け声と共に

手を重ね、“オーッ!”という声が響き渡る。


その横を、不敵に笑いながら、ショウジョウトキは通り過ぎて行った。




そして登場と共に曲が流れ始める、大空ドリーマーだ。


ショウジョウトキは控室のモニターでその様子を足を組み片手で顎に手を付けながら、鑑賞していた。




「あのー、もうすぐ曲のサビが始まっちゃいますよ!サビに入ると花火が作動しちゃって...」


解体作業をしてるフェネックに、先ほど着替えて戻って来たキリンが声を掛ける。


「そういうもんって早めに言ってよ...、まあもう終わるけど」


「もうですか...!?」



「これでっ、よしっ」


パチンという音がした。

フェネックは、手に爆弾の装置を持ちステージ下から出てきた。


「あとサビまで...1分!」

静かにそう呟くのと同時にショウジョウトキは心を昂らせていた。



歌っている彼女達はステージ下に爆弾が仕掛けてあることは知らない。


曲がサビに差し掛かるまで


(5、4、3、2、1... 来たッ!)



モニターを見ていたが、会場に何も変化は見られない。

ただ、パンッと花火が鳴っただけだった。


(・・・えっ!?)



思わず立ち上がり、控室から出た。


フェネックの読み通りだった。


(嘘だ・・・ちゃんと仕掛けたはずなのに・・・)


ステージ裏に回り込むと、二人の姿を見つける。


「失礼、そこの人...」

フェネックが声を掛けた。


「な、なんですか・・・」


「お探し物ですか?」


「えっ...いや...その...」


「もしかして、探している物はこれかなー?」


と先ほど取り除いた爆弾を見せた。


「な、な、えっと、あっ」


予想外の出来事に思わず取り乱してしまった。


「その動揺っぷり!貴方が、仕掛けたのね!」

とキリンが指を刺した。


「まあ、詳しい話は暑でしてもらってもいいかなー?」


「あっ...あっ....」


まだショウジョウトキは落ち着かない様子であった。


「取りあえず、行こうねー」


とやる気のなさそうなトーンで、彼女を連行していったのである。




一方オオカミは・・・


「あいつから電話掛かってきてない・・・・?どうしたんだ・・・・」

キリンから一切連絡が無かったので心配していたのであった。


―――――――――


その後、ショウジョウトキは自供をし、自ら爆弾を仕掛けたと話した。


フェネックとキリンの協力により、事件を解決できたのだった。


署内にて...


「協力してくれてありがとうねー」


相変らず抑揚のない喋り方をした。


「貴方がいなければ解決出来ませんでしたよ...、

ところで、警察だけど一課の人じゃないって言ってましたよね?」


「ああ、あれね~。だって私...」


といって胸ポケットから手帳を開いて見せた。


「えっ...え、FBI!?」


「声が大きいよ」


冷たく指摘されてしまった。


「じゃあ普段は外国で...?」


「まーね。休暇で日本に来ただけ。ところで、聞き返すけど貴方の名前は?」


「アミメキリンですっ!」


自信を持ってそう言った。


「名探偵だね」


とクスッと笑った。


「私は疲れたからホテルに戻るねー、じゃあ、また会えたら」


「あっ、ハイ!また!」


彼女は後ろを振り向き両手で頭の後ろを抑えながら、明かりが点々と付く廊下を歩いていった。



―――――――――



4日後、来日してからちょうど一週間が経った。


「フェネック...。もう帰るのだ?」


「1週間の休暇だったからねー。ま、楽しかったよ。

久しぶりにアライさんとデート出来たからね~」


「ちょ、ちょっとその言い方は気恥ずかしいのだ・・・」


「ま、気楽にいこーよ。メディアも冷めかけてるからさー」


「確かに、そうなのだ。空港まで送らなくて大丈夫か?」


「大丈夫、っていうか、そこまで来ちゃうとアライさん中々離れないでしょー?」


「・・・フェネックがいう事はいつも正しいのだ」


昔も、今も、彼女のいう事にはぐうの音も出なかった。

フェネックは自分の腕時計を確認した。


「もうすぐ行かないとね」

名残惜しそうに、そう言った。


「また来てくれるのだ?」


「今度は冬にでも来るよ」


と再び笑って言い返した。


「後さ、アライさん」


「何なのだ?」


「タイリクオオカミさん、だっけ?偶々会ったキリンの女の子から聞いたんだけどさ、

自宅待機中なんだって?」


「ん...、まぁ、そうなのだ」


すると、フェネックはアライさんに目を合わせ、真剣な面持ちで言った。


「期間を短くしてあげて。

そして、あまり冷たく接しないこと。あなたの役に立つ日が来るから」


まるで自分の母親に説教されている気がした。

それと同時に、説得力があった。


「わかったのだ」


と何も言わずに肯いた。


「よろしくね」


そう言って、唐突に顔を近づけ、彼女の頬に唇を重ねた。


「またね」


と短くセリフを吐き、ドアを開け部屋を去ったのだった。


















ウィイイイイイイイン


飛行機が離陸する。


彼女は夏の雲を眼下に見つめながら、日本を後にしたのだった・・・・

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