02:ヒーロー登場

 怪人の材料となる糞を調達するのはさほど大変でもなかった、と言うと何か誤解を招きそうだが自分のを使ったとかそういう訳ではない。アジトからそう遠くない所に叔父の経営する養豚場があるため、肥やしにするからと言って豚の糞を幾らか分けて貰ってきたのだ。臭い・汚い・うるさいと見事に三拍子揃っているため、子供のころ何度も親にムリヤリ連れて行かれた嫌な思い出しかない場所だが、たまには役に立つものだ。


『それじゃあ材料を入れるにゃ~ん』

「よし、投入開始だ。」


 土嚢袋に入った糞を抱え上げ、ひとつづつ機械の上部に設置された投入口に放り込む。日頃の運動不足のせいか三つ目を投入した時には既に息切れを起こしてしまっていたが、それでも途中で軽い休憩を挟みつつ作業を行い、約一時間ほどですべての袋を投入し終えた。これで怪人作成の準備は整った、あとはスイッチを押して完成まで何時間か待つのみだ。そう思った瞬間、背後から大きな声が響く。振り返ると、そこには真っ赤なヘルメットと戦闘服を身に着けた変質者が立っていた。


「待てぃ!!」

「まーた来たのかよ雷堂。つーかRK、セキュリティはどうした?」

『例のビームで破られたにゃ』

「ジャスティスボンバーは最強だからな!!あと本名で呼ぶのはやめろ!!」

「てめぇ……絶対後で弁償しろよな……」


 コイツは雷堂真司。俺が小学生の頃からの友人であり、正義の戦隊ヒーロー"ジャスティスファイブ"のリーダーだ。俺と雷堂は子供の時から筋金入りの特撮オタクで、時間さえあれば日曜朝の特撮番組や怪獣映画について語り合っていた。正義と絆の力で悪を薙ぎ倒すヒーローに憧れた雷堂と、怪しげな怪人やそれを生み出すマッドサイエンティスト、そしてカリスマ溢れる悪の首領に憧れた俺。楽しみ方の方向性は真逆だったものの、俺達は間違いなく特撮を愛する同志であると言えよう。


「で、今日は何しに来たんだ?金なら貸さねえからな。」

「いや、お前のとこのおばさんから様子を見に行ってくれって頼まれたんだよ。ほら、これおばさんから預かった煮物。温めて食べろってさ。」

「チッ……あのババア……まぁ良いや、もうじき昼だし雷堂も食ってくか?」

「良いのか!?あと本名はやめろ!!」


 と言うわけで、正義のヒーローと悪の天才科学者の食事会(2ヶ月ぶり17回目)が始まった。


 





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