第二十二話

 わたしはきよくてんせきとしていた。

 るいじやくなる心臓は猛烈に脈打っていた。

 れんえんかいなるたいふう状となってかいわいじようし大罪人たるユダやブルータスやカッシウスが幽閉されいている地獄の最下層第九圏は第四円においてかいなるぎんばえふうぼうとなったベルゼブブの背中から着地したわたしはたるにくたいを誇示する魔王ルシファーとかいこうしたのであった。かつぼうばくたる天国において最高峰の美貌と権力を掌握していたルシファーのがんぼうは地獄の魔王とはおくそくできないほどかいれいでありそうぼうは女性のように優艶であったがそのにくたいは巨大なる十二枚の翼をふくめえいごうの業火に燃焼されたためにれんの筋肉が露呈されぎようなる鉄鎖によってがんがらめにされていた。

 わたしはほうはいたる霊威に畏怖した。

 ほうはくたる地獄の魔王たるルシファーは意想外にいんぎんなる態度でわたしを歓迎した。幽艶に微笑したルシファーはえいごうの業火に猛襲されてろうこんぱいしているのか断末魔のようなこうふんでわたしに物語った。いわくきみにえてうれしい。よくぞまでわたしたちとの契約を完遂してくれた。これであの現世にはわたしたちの理想とする人間本来の自由と闘争の世界が実現したのだ。天使からの伝達によればしゆもなくあの神霊はこの地獄や天国ごと全世界をかいびやく時から復活させようとしているらしい。きみのきゆうするところはわかっている。きみときみの恋人とはまた『つぎの世界』でかいこうできるだろう。これだけはわかってほしいのだ。わたしたちは人類を破滅させようとしたのではなくりすともたらした偽善の自由をせんめつし真実の自由を人類にさずけたかったのだ。すなわち本当に人類のために闘争したのはあの神霊ではなくこのわたしたちにほかならないということだと。

 魔王ルシファーはつづけた。

 いわくこれこそが真実なのだと。だからきみとはもう一度契約する。きみはかならずまた恋人とかいこうできる。そのときこそこの記憶を人類のために継承してほしいのだ。そのためにきみには『つぎの世界』でも『この世界』での記憶をほうふつとできるように細工をしようと。きよくてんせきのわたしがうつぼつたる畏怖とともに感謝しようとした刹那ほうはくたる地獄が第一圏の『辺獄』から最下層の第九圏までごうおんめかしながら崩壊してゆきたる魔王ルシファーごとべんしているわたしもえいごう不滅とおくそくされるような暗黒のなかにまきまれていった。

 わたしのりよはおわった。

 最後に記憶に残っているのはルシファーの微笑であった。

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