9.ブリキ、やれやれする

「荷物、詰め終わったッスよ」

「おう、ご苦労さん」

 

 ゴス以外の四人でジュラルミンケースに札束と金塊を詰め込み終えた。ケース四つ分になった。やっぱ少ない気がするが。

 

「そんじゃ、あとは、っと」


 そう言ってダリーさんはスーツの懐からメモ帳らしきモノと万年筆を取り出し、一枚を千切ってそこにサラサラと何かを書き込んだ。なんだろう、あれ?


「これでよし。ゴス。ビデオは?」

「出力済みー。すみすみすみすみ川澄○子」


 ゴスがそう言いながらスカートの中に手を突っ込み、何やら薄くて小さい金属板を取り出した。取り出すときにベリッ、という音がしたのが気になる。なんだろう、アレ。あと突如の声優名も。この世界にいるの?


「ん? どうしたのどうしたのブリ兄さん。股間の接続口に刺してたメモリースティックを抜いただけよ? 食べる?」

「要らんわ」


 どんなところに接続口付けてんだよ。下の口ってか? というか人体に接続口? サイバネティック的な? いや、俺の身体のことを考えるとゴスがサイボーグである可能性もあるな。どちらにせよ股間に付けるのはどうかと思うが。


「よし。あとは逃げれば逃げ切れる」


 ダリーさんは紙とメモリースティックの二つをすぐ見える場所に置き、そう言った。ビデオを置いていく……? 全員、顔は隠しているが、ビデオで体型やら何やらである程度は特定されてしまうのでは。決定的な証拠にはならないかもしれないが、目を付けられたりはしないのだろうか。特に俺。ブリテン人って、他にどれぐらいいるんだ?


「警報は既に鳴った。新入り、覚悟を決めろよ」


 人を撃つ覚悟、いや、撃たれる覚悟だろうか。あまり痛くありませんように。


「盾役、期待してるわよー新人ちゃん。ちゃーんと撃ってね。ヘイトを稼がないとダメよ。昔、タゲコンスキルなしの回避キャラを作ったらボスキャラに無視されるという悲しい目に会ったことがあるの。せめて移動制限スキルぐらいは取っておけば良かったと後悔しているわ」


 クラインさん、見た目と話し方と性別の割に結構なゲーマーらしい。おそらくはTRPGの話だろう。たしかに、攻撃しない盾なんざ無視されても仕方ない。撃つしかない、かぁ。

 

「……とはいえ」


 スーツケースを担ぎ、走り出した四人の後ろを追いかけつつ、俺は小さい声でそう呟いた。まだ警報が鳴ってから五分も経っていない。元の世界の常識に当てはめるなら、既に治安組織がこの銀行へと来ているとしても、せいぜいパトロール中だった警官ぐらいなモノだろう。俺が撃たなくても、他の人がなんとかしてくれるんじゃないかしら。

 そんなことを思いつつ、金庫から飛び出し、廊下を走り抜け、銀行のエントランスに戻った……その瞬間。

 俺の目にとんでもない光景が飛び込んで来た。


「ワーオ!」


 思わず、ここへ入った時々同じ声を出した。人、人、人。黒い防具を着けた人間が数十人、エントランスに存在していた。何人かは捕まった人々を救助しているが、殆どが遮蔽物に身を隠しつつ、こちらに向かって銃を構えている。

 ふう。正直、異世界に来たと思った時点で、ずっと言いたかったセリフがあった。今がまさに、そのタイミングだろう。


「やれやれ――面倒なことになったな」


 金属の足をガクガク、ガチャガチャと鳴らしながら、俺はそう呟いた。






【TIPS】

・メモリースティック

色々なデータを記憶できる。現代のと大して変わらない。USBタイプで裏表が分からなくなるのも同じ。


・特殊治安部隊

人体のスチーム化技術によって、蒸気管を通って移動することができるため、通報から五分もあれば現場へとやってくる。

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