6.ゴス、レンドリースする
「ブリ兄さん、ブリ兄さん。実はそのヘルメットにはステキなシステムがある。メニューオープン、って叫んでみて」
さきほどまでずっと黙っていたゴスが言った。俺の視界の隅で、黙って死体を指で突いていたよ。『まだスチームに出来るかな?』とか呟きながら。怖いから一切無視していたが。
しっかし、メニューオープンか。実にゲーム的だな。どんどん嘘臭さが増していく。実は事故って植物状態になった俺がVRMMOにでも放り込まれたんじゃないのか?
まぁいい。どれどれ。
「メニューオープン!」
視界に一瞬、緑字で0と1が流れたあと、何やらウィンドウが表示された。フーム。よくある異世界モノのメニュー表示をサイバーパンク的に可能にした感じだな。では早速、項目を確認してみよう。
「ピザ。パスタ。パエリア。サイドメニュー。デザート。うん。うん? …………………ゴス。これは?」
「ここまで届けてくれるお店を検索してそのメニューを表示してくれる機能! とてもすごい! そしてステキ!」
「要らねぇ機能を紹介してくんじゃねえよ!」
便利っちゃ便利だが今は要らねぇ。腹でも減ってんのかコイツ。
「テメェ、ゴス。先にスキルメニューだろうがボケ。オイ、新入り。お前のスキルを言え」
「はい? スキル?」
「あ? あぁ。ソイツで確認出来ることぐらい知ってんだろ?」
知らんし。スキル。スキルか。剣技とか魔法とかだろうか。『グランドダッシャー!』とか叫んで土を弄ったりできるのかな。やりてえ。
「そもそもこの世界におけるスキルって……?」
「あ? この世界? まさかお前、ボスと同じ異世界人ってわけじゃねーだろうな」
頭の回転が早くて物分りが良い人のようだ。話を早く進めてくれるタイプの。ありがたい。
「その通りッスわ。スキルと言われても、何が何やら」
「ったく、何が起きてんだ。まぁいい、スキルメニューって叫んでみろ」
「スキルメニュー!」
おお。さっきと同じようなノイズが走ったが、さっきのと違ってそれっぽい感じのインターフェイスが表示されている。……うん。一番上にツリー名が書かれ、その下には取れるスキルが書かれているようだ。
「ソイツでスキルを得ることが出来る。神経電気接続がどうたらという話らしいが、詳しくは知らん」
まーたとんでもカガクな一品だな。電気接続されてるから出来ること、か……電気。電気か。そうか、スチームエネルギーで色々やってるにしても、人間に生体電気がある以上、電気という概念自体は存在しているのか。
ま、いいさ。今はスキルだ。取れるモノを取って少しでも生存率を上げよう。範囲攻撃が欲しいところだ。えーと。『ショットガンツリー』『アサルトライフルツリー』『マシンガンツリー』。うん。思ってたのと全然ちがう。もっとこう、『魔術スキル』とか『剣技スキル』とかを想像してたのに。
嫌な予感がしつつ、各ツリー以下の中から適当にスキル情報を表示させた。脳で念じるだけで操作可能だ。楽でいい。『ショットガンツリー:デスフロムアバブ。ショットガン装備時、上空での命中補正に+30%』……『アサルトライフルツリー:フロムザデプス。船上、海上でのアサルトライフル命中補正に+50%』……。
パッシブスキルばっかじゃねーか!! これRPGじゃねえ! どっちかというとFPSとかオープンワールド的なスキルシステムだろ! しかも銃器のスキルツリーしかねぇってどういうことだよ! P○YD○YやFar○ryやSky○imみたいに戦闘スキル以外も取らせろや! このヘルメットが電気接続によって俺の身体と脳になんやかんやしてるっつーなら、むしろ知識スキルを取得できてしかるべきだろうが!
あとこれ! スキルポイントって項目! ゼロだよ! 何も取れねぇ! 第三者がシステムを説明してくれるというチュートリアル的な場面なのになんで一個も取れねぇんだよ! 取らせろや一個ぐらい!
クソ。とりあえずはアレだな。どうやら俺にチート能力が無いことは分かった。現代兵器や現代知識無双も不可能だ。こっちの世界のが発達してやがるし。無事に生き残っていけるのか、俺。
「スキル一個も取れないッスわ、ダリーさん。どうしましょ。銃器のスキルツリーしか無いしスキルポイントも無いッス」
「あぁ? マジか? レベルが低いんだろうよ」
レベル概念来ちゃいましたね。どんどんリアリティ薄れてくわ。まぁ今更だか。
「レベル、ッスか。どうやって上げるんですか?」
「ソンケイを集めるとレベルが上がる。テクニカルな運転したり警官を綺麗に撃ち殺したりな」
おおっと、経験値のもらい方が予想外。予想外なのに既存。某ギャングオープンワールドゲーのレベルの上げ方じゃねーか。誰がどうやって収集してんだそれ。なんでソレがこのガジェットに影響するんだ。クソ。落ち着いたら問いただしまくってやる。
「スキルツリーに関しては、そのディスプレイヘルメットが古いんだろうな。スキルレコードやスキルメモリースティックでスキルツリーを増やせるが、今は持ってねぇ。ま、今日は盾にでもなっとけ」
あっ。ダンジョンとかで拾える系のヤツだわ、スキルツリーの増やし方。なるほど、それならまぁ。
いや、だとしても初期ツリーが武器ってのはおかしいだろ。逆だろ。ストーリーが進むにつれて使用武器が増えていくモンだろ。
しかしスキルだのレベルだの、本当に随分とゲーム的な世界だ。俺がいた世界でサブカルにどっぷり浸かった神様が雑に作った世界、と言われても納得してしまうだろう。よく見るしな、そういう神。便利だよな神。『とりあえず敵にチョビ髭総統』ぐらいに便利である。伍長が研究していた技術、とか美術大学落第総統が使っていたアイテム、とか言っとけば危ない雰囲気出せるしな。
「しかし、盾ですか。そんなに硬いんですか、この身体?」
『知性生物最硬。否、我、汝殺害可。最大火力放出』
「だーかーらー。MPとSPを大量に消費して、でしょう? しかももう殺す必要無いし。悪戯半分で警察に本名バラすわよ」
『いくらなんでもそれは!』
「MPとSPというのは?」
「マガジンポイントとスチームポイントの略だ。クラインしか使ってねえ」
一般的な名称じゃねーのかよ。単に残弾数とエネルギー残量を指してるだけじゃねーか。つまり、アリスが俺を殺すにはありったけの弾丸と蒸気を費やさなけりゃならないってことか。たしかに、盾にはなれそうだが、温覚はあったんだよなぁ。痛覚も薄いとはいえ少しはあるんじゃねーのか?
