聖夜なんてクソ喰らえ
アリクイ
プロローグ:いつか(去年)のメリークリスマス
クリスマス。
無駄に大きなクリスマスツリーと色とりどりのオーナメントで白々しく 飾り付けられた街に、頭の悪いカップルや家族連れがひしめきあう日。この世界の現実や残酷さを知らない無知な子供たちがその瞳をキラキラと輝かせながら、存在する訳もないサンタクロースからのプレゼントに期待を寄せる日。そして非モテであるこの俺にとってこの世界で最も忌まわしい"性の6時間"を内包する日。
そんな一年の中で群を抜いて最悪な一日だが、俺は珍しく穏やかな気分で過ごすことができていた。まるまる一年間も続いた入院生活が終わり、あの狭っ苦しくて退屈な病室からやっと解放されたのだから今年くらいは外の空気を吸いながらゆっくりしてもバチは当たらないだろう。というかそもそも去年の爆発事故で俺のアジトは塵一つ残さず吹き飛んでしまったから何かやろうと思ったところで無理だし、あんな目に遭って再び病院送りにくらいならもうこれからずっと大人しくしていた方がマシなんじゃないかとさえ思えた。
俺はいつの間にか短くなっていた煙草を吸い殻入れに放り込んで、街中をアテもなく歩き出す。名前も知らない彫刻家の作った銅像、小さな鳥居、八百屋のおばちゃんが餌付けしてる太った野良猫、etc……幼い頃からここで過ごしてきた俺には当たり前だった光景も一年離れていただけでなんだか新鮮に見えた。
そうこうしていたら30分くらい歩いたところで大通りの端まで辿りついてしまったので、『さて次はどこに行こうか』『寒いしもう夕飯の買い物して帰ろうか』などと考えていた丁度その時、道を挟んだ先に一人の女が立っているのが目につく。プリン髪に黒と金のジャージ、キティちゃんのサンダルという絵に書いた様なヤンキーファッションの女なんかには全く興味はないのだが、その女にうっすら見覚えがあった俺は顔を見ているのがバレないようにスマホを眺めるフリをしつつ、悪の天才科学者名乗れる程度には中身の詰まった頭の引き出しを開け閉めしていた。すると、そのうちどこからか一人の男が歩いてきて女に軽く手を挙げる。
「よぉミサト。待った?」
「全然、早くいこっ(はぁと)」
そうだ、美里だ。浜中美里。俺の幼馴染で小中学校の9年間ずっと同じクラスで小学3年生くらいの頃には『わたし大きくなったら狂太郎くんとけっこんする』とか言ってた浜中美里っていうかちょっと待ってお前どんだけイメチェンしてるんだよ学生の頃とか黒髪おさげであからさまな清楚系って感じだったじゃん一体何があったんだよっていうかその前になんだそのどうみてもヤカラって感じの男はオイコラ貴様勝手に手を繋ぐんじゃねえっていうかアレか彼氏かそいつ彼氏なのか同窓会の時に『私チャラチャラした人は苦手だから……』とか言ってたのは何だったんだよって待て待て待て待てお前らそっちホテル街の方じゃんいや待ってマジで無理無理無理無理あああああああああああああ!!!!!!!!!
——その日、俺は再びクリスマスを破壊することを決意した。
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