04:性夜(前編)

 ついにこの日がやってきた。それはもう長い年月を費やし、一度は死にかけて、それでも尚諦めずに追い続けた悲願を達成する日が。色とりどりのイルミネーションに照らされたカップルや家族連れが笑顔を振りまきながら降り積もった雪の上を歩くこの光景が、今からこの俺の手でクソに塗れて茶色く染まる所を想像するとどうにもワクワクが止まらない。作戦を決行するべく、俺はスマホでRKに指示を出す。


「これより作戦を開始する。良いな?」

『こっちは準備万端、いつでも行けるにゃ』

「よし、例の装置を起動させてくれ。」

『……起動完了にゃ』


 その瞬間に町中の明かりが消え、辺りは暗闇に包まれた。突然の不可解な出来事に周囲の人々は呆然としている。しかしこれはまだ喜劇の幕開けに過ぎない。本当に面白くなるのはこれからだ。俺はコートのポケットに手を入れると、次の仕掛けの起動ボタンを押した。


「おいおい、こんな時に停電かよ」

「ママー、くらいよぉ」


 群衆のざわつきに紛れて音楽が鳴り始める。

『……This ain't a song for the broken-hearted』


「なにも見えねぇ……ってなんか聞こえないか?」


 最初は数人しか気づいていなかったその音は徐々に大きくなってゆき……

『No silent prayer for the faith-departed~♪』


「もしかしてイベントかなにか?」

「さぁ。でもそんな告知なかったよなぁ。」


『I ain't gonna be just a face in the crowd~♪』


 ついに周りにいた人間すべてが認識できるレベルになった。

 そして……


『You're gonna hear my voice When I shout it out loud~♪』


「……今だRK、照明を。」

『はいにゃ!』


『It's my life~!!』


 曲がサビに入った瞬間、今まで消えていたイルミネーションや街灯の一部が光を取り戻し、広場の中心を照らす。そこには悪臭を放つ茶色い体の怪人と、同じような茶色の戦闘用スーツに身を包んだ男、”元”ジャスティスレッドが立っていた。それを見た人々からは大きな悲鳴が上がる。


「……」

「ブ~リブリブリ~!今から俺様たちがクリスマスをクソまみれにしてやるブリ~!」


 そう叫び終わると同時に、怪人は人々に向かって走り出す。その手にはいつの間にかウンコが握られていた。それもそこらへんに落ちているような単なるウンコではなく、色、形、大きさ、そして臭い……どれをとっても申し分ない見事な一本グソだ。


「うっ、うわああああ!助けてくれ!!」

「ブリブリ~!逃がさないブリ~!!」


 足がもつれて周囲より逃げるのが遅れた一人の男に怪人がウンコを投擲する。メジャーリーガー顔負けの強肩から放たれた剛速球、もとい豪速糞は勢いよく男の顔面にクリーンヒットした。


「う……うっぷ……おええええぇぇぇぇ……」


 通常の数十倍の臭気を放つウンコを顔でキャッチした男は、あまりの臭さに七面鳥とブッシュドノエル”だったもの”を辺りに撒き散らして気を失った。また、ターゲットにはならなかったものの運悪く臭いを知覚できる範囲にいた何人かの男女も素敵な聖夜のディナーを逆流させている。その様子をみた怪物は満足そうに醜い顔を綻ばせると、空に向かって手を掲げた。すると、怪物の手に光の粒子が集まり、再びその手に一本グソが握られた。


 ――正解の音サウンド・オブ・コレクトアンサー


 大気を構成する原子を組み替えて無限にウンコを生成するこの能力さえあれば、途方もない量の糞を用意せずとも町中をクソ塗れにすることができる。多少面倒ではあったが、このために農場まで足を運んだのはやはり正解だったな。


「ブリリ~!次にこのウンチの犠牲になるのは誰ブリ~!?」


 得物を補充し終えた怪人は新たな犠牲を探し始めたその時、どこからともなく大きな声が響く。振り返ると、そこには青・黄・緑・ピンクのスーツをそれぞれ身に纏った四人の男女が立っていた。



「クリスマスを穢す怪人め!!悪事はそこまでだ!!」



【CMのあともまだまだつづくぞ!】

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