01:天啓
更地になったアジトの再建には約半年の時間を要し、怪人製造機をイチから作るのにはさらに同じくらいの月日がかかった。設計図さえ何処かに残っていれば3日足らずで完成させられる代物だが、生憎その設計図はアジトもろとも吹き飛んでしまったため記憶を頼りに作り直す必要があったのだ。聖書によると神は一週間で世界を作ったらしいが、今なら絶対にそんなの嘘っぱちだと断言できる。天才科学者の俺でさえ機械ひとつ作るのにこれだけの時間がかかるんだ、神ごときにそんな芸当できる訳がない。まぁそれはともかくとして、憎きクリスマスまであと何日か残した状態でなんとか復旧作業は完了したわけだが、問題はその先にあった。
俺の作った怪人製造機は素材として投入したモノの材質や見た目、特性を反映した怪人を生み出す。例えば石や鉄などの素材を使えば重くて頑丈な身体を持った怪人に、プラモデルやソフビ人形を素材にすればそのキャラクターに似た姿の怪人に、といった具合に。つまり使用する素材をキチンと選べば自分の思った通りの特性を持った怪人を作れる優れモノなのだ。ただその一方で発現した特性が自身に不利に働いたり、素材の組み合わせによっては想定外の特性を発現させてしまうという大きなリスクがある。
それこそ2年前のクリスマスイブにはリア充どもを爆発させるためにダイナマイトとクリスマスの飾りを材料に怪人クリスマ・スーを作ったが、迂闊にクリスマス要素を加えたが為に「非リアを痛めつける」という行動パターンが植え付けられ、その結果大爆発に巻き込まれた俺は無様にも病院送りになってしまった。というかよく生きてたよな、俺。とにかく、もう二度とあの悲劇を繰り返さないためにも素材の選定は慎重に行わなければならない。
ひとまず俺はアジト内の倉庫を探してみる事にした。ここには普段使わない道具や捨てるに捨てられずにとってあるガラクタ、秘蔵のコレクションなどが納められている。一度なにもかも吹き飛んでしまったから旧アジトの頃よりはモノが少ないが、一通り探してみれば何かしら使えそうなのが見つかるだろう。
「おいRK、倉庫の鍵を開けてくれ」
『は〜い、ちょっと待っててにゃ〜ん』
天井に備え付けられたスピーカーから返事が響いた。彼女はRK、俺がアジトのセキュリティ管理や雑用を任せる為に作った人工知能だ。テレビ番組の録画データやラジオ、CDの音声をサンプルにした学習により、声や性格は5000兆年に一人の美少女とネットで話題になった女子高生アイドルれいにゃ……ごほん、川澄麗奈に生き写しと言っても過言ではないレベルで似せてある。一応言っておくがこれは人工知能の学習性能を試すためにやっただけで俺の趣味ではない。決して。
それから数秒後、物々しい機械音が部屋に響くと同時に床に取り付けられた扉が上向きに開く。俺は地下へ続く階段を降りると、倉庫の中の棚を端から調べていった。
「んんー……なんか違うんだよなぁ……」
日本刀、鉱物標本、ガンプラ……怪人の材料として申し分ないモノは幾らでもあるのだが、クリスマスを台無しにするという悲願を成し遂げるにはイマイチ捻りがないというかなんというか……そう、味気ないのだ。そういう意味では失敗こそしたものの、クリスマスをモチーフにした前の怪人はなかなか悪くなかった。さて、どうしたものか。
俺は何気なく白衣のポケットからスマホを取り出すと、ツイッターを起動した。元々俺はSNSなどやらない主義だったのだが、入院中あまりにも娯楽がなかったため試しに始めてみたらこれが案外悪くない。アプリを開いてさえいれば常に誰かが何かを呟いているというのは、病室で一人寂しく過ごさざるを得ない状況下では良い退屈しのぎになった。もっとも、事故に遭う前も他人との関りなど殆ど無かったのだが。画面をスワイプしながら大量の文字列たちに目を通していたその時、ある一つのツイートが目に入る。
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「クリスマスに対抗して!!糞済ます!!」と往来で絶叫した全裸中年男性!ツリーに登って上から大量のクソを撒き散らした!糞で埋め尽くされる街!!あまりの臭さに失神するカップル!! ブラウンクリスマスの幕開けだ!!
0リツイート 2いいね
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どうみてもフライング……!
圧倒的フライング……!
しかしその時……!
狂太郎に電流走るっ……!
圧倒的閃きっ……!!
「これだ……うんち(せいかいのおと)だ……」
そうだ、クリスマスを滅ぼすったってなにも暴力で解決しなきゃならないなんて事は無かったんだ……奴らを全員クソまみれにして全てを台無しにしてやれば二度とクリスマスなんて祝う気にはなれないだろう。
「ククッ……ククク……クハハハハハハッ!!見てろよリア充ども!!!!貴様らを一人残らずクソまみれにしてやるからなァ!!
うんち!(せいかいのおと!)
うんちっ!!(せいかいのおとっ!!)
うんちィィィッッッ!!!!!
(せいかいのおとォォォッッッ!!!!!)」
思わぬ形で得られた天啓により、俺の計画は大きく一歩前進した。
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