7.アリス、謝る
「んじゃ、改めて作戦を確認するぞ。金庫のドアを開けて、中のモノを掻っ攫えるだけ掻っ攫う。バッグをそこにあるダストシュートに入れれば、バッグは受取人がいるところまで行く」
金庫の扉の前で、俺はダリーさんの説明を受けていた。
ダストシュートの中はなんやかんやで街中で繋がっていて、なんやかんやでそのルートを限定させたそうだ。なんやかんやってなんなんだろ。
「で、俺らは陽動として銀行から普通に逃げる。金庫を開けるときに大きな音が鳴るから、まず間違いなく通報されるだろうしな。俺らが暴れてる間に、金目のモノを詰め込んだ車は遠くにいる、ってわけだ」
ダストシュートから逃げられないのかな、と思っていたが開けるときに必ず通報されてしまうらしい。チッ。厄介な。
「ここまでで何か質問は?」
「特には無いッス」
実際には色々あるが、今聞いても仕方のないことばかりだ。ゆえに何も言わない。この街、それどころかこの国、この星の名前すら知らない。その辺もまとめて、ボスとやらに聞くことにしよう。同じ異世界人であれば、きっと答えてくれるはずだ。
「そうか。適当にドンパチしつつ車に乗り込んで、派手に逃走する。街からの脱出については……お前、この街がどんなモンかは知っているか?」
「知らないッス。気がついたら街中にいたんで」
「どういうこった。まぁいい、それなら説明はしない。指示通りに動け」
ざっくりとしすぎである。金庫からモノをもらって無理矢理逃げる、というかなり大雑把な計画だ。ボスとやらがいるにも関わらず、なんだか行きずり強盗みたいな内容だ。まぁ、俺は飽くまでイレギュラーに過ぎないしな。おそらく、実行前に綿密な話し合いをしたに違いない。違いないよな? したよな?
「テメェという予想外のせいで大分遅れたが、そろそろアリスが仕事を終えるはずだ。ドリルで鍵の構造部分まで穴を開けたら爆破で破壊。そしたら金庫が開くんだ。だろう、アリス」
『え? あ。あっ。承。残時間、十分』
「オイ。テメェ、新入りが来る前も十分っつってなかったか? まさか、俺が説明してる間も何もしなかったんじゃねーだろうな」
『……』
「……」
『(*ノω・*)』
「簀巻にしてダストシュートに投げ込んでやろうか」
アリスが顔面に表示した顔文字――やはりアレはただの黒タイツではなく全身型のディスプレイガジェットだったようだ――のせいで、ダリーさんの怒りが頂点に達したようだ。彼の額に何本もの青筋が出ている。ピエロメイクのせいでそれがより強調されており、かなり怖い。
ダリーさんに見えないよう俺のディスプレイに『謝罪は福』と表示させてみたところ、アリスは凄い速度で土下座した。薄々思っていたが――どうやらこの女、かなりのポンコツらしい。
【TIPS】
・ダストシュート
ダストシュートの中は街単位ですべて繋がっており、入れられたものは重力と蒸気噴出に従って街の地下にある焼却炉へ落とされる。しかし、そう行った狭い所専用の人員がルートを塞いだり蒸気噴出システムを弄ったことで、金庫前のダストシュートから他の場所へと行けるようにしている。
・自動照準補正
ヘルメットの機能の一つ。ただし、スキルが無いと結構外れる。オートエイムではなくセミオートエイムぐらいなので、きちんと構えないと結局当たらない。
・国
アドマック帝国。国内のみの生産ですべてのモノの供給が可能になっているため、鎖国状態になっている国。
皇帝をトップとして、その下に最高位貴族協議会、更に下には下位貴族院、その下に『それ以外』、という、皇帝に最高権威がある立憲君主体制。
地球でいう中国ぐらいの大きさで、国境には巨大な壁が作られている。また、ほぼ全ての土地が人の手の入った地域。農耕などの一次産業は、それらの生産物が地下にある工場で合成されているため全く存在しない。
アド街○ク天国と特に関係はない。
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