第二十一話

 あなたはしんとうしていた。

 きゆうきようひやくがいげきとうさせていた。

 あいたいたる密雲が棚引くはくいろきゆう窿りゆうの最果てすなわち天国最上層は中央の玉座に鎮座していたのはまがうかたなくえいごう不滅の神霊YHWHであった。すいの旧約聖書における叙述のとおりせんめいたる人間のふうぼうをしていたがきようじんなる皮膚は微生物のように虹色の半透明になっておりにくたいの内部にはぞうろつのかわりになる鋼鉄製の機関と――ガブリエルいわく『世界最初の永久機関』だということだったが――極彩色のでんらんが縦横に配置されていた。

 あなたはきよくてんせきとしていた。

 精緻なる機関のようにもこうかくできる神霊からは無尽蔵の愛情が氾濫しておりぎよう混濁の現世では体験したことのないようなうつぼつたる歓喜と至福の感慨にこうこつとしたのであった。きつきゆうじよとしたあなたは四大天使との約束どおりえいごう不滅の神霊と契約をかわさんとした。全知全能たる神霊はあなたの微衷をしつしているようでそのきゆうするところを尋問せずして返答した。いわくあなたは最愛の恋人をたすけるためにあのこんとんとなった世界をかいふくさせてほしいのですね。無論悪魔たちとあなたの恋人が契約して世界を混乱させることは全知全能のわたしにはわかっていました。魔王ルシファーの意図するところもしつしています。あえて世界を混乱させたのは一旦世界をかいびやく期から復活させる意図があったからです。五千年の歴史はわたしにとっては刹那ですが人間たるあなたたちまでまきんでもうしわけありませんでしたと。

 えいごう不滅の神霊は契約した。

 いわくそれではこれから世界をかいふくさせましょう。あなたには特別に『この世界』での記憶を残してさしあげます。どうか『かいふくした世界』でもこの体験を物語ってくださいと。ほうはくたる天国はあいたいたるむらくもはくいろきゆう窿りゆうによる最上層『エンピレオ』から最下層『月天』まで巨億の古代文字群のきようらんとうとなって崩壊しまんしんそうのあなたのにくたいばんこくの古代文字群となってきやしやなる指先から心臓まで暗黒にふくそうするかのように消滅していった。

 あなたの記憶は途切れてしまった。

 たる神霊の姿すがただけは残されていた。

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