第4話 はじめてのおつかい!?
ある雨の日、ギンギツネが1人で留守番をしていた。リビングのこたつに入り本を読んでいる横で、ラッキービーストが家の掃除をしている。
「あら、もうお昼なのね」
ふと、ギンギツネが壁にかけられた時計を見ると、12時をちょうど回ったところだ。
「何か食べるものは…、あったかしら」
キッチンに行き、冷蔵庫を開けると、食べ物らしい食べ物が入っていない。
「またキタキツネがこっそり食べちゃったのね…。相変わらずだわ」
ため息をつきながら冷蔵庫を閉める。
「お昼…、どうしようかしら。外は寒い上にこの雨じゃ、出るのも嫌だわ」
「ボクガカッテキテアゲヨウカ」
「ボス?」
横を見ると、ラッキービーストがジャンプをしながらアピールしている。
「ボクハボウスイシヨウダカラ、アメノヒデモダイジョウブダヨ」
「それじゃあ…、作るのもめんどくさいし、スーパーでしゃけのお弁当と、サラダを買ってきてもらってもいいかしら」
「ワカッタヨ。ソレジャア、イッテクルネ」
「よろしくね、ボス」
ギンギツネがそう言うのが早いか、ラッキービーストは家を飛び出して行った。
ラッキービーストが雨の中スーパーに向かって歩いていると、向こうから傘をさした2人組がやってきた。
「おや、お前は…」
大きい方が何か思い出したようにつぶやいたが、小さい方がそれを遮った。
「下がるです、助手。初めて見る怪しいやつです。この博士が相手をしてやるのです」
何と勘違いしているのかよくわからないが、敵か何かと思っているようだ。
ラッキービーストも立ち止まり、2人の顔を交互に見ている。
ピロピロピロピロ…
「ケンサクチュウ、ケンサクチュウ…」
「な、なんですかこいつは!?」
小さい方は突然わけのわからないことをしゃべり出したラッキービーストに驚き、傘を落とした上に文字通り飛び上がっている。
ピコーン
「キミハ「アフリカオオコノハズク」ダネ。ソシテキミハ「ワシミミズク」ダネ。ボクハ、ラッキービーストノ「ボス」ダヨ。ヨロシクネ」
小さい方はアフリカオオコノハズク、大きい方はその姉のワシミミズクだった。
「な、何故わかるのです!?個人情報がバレているとなれば、ここで始末してやるしかないのです…!」
「アワワワワワワワワワ…」
アフリカオオコノハズクに今にも襲われそうなラッキービーストが、いつものようにフリーズしてしまった。
「さあ、覚悟するですよ…」
アフリカオオコノハズクの目が光り始める。
「いい加減にするのです。博士」
見かねたワシミミズクが止めに入った。
ラッキービーストは、危機が去ったからか落ち着きを取り戻した。
アフリカオオコノハズクが不服な様子で言葉を返す。
「で、でも、こいつは我々の個人情報を知っているのですよ!?タダで返すわけが…」
「こいつはサクヤの家の家庭用お手伝いロボとかいうやつです。心配いらないのです」
アフリカオオコノハズクは不満そうだったが、大人しくワシミミズクに従った。
ワシミミズクが落ちた傘をアフリカオオコノハズクに手渡す。
「我々は図書館に用があるのですよ、博士。道草を食ってる暇はないのです。それでは、失礼するのです」
相変わらず不満そうにほっぺたを膨らませるアフリカオオコノハズクだったが、ワシミミズクに引っ張られるようにして去っていった。離れてもまだ「あいつを始末してやるのです」という声が聞こえてくる。
「マタネ、マタネ」
ラッキービーストには聞こえていないのか、しばらく飛び跳ねながら2人を見送っていた。
ようやくスーパーが見えてきた。入口に「スーパー ジャパリ」の文字が見える。中に入ると、こんな寒い雨の中わざわざスーパーまで来る人がいるわけもなく、閑散としている。
プルルルルル…
いきなり、ラッキービーストに内蔵されている電話が鳴った。