「MPとか
SPとか、そう言ったほうがゲームっぽくて楽しくお仕事できるでしょ?」
どんな理屈だよ、と思いつつも分からんでもない、という気持ちもあった。どうせ殺るなら楽しく……いやでも犯罪だしな。元の世界に帰る気マンマンな自分としては、犯罪に対する抵抗は無くしたくないところだ。島から脱出するために人を殺し回った結果、脱出後に殺人の快感が忘れられず結局島に戻ってしまう、なんて目には会いたくない。戻れるならまだしも、死んだことでこの世界に来たしな。あっちで堪えきれずに虐殺を行って死刑になって戻る、そんな洋ゲーみたいな展開はゴメンだ。
しかしアレだな。やっぱゲームは存在するんだなこの世界。落ち着いたら買いに行こう。
「ブリ兄さん、ブリ兄さん。盾とはいえ武器は必要よ。私の武器、貸す? トイチ?」
「う、お、おう。貸して。利子無しで」
ぐぬぬ。盾に専念すればこっちから攻撃せずに済むと思ったのに。殺人は避けられないかな。
「何がお好き? 大剣? スナイパーライフル? 電気式超振動カタナ? 蒸気消費型大口径砲? 明治風回転式機関砲?」
ファンタジーと現代兵器とサイバーパンク白兵武器とスチームパンク銃か。目白押しだな。でも最後のヤツおかしくね? この世界における明治ってなに?
「ゴスの分はいいのか?」
「こちとら産まれて死ぬまで投擲一貫ね。投げナイフ投げ手榴弾投げ猫」
じゃあなんで他の武器持ち歩いてんだよ。他の奴らの予備かな。
「じゃあもう大剣と大正浪漫砲以外、全部貸してくれよ。何が何やら分からん」
「まーかして!」
こっちに向かって中指を立てながらゴスが行った。こっちにもそのマンガあんの?
どれも使ったことないし、とりあえず全部でいいだろう。どうせマトモに当たらんが、見た目はすべて凶悪だ。ビビらせることは出来るだろう。
「はいこれ。そこそこそこここ強力なマグネットが入ってるからブリ兄さんの身体に引っ付くよ。使うときは切ってね。あとは構えればヘルメットが自動で照準補正してくれるネー」
照準補正あるなら当たってまうやん、と思いつつもゴスから武器を受け取り、カタナを腰、スナイパーライフルを逆側の腰に、蒸気砲を背中に付けた。ぴょんぴょんと飛び跳ねてみる。よし、落ちない。
今度はくるくると回ってみた……ところ、ダリーさんの顔が視界に入った。ピエロメイクでも分かるほど、呆れた顔をしている。
「おいゴス。その大口径砲ならソイツ殺せただろうが。今更だからいいが、なんで出し惜しみしてた」
「コレはこの私の趣味の一品。おいそれと出すわけには行かーぬ」
おおっと、予備ですら無かったらしい。
ゴスがマトモなヤツじゃなくて良かった。
【TIPS】
・スキル
ディスプレイ付ヘルメットから電気信号や電流が直接的に脳に送られ、その刺激によって、脳が掛けている肉体的あるいは感覚的リミッターを限定的に解除することで、様々な恩恵をもたらしている。
スキルという形にしているのは、脳への過負荷を防ぐため。時折不正な手段ですべてのスキルを最初から取得しているものがいるが、概ね脳が焼き切れて廃人になる。
ちなみにスキルはディスプレイ付ヘルメット、あるいはそれに類するモノが使える場面ならいつでも振り直すことが出来る。
スキルツリー対応ガジェットはペンダント型、銃型、スマホ型など色々あるが、スマホ型以外は画面が小さくて見づらいので人気がない。一部がポーズで無理矢理使っている程度。
・レベル
前述した廃人化を防ぐためのリミッター的概念。『このぐらいのことが出来るやつなら、このスキル数ぐらいまで脳が耐えられる』という指標をレベルという数値で現している。ヘルメットに搭載されている人工知能が、接続先の脳から記憶を読み取り判断する。
マサトにスキルポイントが無いのは、元の世界での記憶を読み取ることができないため。
・回転式機関砲
要はミニガン。だが明治風なので、見た目はやや古臭い。
具体的に言うとる○剣のアレ。
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