Chapter13 王の食卓
食堂へと向かう道中がてら、俺はヴァイスさんに色々聞いてみる事にした。
「この世界には魔法があると、カルミナから聞いたんですけど、ヴァイスさんも魔法使えるんですか?」
2人で並んで歩き、俺はヴァイスさんの方に顔を向けて話し出す。
「いえ、私には魔法など大層な物は使えませぬ。主に魔法騎士と呼ばれる方々のみに許された戦闘術でございます。」
ヴァイスさんは目を閉じたまま、前を向き歩いていた。
「やっぱり何とかファイヤー! とか、何とかブリザードー! みたいな、火が出たり、凍らせたりとかしちゃうんですか?」
身振り手振りで色々なポーズを取ってみた。
「おお! お詳しいですな小田殿! 森羅万象の精霊に願いを請い、それを具現化した物が魔法という訳でございます。」
ヴァイスさんは目を見開き、なんとも言えない笑顔でこちらを見た。
「な、なんとなーく予想はしてたんすよねー…あ、このイルム王国にも魔法騎士はいるんですか?」
「はい、もちろん。そのほとんどが女性でありますが。魔法という物自体、女性が使う事が多いですな。やはり、精霊との対話という意味では巫女の役割も担うからなのでしょうな。」
ヴァイスさんは少し上を向き、何かを考えながら髭を触っていた。
ぜひ紹介してもらおう。いや、それは女性だからという意味ではなく単に、せっかく魔法がある世界に来たのだから一度は見ておかねばと思っての事だ 。
決してハーレム路線を期待している訳ではない、
断じて無い!
後でカルミナにお願いしてみるか…
「あ、あともう1つ! 魔法があるなら魔物的な者もいるんすかねー? ゴブリンみたいなのとかさ…」
まるでわんぱくな子供のような顔で聞く。
やはり異世界に来たからには魔物ぐらいはいて欲しいという気持ちがあった。
「よくご存知で、まさに見て来たかのような感じですな。 小田殿が居た世界にも魔物がいたのですかな?」
段々とヴァイスさんの顔が、いかにも興味津々な顔付きに変わってきたのが分かった。
「い、いや…居たと言うか…近くとかには居ないんだけど、アニメとかでさ…?」
「アニメ? それは何ですかな?」
とうとうヴァイスさんは立ち止まってしまい、髭を撫でながら、ズズいと顔を近づけてきた。
「あ、ああー、気にしないで下さい! お、お腹減ったなー! さぁ、早く行きましょうよ!」
俺は咄嗟にヤバい空気を感じ取り、1人でサッサと歩きだした。
危ない危ない、俺が何か単語を発する度に恐らく、
それは何ですかな? それは何ですかな?
の無限地獄に違いない。それは本当にめんどくさいので、この対応で正解だろう。
「さあ、この中でカルミナ王がお待ちです。ごゆっくりと会食をお楽しみくだされ。」
とある部屋の扉の前で立ち止まり、ヴァイスさんが右の手の平を扉の方に向けていた。
「あ、はいじゃあ…って、ヴァイスさんは一緒に食べないんすか?」
1度、扉の取手に手を掛けたが、手を離しヴァイスさんのほうに向き直した。
「わたくし共は騎士団、護衛団兼用の食堂がございますので。ましてや王と共に食事などと、怖れ多いというものでございます。」
ヴァイスさんは扉の奥を見通すような、少し遠い目をして、ゆっくりと目を瞑っていた。
そして、もう1度扉に向かい手の平を向けて、俺に中へ入るように促した。
確かに、どんな世界でも王が他の人達とワイワイ楽しく食事するなんてあまり聞いた事が無い。
じゃあ、俺もダメなんじゃ…と言いかけたがこの国の人達には、俺はカルミナの婚約者で通ってる事を思い出し、言葉にする事を辞めた。
扉をゆっくりと開け、中へ入るとカルミナが既に席に着いていた。
装飾の鮮やかな椅子が2つ、1つはカルミナが腰掛けていたので、必然的にもう1つは俺の席だろう。
本当に2人きりで食事をするのか、みんなでワイワイ食べたほうがきっと楽しいのに…
食卓係だろうか、長机の上へ次々と料理が運ばれてくる。
部屋に入った俺を見て、カルミナが手招きしている。
人差し指でそこに座れとジェスチャーしていた。
口に出して言えばいいのにと思ったが、すぐに閃き、『なるほどねっ。』と席に着いた。
料理が運び終わるとすぐに、カルミナが口を開いた。
「皆の者! ご苦労じゃった! 下がってよい!」
カルミナは1度席から立ち上がり、手を払うような仕草を取った。
「「はっ!! カルミナ王、それでは失礼致します!」」
食卓係が足並みを揃え出て行き、ドアがガチャリと閉まったところで、カルミナが溜息をつき、一気に顔がほどけた。
やはり、みんなの前で俺に話しかけてしまうと、
普通の、可愛らしい女の子言葉になる事が恥ずかしいのだろう。
「待ってたよーっ。さぁ、早く一緒に食べよぉ!
今日のメニューも、とっても美味しそうだよー」
どっちのキャラのカルミナもいいな、迷う…
くそぅ! やはりどっちかなんて俺には決められない!
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