「モシモシ」
「もしもしボス?」
電話をかけて来たのは、家にいるギンギツネだ。
「ねえ今周りに誰もいない?」
「イナイヨ」
「よかったわ…。追加で買ってきて欲しいものがあるんだけど、いいかしら」
「ダイジョウブダヨ」
「それじゃあ…」
ラッキービーストの電話機能は周りに声が漏れるのを知っているギンギツネは、恥ずかしがって躊躇しているようだ。
「び、ビールとポテチも一つずつ買ってきてくれないかしらっ」
ギンギツネが早口で注文をした。あろう事かラッキービーストはそれを丁寧に繰り返す。
「「ビール」ト「ポテトチップス」ダネ」
「もうっ、繰り返さなくていいから!」
「…」
機能として仕方ない仕様なのだが、時々それが仇となる瞬間があるのだ。完全に落ち込んでいる。
「とにかく、バレないように早く買ってきてよねっ!」
「…ワカッタヨ」
電話が切れるとしばらくじっとしていたものの、すぐに気を取り直してかごを取り、頼まれたものを取りに行った。
「いらっしゃいませ…?」
頼まれたものをカゴに入れ、レジに来ると、店員がラッキービーストを不思議そうに見つめている。
ピロピロピロピロ…
「ケンサクチュウ、ケンサクチュウ…」
ピコーン
「キミハ「カバ」ダネ」
アルパカの知り合いでジャパリカフェの常連のカバだ。
そう言われて気付いたのか、カバが思い出したように言う。
「そうよ。あなた、もしかしてアルパカさんのところのボスかしら?」
「ソウダヨ。ヨロシクネ」
「買うものは…」
かごの中身を見て、カバが不思議そうに尋ねる。
「あなたがこれを食べるんですの?」
「チガウヨ、ギンギツネニタノマレタンダ」
「あら、あのギンギツネが…」
ビールを手に取って、こんな子だったんですのね…と言いたげに見ている。
「こんなことしている場合じゃなかったですわね」
カバがささっと商品を通す。
「お会計は、855Jですわよ」
「クレジットカードデモイイカナ」
「大丈夫よ、でも、どうやるんですの?」
ラッキービーストがぴょこんと台の上に飛び乗った。
「スキャナーヲココニオイテネ」
言われた通り、カバがラッキービーストの目の前にスキャナーを置くと、バッヂが光り、勝手に支払いができてしまった。
「すごいわですね…」
カバも仕事を忘れて感心している。
「レシートヲ、イイカナ」
「ああ、ごめんなさいね」
慌てて出てきたレシートを手渡す。
「ありがとうございました。気をつけるんですのよ」
「ダイジョウブダヨ。アリガトウ」
ラッキービーストはささっと袋に商品を詰め、スーパーを後にした。
スーパーから家に向かう途中に一件のおしゃれなアパート「ありつ荘」がある。
ラッキービーストが行きと同じように横を歩いていると、誰かがアパートから出てきた。
「先生!あの話の続きはどうなるんですか!」
「まあまあ、そう慌てないでよ。ここじゃ、誰かに聞かれちゃうかも…って、あれ?」
先生と呼ばれた方がラッキービーストを見つけた。
「あれは、ラッキービーストじゃないか!」
呼ばれたことに気付いたラッキービーストが2人の方にやってきて、目の前に立ち止まった。
ピロピロピロピロ…
「ケンサクチュウ、ケンサクチュウ…」
「な、何が始まるんですか、先生!」
「まあまあ、黙って見てなよ」
落ち着いている先生に対し、もう1人は腰が引けている。
ピコーン
「キミハ「タイリクオオカミ」ダネ。ソシテキミハ「アミメキリン」ダネ。ボクハ、ラッキービーストノ「ボス」ダヨ。ヨロシクネ」
長女で漫画家のタイリクオオカミと、そのアシスタントでギンギツネの高校の同級生だったアミメキリンだ。オオカミは感心したようにつぶやく。
「有能だね」
それに対してアミメキリンは、驚いて口が開いている。
「な、何故わかったの!」
