第4話 誘拐

助手が逮捕されて1週間後、かばんの様子を伺いに図書館に来ていた。

彼女は暗いどころか、明るかった。


「お待ちしてましたよ。オオカミさん」


差し込む陽の光の中に、笑顔を浮かべた。


「この前の・・・、約束を・・・」


「ええ、わかってますよ。来てくれるって信じてましたから」


「・・・・」


何となく、不思議なヤツだなと思った。

こんな感じの人だっけと、疑問を抱いてしまいそうだった。


私が椅子に座る様に促されると、彼女はお茶を入れると言って、

暫く待たされた。


「お待たせしました」


私の目の前に、紅茶とクッキーが出された。


「これ、手作りなんですよ」


と、笑顔を見せながら私に説明した。


「そうなのか。すごいな」


と率直な感想を述べた。


彼女は、紅茶を一口飲んでから、話を始める。


「あれは、今から16年前」


(16年前・・・、警部補時代か・・・)


「誘拐された僕を助けてくれましたよね」


「誘拐?.....ああ!あの事件か!」


私は思い出した。彼女が誘拐された事件を。


・・・・・


彼女は幼い頃に父親を亡くし、母親に育てられた。


彼女の家はいわばお金持ちであった。

母方の祖母が大地主だったのだ。


そこに目をつけられてしまったのだ。


彼女は学校から帰る途中に、誘拐された。


その時、事件の担当になったのが私だった。


犯人は身代金として1億円を要求してきた。


犯人とのやりとりは忘れてしまったが、なんとか逆探知をし、

誘拐場所を突き止めたのだ。


身代金を持って、私は彼女の救出に向かったのだ。


・・・・・・


「あの時のオオカミさん、かっこよかったです」


あの日の事を思い出しながらクッキーを口の中に入れていた。

突然彼女が言葉を発したので、口の中の物を紅茶で胃に流し込んだ。


「そ、そうだった?」


「ええ...、正義のヒーローみたいな感じで」


彼女は目を輝かせていた。


「ヒーローか・・・」


溜め息の様にその言葉を吐いた。


「あなたにあこがれて警官になろうかなって思ってましたが、

僕みたいな小心者には、とても出来る事じゃないです」


「私も、臆病な方だよ」


と彼女に合わせるように言った。


「何を言ってるんですか、臆病だなんてそんな...」


「私が一番怖いと思うのは何だと思う?」


彼女は一瞬驚いた顔を見せた。


「怖い物、ですか?」


静かに肯く。

30秒くらいしたが、彼女は何も言おうとはしなかった。


「わからない?」


「見当もつきません」


「犯人を間違う事だ」


また、目をぱっちりと見開き驚く。


「意外だった?」


その表情がすこしおかしく、鼻で軽く笑った。


「それが、怖いんですか?」


「ああ。私だけでなく、警察は全員そうかもしれない

だが、特に私はそれに対する恐怖が大きい」


「何故?」


「私の性質・・・。とでも言っておこう。

言葉では言い表せない。具体的に形容出来るもんじゃないから」


「変わってますね」

彼女は再度笑みを見せた。


「ありがとう」

私は何故か、その言葉が称賛の言葉に聞こえ、礼を言った。

残り少ない紅茶を啜り、カップが空になった。


「ごちそうさま、美味しかったよ」


彼女に礼を言って、椅子を立った。


「今日はお会いできて良かったです。あっ、そうだ」


彼女はいきなり立ち上がり私の前に立った。


「どうした?」


「これ、作ったんです」


と差し出されたのは水色のお守りであった。


「これは・・・」


「言ったら信じてもらえなさそうですけど...

オオカミさんの身に何かが起きそうな気が、

この前久しぶりに会った気がして・・・」


「具体的に形容出来ない・・・何か?」


先程自分が言った事を思い出して、そう言った。


「はい」


そう肯いた時の彼女の瞳は、真っすぐ私を見ていた。

その瞳に、なぜか説得された。


「わかった。ありがとう」


彼女から、お守りを受け取った。


「・・・気を付けてくださいね。」


「気を付けるよ、また、来るから」


そう約束を交わし、私は図書館を去った。




―――――



助手の裁判から1ヵ月が経った。

暫くこの平穏が続いてほしいと思っていたが、

彼女の予感は、正解だったのかもしれない。


鑑識のマーゲイに呼び出されたのだ。


「どうした、マーゲイ。お前から私を呼び出すなんて珍しいじゃないか」


「これを見てください」


透明な袋には白い紙が入っていた。

私は白い手袋をつけて袋の中身を取り出した。

物は手紙の様なものであった。

その文面を注意深く見た。


「これは...」


カタカナ混じりの汚い字で、こう書いてあった。


“来タル、PPPライブ、悲劇ノ合唱ガ花火ト共ニウチ上ガル、コトダロウ”


一瞬文面は意味不明だったが、私は少し考えて理解が出来た。


「爆破予告か?」


険しい目つきで、マーゲイを見つめる。


「そうですか。やっぱりそう思いますよね!私も最初見たときそう思いました!」


激しく、首を縦に振りながらそう言った。


「でも何でお前がこれを持っている?」


「メンバーから預かったんですよ」


「お前がか?よく親しくなれたな」


彼女がファンである事は知っていたが、そこまで親密とは思わなかった。


「この前会員限定の握手会があったんです。

私が警察関係者という事は彼女たちも知っていて、メンバーのプリンセスさんから

頂いたんです。気味の悪いファンレターが届いたって。いたづらかもしれないけど一応って」


「そうか...。ライブを中止にするにしても犯人が何時のライブを標的にしているか

わからない。

会場変更という手立てもあるが、犯人もファンだとしたら必ず来るな」


「どうしたらいいですかね・・・?」


「今度のライブは何時だ?」


「ファン限定イベントが、2週間後の日曜日です」


「2週間後か・・・。念のため警備しといた方がいいだろう

まだこの時点では、犯人が来るか来ないかわからないからな」


「わかりました・・・。PPPの関係者にそう伝えておきます

あなたに相談して良かったです」


マーゲイは頭を下げて、自分の机に戻っていった。

だが、オオカミは立ち尽くしたままだった。


(悲劇の合唱が花火と共に打ち上がる・・・?

何故合唱なんだ?歓声や悲鳴でもいいはずなのに・・・

それに花火という比喩・・・・)


何故かその理由がパッと思い浮かんでこなかった。


「しっかし、また厄介な事が起きそうだ...」


オオカミの周りで、形容出来ない何かがこの時すでに、渦巻き始めていた。

様々な人物の思惑がスクランブル交差点を一斉に歩き始めたのである。


ーーーーーーーーーー


一方その頃・・・、アメリカ、ニューヨークでは


「You are truly amazing! Proud of the police!」

(君は実に素晴らしい!警察の誇りだ!)


「Thank you~、But, this is thanks to you guys gave me to cooperate.」

(ありがとう。でも、それはあなた達が協力してくれたお陰ですよ。)


「Japanese people are humility!hahaha...

By the way, are you going to Japan soon?」

(日本人は謙虚だな!ハハハ...、ところで君は近いうちに日本に行くのかい?)


「Yes.Take a day off.“Please came to japan.”I because I have been asked to old friends.」

(はい。休みを取って。“日本に来てもらいたい”って私の古い友人に頼まれているんです。)


「Really? Well,since the incident was also resolved, it is good to rest slowly.」

(本当に?まぁ、事件も解決したし、ゆっくり休むことをお勧めするよ)


「Hahaha...。I think not rest too much.」

(ハハハ...。私はあまり休めないと思いますけどね)

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