アリ得ないほど強いアリ ⑤アリを飼う植物たち

 ※文末に今回の「まとめ」を掲載しています。

  読みにくい文章に耐えられない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


 アリの秘密に迫る今回のシリーズ。

 前回はアリと生活を共にする昆虫を紹介しました。


 強いアリを頼っているのは、昆虫だけではありません。

 植物の世界にも、彼等を利用しているものたちが存在します。


 中米に生えるアリアカシアも、アリを活用する植物です。


 アカシアはマメの植物で、2017年現在、600種ほど発見されています。

 主に暖かい地域に生える木で、多くのしゅがトゲを持っています。


 アリアカシアのトゲは特に大きく、長さは5㌢以上もあります。

 そして彼等はこのトゲに、アカシアアリと言うアリを飼っています。


 両者の奇妙な関係は、女王アリがアリアカシアに飛来するところから始まります。


 彼女はトゲに穴をけ、内部にある空洞へ潜り込みます。

 続いて産卵を行い、働きアリの数を増やしていくそうです。


 仲間が多くなり、「部屋」が手狭になると、アリは別のトゲにも移り住んでいきます。やがてアカシアアリは木全体に広がり、アリアカシアはそれ自体がアリの巣になります。


 勿論もちろん、家主のアリアカシアと店子たなこのアリには、それぞれメリットがあります。


 多くの植物にとって、アリは好ましいとは言えない存在です。

 ヒアリのように植物を食べるアリ(正確には雑食ですが)は、葉や茎を傷付けます。

 病気の原因となるアブラムシを守るのも、由々しき問題です。


 とは言え、単純に害虫と言うことも出来ません。


 肉食のアリは、植物を食べる虫を駆除してくれます。

 殺虫剤が出来る以前は、害虫駆除にも利用されていたようです。


 アカシアアリもまた、アリアカシアに来る害虫を補食します。

 更には家主の生育が悪くならないように、周辺の植物を刈り取る活動まで行っています。草むしりの度に文句を言うのび太くんには、彼等を見習って欲しいところです。


 アリアカシアはアリの働きに、甘い蜜でこたえます。アリアカシアには「花外かがい蜜腺みつせん」と呼ばれる器官があり、葉や茎からも蜜を出すことが出来ます。


 咲く期間の限られた花とは異なり、花外かがい蜜腺みつせんは一年中蜜を分泌します。アリアカシアに棲んでいる限り、アカシアアリが食事に困ることはありません。


 アリアカシアのようにアリを棲まわせている植物は、「アリ植物しょくぶつ」と呼ばれます。


 残念ながら日本では見付かっていませんが、アリ植物しょくぶつは世界中の熱帯に分布しています。アカネの仲間からコショウの仲間まで、顔ぶれも実に多彩です。


 東南アジアに生えるアリノトリデも、アリ植物しょくぶつの一種です。


 彼等はアカネの仲間で、他の木の枝や幹にくっついて生活しています。

 一見すると他の木から栄養を奪っているようですが、彼等は寄生植物ではありません。

 彼等に栄養を提供しているのは、体内のアリです。


 アリノトリデの茎は、底の部分がボール状に膨らんでいます。

 大きさは最大60㌢程度で、小さなトゲが生えているのが特徴です。


 ボールの中には迷路のような空洞があり、アリが暮らしています。

 迷路はまさに天然のアリの巣で、部屋のように大きな空間も兼ね備えています。


 アリの出した食べ残しやフンは、アリノトリデの栄養になります。

 アリの側としても、住処すみかを提供してくれるアリノトリデは貴重な存在です。


 同じく東南アジアに生えるアリノスシダも、内部にアリを棲まわせています。


 彼等はシダ植物の一種で、大きな木にくっついて生活しています。

 やはり茎の下の部分が膨らんでいますが、トゲはありません。

 またボール状ではなく、幾つもの玉を合体させたような形をしています。


 正直、馴染なじみがあるとは言えない植物ですが、国内でも買うことが可能です(ヤフオクで売ってました)。ただし日本で育てても、アリが棲み着くことはありません。


 アリノトリデ同様、茎の内部は迷路状で、アリの巣になっています。

 勿論もちろん、アリの出したフンや食べ残しは、アリノスシダの栄養になります。


 さて5回に渡ってお届けした「アリ」シリーズ、お楽しみ頂けたでしょうか。


 今回は紹介しきれませんでしたが、世界にはまだまだ面白いアリがいます。

 機会があればまた取り上げたいと思いますので、期待せずにお待ち下さい。


 ◇今回のまとめ◇

 ☆中米に生えるアリアカシアは、トゲの中にアリを棲まわせている。


 ☆アリを棲まわせている植物は、「アリ植物しょくぶつ」と呼ばれる。


 ☆東南アジアには、アリノトリデと言うアリ植物しょくぶつが生えている。


 ☆アリノトリデの内部は迷路状で、アリが暮らしている。彼等の栄養になるのは、アリのフンや食べ残し。


 ☆アリ植物しょくぶつは熱帯にしか生えていない。反面、アカネの仲間からコショウの仲間まで、バリエーションは豊富。


 ☆東南アジアには、アリノスシダと言うアリ植物しょくぶつも生えている。こちらも内部がアリの巣状で、フンや食べ残しを栄養にしている。


 参考文献

 アリの生態 ふしぎの見聞録

 ―60年の研究が解き明かすアリの素顔―

 久保田政雄著 (株)技術評論社刊


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊


 トンデモない生き物たち

 白石拓著 宝島社刊


 おどろきの植物 不可思議プランツ図鑑

 食虫植物、寄生植物、温室植物、アリ植物、多肉植物

 木谷美咲著 (株)誠文堂新光社刊

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