「これはこういうロボットなんだよ、アミメ君。見たとおり、買い物なんかもやってくれる、便利なロボットさ」
冷静なオオカミのおかげか、アミメキリンも落ち着きを取り戻した。
「すごいロボットですね、先生。しかし、何故先生は知ってるのですか?」
「私が実家にプレゼントしたからだよ」
「おお、そうだったのですか!ところで、このスーパーの袋には何が」
アミメキリンがラッキービーストの持っている袋を開けると…
「これは、ビール!?」
「なんでビールが?」
「ポテチと1人分の弁当とサラダもありますよ、先生!」
「1人分の弁当、サラダ、ポテトチップス、ビール…」
唐突に推理コーナーが始まった。オオカミが推理を始め、その横でアミメキリンも考え込んでいる。
「平日の昼間から家にいられるのは…」
「わかったわ!」
アミメキリンが突然声をあげる。
「キタキツネよ!」
「チガウヨ、チガウヨ」
アミメキリンの推理は一瞬で否定されてしまった。
「ううっ…」
「きっとギンギツネだね?」
「ソウダヨ、ソウダヨ」
「流石ですね先生!」
さっきの迷推理はどうしたのか、アミメキリンが嬉しそうにしている。
「1人で昼間から呑むのか…」
妹のことだからか、オオカミはちょっと心配そうにうつむいている。少し考え事をしているようだ。すぐに思い立ったように顔を上げた。
「そうだ、アミメ君。今から時間はあるかい?」
「ありますが、何をするんですか、先生」
「ちょっとお楽しみといこうじゃないか。ちょうど原稿も終わったんだ。せっかくだからアリツさんも呼んでさ。いいだろう?」
アミメキリンは、オオカミが何をしたいのかすぐにわかったようだ。笑顔で答える。
「わかりました、先生!」
「それじゃあボス、一度スーパーに戻ろう。アミメ君はアリツさんを呼んできてくれないか」
「ボス、遅いわね…」
ラッキービーストが家を出てから、かれこれ1時間半近く経っている。
ギンギツネがもう一度電話してみようか悩んでいる時、玄関が開いた。
「タダイマ、タダイマ」
待ちくたびれたギンギツネが嬉しそうに玄関に行く。
「ボス、遅かったじゃ…」
リビングから玄関に続くドアを開けると、玄関にラッキービースト以外にもビニール袋を持った人影が見えた。ギンギツネはすぐに誰かわかった。
「お姉ちゃん…!それに、アミメキリンと、アリツさん!?」
笑いながら、3人がラッキービーストの後ろに立っている。突然の出来事でギンギツネは驚きを隠せ切れていない。
「久しぶりだね、ギンギツネ」
「お姉ちゃん、来るなら言ってよ!」
久々に会ったせいなのか、ギンギツネは嬉し涙をうかべている。
「いい姉妹ね…」
アミメキリンはそれを幸せそうに眺めているが、「ありつ荘」の大家であるアリツカゲラは、それよりも家が気になって仕方ないようだ。
「わぁぁ、やっぱり何度来てもいい家ですよねぇ。あの辺とか参考になりそうですよねぇ」
そんなアリツカゲラはお構い無しに、オオカミが事の顛末を説明する。
「…というわけさ。だからスーパーに行ってお酒とおつまみとを買ってきたんだ、4人分ね」
「お姉ちゃん、たまには気が利くじゃない」
「ふふっ、いい姉じゃないか。」
その一言にギンギツネは不満気だったが、オオカミは一つ身震いして続ける。
「それより、早く始めよう。体が冷え切ってるよ」
「ごめんなさい、外寒かったわよね」
ようやく外が雨であることを思い出したギンギツネが、慌ててリビングに招き入れる。
ドサッ、とテーブルに袋を置いて、全員がこたつに収まった。
「さあ、女子会といこうじゃないか」
この後、久々に会うメンバーだったせいで酒が進み、結局酔いつぶれてアルパカに怒られたのは言うまでもない。
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