続・色々な色 ①赤い食品には虫が使われている!?

 ※文末に今回の「まとめ」を掲載しています。

  読みにくい文章に耐えられない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


亡霊葬稿ゴーストライター 紫文しぶん』で紹介した通り、ゴマダラカミキリは樹木を食べる害虫です。

 特に幹の中を食い荒らす幼虫は、木を枯らしてしまうことも珍しくありません。

 しかも木の中に棲んでいることが災いし、駆除しづらいと言うおまけまで付いています。


 カミキリムシと言えば、男子には人気の昆虫です。

 さすがにカブトムシやクワガタムシほどのプレミア感はありませんが、三番手、四番手くらいの人気はあるのではないでしょうか。しかしガーデニングの専門書では、見付け次第殺すようにアドバイスしています。


 立場によって認識が変わるのは、彼等だけではありません。


 可愛らしいモンシロチョウは、老若男女に愛されています。

 しかしキャベツ農家の人々にとっては、疑いようのない害虫です。

 万が一、卵を産み付けられようものなら、幼虫に大事な商品を食べられてしまいます。


 ややこしいのはテントウムシで、アブラムシやダニを食べるものは農家の味方です。

 一方、植物の葉を食べる種類は、害虫として扱われています。


 ちなみによく知られた赤いテントウムシは、農家に愛されるほうです。

 成虫は勿論もちろん、幼虫の頃からアブラムシを補食します。


 あまり知られていませんが、彼等ナナホシテントウは毒を持つ昆虫です。

 鮮やかな赤色は、捕食者への警告だと考えられています。


 彼等の餌食になるアブラムシは、代表的な害虫です。


 アブラムシはカメムシの仲間で、植物の汁をエサにしています。

 彼等に栄養を奪われた植物は、生長が悪くなってしまいます。また植物から別の植物に移動することで、伝染性の病気を広める場合もあるようです。


 更に彼等が排泄する液体には、多くの糖分が含まれています。

 アリがこの甘い液体をもらう代わりに、彼等を守っているのは有名な話です。


 招き寄せるのがアリだけなら、実害はないでしょう。

 しかし彼等の排泄物は、植物を病気にするカビも繁殖させてしまいます。


 何より彼等は、見た目がいいとは言えない昆虫です。

 美しい花も、アブラムシがいるだけで台無しになってしまいます。


 アブラムシほどメジャーではありませんが、カメムシの仲間にはカイガラムシと言う害虫も存在します。


 彼等はほぼ世界中に棲息する昆虫で、2017年現在、7000種ほど確認されています。

 その内、日本国内に棲むのは、400種程度だそうです。


 手入れのされていない木には、ほぼ確実に彼等が付着しています。

 誰もが一度は見たことがあると言っても、大袈裟ではないでしょう。


 とは言え、枝や幹に付いた姿は、小さなイボのようです。しかも、ほとんどのカイガラムシは、触っても全く動きません。特別昆虫に詳しい方でもない限り、正体に気付くことはないでしょう。


 極めて怠惰たいだな彼等ですが、孵化したばかりの幼虫は歩くことが出来ます。ところが、成長する内に脚や触角、目と言った器官が退化し、動けなくなってしまいます。例外的に一部の種は、成長した後も動くことが可能です。


 ただし、これらはメスだけに適用される話です。


 カイガラムシはオスとメスで、成虫の姿が異なる昆虫です。

 全く動けないメスに対し、オスは羽虫のような姿に成長します。当然、自由に飛び回ることが出来ますが、寿命は二、三日しかありません。


 カイガラムシの中には、メスが羽虫になる種も存在します。

 奇妙な話ですが、オスが見付かっていない種も少なくありません。


 どうやら一部のカイガラムシは、メスだけでも繁殖出来るようです。実際、同じカメムシの仲間であるアブラムシは、メスだけでも増えることが出来ます。


 通常、昆虫の身体は頭、胸、腹に分かれていますが、カイガラムシのメスは絵に描いたような寸胴ずんどうです。またメスや幼虫はろうじょうの物質を分泌し、身体を覆っています。


 エサは草木の汁で、やはり植物の成長に悪影響を及ぼします。

 排泄する液体に糖分が含まれているのも、アブラムシと一緒です。

 放置しておくと、カビが繁殖する原因になります。


 特徴を聞く限り、彼等は典型的な害虫です。

 しかし実際は、意外なところで人類の役に立っています。


 赤い色素「コチニール」は、彼等から作られるものです。


 材料になるのは、コチニールカイガラムシと呼ばれるしゅです。主に中南米やペルーを住処すみかにする昆虫で、ウチワサボテンに寄生して生活しています。


 コチニールは乾燥させたメスのカイガラムシから、お湯やエタノールで抽出ちゅうしゅつしたものです。用途は幅広く、染料としては勿論もちろん、食品にも使われています。


「二度とコチニールを使った食べ物は食べない!」と、虫嫌いな方は固く決意したかも知れません。しかし現代の日本で、コチニールを口にしないことは不可能です。


 ハムにかまぼこ、ジュースにアイスキャンディー、ジャムと、スーパーやコンビニはコチニールを使った食品で溢れかえっています。恐らくコチニールを一日食べないようにするだけでも、相当苦労するはずです。


 コチニールカイガラムシの棲むメキシコでは、古くからコチニールを利用してきました。


 既にアステカやマヤの時代には、コチニールを染料として使っていたと言います。かつてペルーを支配していたインカ帝国の人々も、コチニールを染め物に利用していました。


 我々日本人とコチニールの付き合いも、思いのほか古いようです。


 江戸幕府には、コチニールで染めた織物が献上されています。

 染料以外にも、画材として使われることもあったようです。


 長くなったので、今回はここまで。


 次回はまた別の着色料に、そして別のカイガラムシに目を向けたいと思います。

 そう、着色料の原料になるカイガラムシは、一種類ではないのです。

 しかも彼等は、人類の文化に多大な貢献をしています。


 ◇今回のまとめ◇

 ☆テントウムシには、肉食の種と草食の種がいる。有名な赤いテントウムシは、前者に該当する。


 ☆テントウムシには毒がある。赤い色は捕食者への警告。


 ☆アブラムシやカイガラムシはカメムシの仲間。


 ☆カイガラムシは、7000種ほど確認されている。その内、国内に棲息するのは400種程度。


 ☆カイガラムシの一部やアブラムシは、メスだけでも繁殖出来る。


 ☆赤い着色料「コチニール」は、南米に棲むコチニールカイガラムシから作られる。


 ☆アステカやマヤ、インカ文明の人々は、コチニールを染料として利用していた。


 ☆江戸幕府には、コチニールで染めた織物が献上されている。


 参考資料

 図解入門 よくわかる最新食品添加物の基本と仕組み

 松浦寿喜著 (株)秀和システム刊


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊


 マチュピチュ「発見」100年

 インカ帝国展 公式図録

 TBSテレビ刊


 バラ大百科 選ぶ、育てる、咲かせる

 上田善弘 河合伸志監修 NHK出版刊


 カイガラムシが熱帯林を救う

 渡辺弘之著 東海大学出版刊


 植物の病気と害虫 防ぎ方・なおし方

 草間祐輔著 (株)主婦の友社刊

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