侵入

1件目の五寸釘による殺人事件が報道された後、職場から帰ると、閉めたはずの玄関が開いている。何事かと思えば、中で人が転がっていた。死んでいるのかと思ったが、マスクの下から呼吸音がしたので、生きているのだと理解する。日本人形のように、首元で整えられた濡烏の髪。赤いコートをその身に纏い、手には五寸釘を持っていた。恐らく、それで鍵を開けたのだろう。セキュリティの緩さに、引越すことを頭の隅に考えた。が、今の給料では、ここよりいいところは望めないだろうと断念する。しばらくして、起きあがった彼女が名乗った名前は、なんと花子。しっちゃかめっちゃかにもほどがある。しかし、マスクの下には綺麗なままの顔があり、赤いコートの下は本名と思われる名前が堂々と載った冬物の体操服を着ていた。さらに言えば、既に成人はしているだろうと思える容姿をしているのだから、もう訳が分からない。

「今回の殺人事件の犯人です。しばらくはこの区域での殺人を行う予定なのですが、住むところがありません。貴方には危害を加えるつもりも、迷惑をかけるつもりもありません。お願いします、匿って下さい」

丁寧な口調で頭を下げながらの言葉よりも、依然として掴んだままの五寸釘が思考を停止させる。そんなことをされてしまったら、首を縦に振るしかない。どこからどう見たって、明らかな脅迫だった。了承する以外の選択肢が見出せないのも、当然だろう。

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