アリ得ないほど強いアリ ④恩を仇で返すチョウ

 ※文末に今回の「まとめ」を掲載しています。

  読みにくい文章に耐えられない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


 アリに焦点を当てた今回のシリーズ。

 前々回、そして前回は話題のヒアリを取り上げました。


 確かにヒアリは恐ろしいですが、強いのは彼等だけではありません。

 第1回目から度々言っている通り、アリは基本的に強力な昆虫です。


 多くの生き物は、アリを恐れています。

 一方で、彼等の強さにあやかろうとするものも少なくありません。


 以前『亡霊葬稿ゴーストライターダイホーン』で紹介したアリグモは、アリに擬態しています。


 彼等はハエトリグモの仲間ですが、姿形はアリそのものです。

 よほどクモに詳しくない方でもない限り、正体を見抜くことは出来ないでしょう。


 事実、彼等は日本各地に棲んでいますが、知名度は高くありません。モノマネを極めすぎたせいで、クモだと気付いてもらえないようです。庭先でアリを見付けた時は、注意深く観察してみるといいかも知れません。


 アリグモがアリを真似まねているのは、勿論もちろん、狩りのためです。

 極めたモノマネでアリに仲間と思わせ、まんまと近寄って来た獲物を捕食します。


 ――と言うのは、大嘘です。


 アリグモがアリを真似まねている理由には諸説あり、狩りのためではないとは言い切れません。しかし最近は、「強いアリに擬態ぎたいし、身を守っている」と言う説が主流になっています。


 アリグモの他にも、カメムシやカマキリの幼虫がアリに擬態ぎたいしています。

 尚、擬態ぎたいに関しては、『明日自慢出来る(かも知れない)話ZZ』の『蝶サイコー!』シリーズで詳しく解説しています。「ベイツがた擬態ぎたい」や「ミューラーがた擬態ぎたい」と言った単語に興味のある方は、ぜひ目を通してみて下さい。

 ※アドレスをクリックすると、該当する話に飛びます。

 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054884146931/episodes/1177354054884211909


 自然界には、アリをボディーガードにしている昆虫も少なくありません。


 前回紹介したアブラムシも、甘い汁と引き替えにアリを雇っています。

 同じくカメムシの仲間であるカイガラムシも、同様の習性を持つそうです。

 ちなみにカイガラムシに付いては、今後の回で詳しく解説します。

 今回一番面白いと思うので、どうかご期待下さい。


 昆虫の中には、アリの巣で生活するものも存在します。

 極めてマイナーな昆虫ですが、アリヅカコオロギもその一つです。


 彼等は日本最小のコオロギで、体長は2、3㍉ほどしかありません。またはねはなく、鳴くことも出来ません。「コオロギ」と名乗っていますが、見た目はノミのようです。


 彼等は普段、家主の食べ残しやアリの死骸を口にしています。基本、全く役に立たない居候いそうろうですが、多少は巣を綺麗にしているかも知れません。


 よく見掛けるシジミチョウにも、アリの巣で生活するものがいます。


 身体こそ小さなシジミチョウですが、チョウの中では巨大なグループです。

 以前紹介した通り、2017年現在、チョウは2万種ほど確認されています。その内の約6000種はシジミチョウで、日本には80種ほどが棲息しています。尚、チョウに関しては、『蝶サイコー!』シリーズで詳しく解説しています。

 ※アドレスをクリックすると、該当する話に飛びます。

 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054884146931/episodes/1177354054884205680


 アリと暮らしているのは、クロシジミの幼虫です。


 彼等は2㌢前後の小さなチョウで、本州や九州に棲息しています。

 ただ、雑木林や高原を住処すみかにするため、都会で見るのは難しいでしょう。


 彼等と共同生活を営むのは、クロオオアリと言うアリです。


 クロオオアリは日本最大のアリで、体長は1㌢前後です。肩書きこそ凄い昆虫ですが、田舎から都会までどこにでも棲息しています。名前こそ知らなくても、一度は必ず見たことがあるはずです。


 孵化ふかしたばかりのクロシジミは、アブラムシの甘露かんろ(甘い排泄物)を吸って生活しています。しかしある程度育つと、クロオオアリに運ばれ、彼等の巣に移住します。


 クロシジミの幼虫は身体から甘い蜜を分泌し、クロオオアリに与えます。

 代わりにクロオオアリはエサを与え、クロシジミを育てるそうです。


 クロシジミの成虫はすくすくと成長し、アリの巣の中でサナギになります。そして7月から8月頃に羽化し、アリの巣から飛び立ちます。地中からチョウが這い出てくる様子は、ミステリアスとしか言いようがありません。


 アリがクロシジミの幼虫を食べないのは、勿論もちろん、甘い蜜を分泌するためです。

 またクロシジミはアリと同じ化学物質を出し、仲間だと思わせていると言います。その証拠にサナギは蜜を出しませんが、アリに食べられることはありません。


 ただし、見逃されているのは成虫になるまでです。


 羽化した瞬間、クロシジミはアリの攻撃を受けるようになります。一目散に巣の外へ逃げなければ、命はありません。里親との別れにしては、なんとも情緒のない話です。


  アリは身体から発する化学物質で、相手が仲間かどうか判断しています。

 化学物質の成分は、アリの種類によって様々です。どんなに姿が似ていても、違う種類のアリを仲間だと思うことはありません。


 更に同じ種類でも、化学物質の成分比は微妙に異なります。

 そのため、同じ種類のアリでも、別の巣に入れると攻撃を受けてしまいます。


 アリと暮らすチョウは、クロシジミだけではありません。他にもゴマシジミやオオゴマシジミの幼虫が、アリの巣で生活しています。とは言え、彼等の場合はクロシジミと少し毛色が違うようです。


 ゴマシジミは2㌢前後のチョウで、日本各地に棲息しています。

 オオゴマシジミも大きさは同じくらいで、北海道や本州に棲息しています。ただし、標高の高い場所に住むため、滅多めったに見ることは出来ません。


 ゴマシジミもオオゴマシジミも、孵化ふかしたばかりの幼虫は植物を食べます。

 そしてある程度育つと、アリに運ばれ、彼等の巣に移り住みます。


 流れは全く同じですが、家主は一緒ではありません。ゴマシジミの世話をするのはシワクシケアリで、オオゴマシジミを養うのはヤマアシナガアリです。


 アリはやはり甘い蜜の代わりに、ゴマシジミやオオゴマシジミの幼虫を守ります。

 一見、持ちつ持たれつの関係に思えますが、問題は幼虫のエサです。


 実は彼等は肉食で、アリの卵や幼虫を食べてしまいます。

 恩を仇で返す彼等に比べれば、アリヅカコオロギのほうがまだマシかも知れません。


 長くなったので、今回はここまで。

 次回は引き続き、アリを利用する生物を紹介します。


 ◇今回のまとめ◇

 ☆アリに擬態ぎたいしているクモがいる。


 ☆カメムシやカマキリの幼虫も、アリに擬態ぎたいしている。


 ☆アリヅカコオロギは、アリの巣で暮らしている。


 ☆シジミチョウにも、アリと同居している種類がいる。


 ☆シジミチョウは、世界に6000種ほど棲息している。その内、日本で暮らしているのは80種程度。


 ☆アリと暮らすのは、クロシジミの幼虫。家主のクロオオアリは、日本最大のアリ。


 ☆アリは身体から分泌する化学物質で、仲間を識別している。クロシジミの幼虫が攻撃を受けないのは、クロオオアリと同じ化学物質を分泌しているため。


 ☆ゴマシジミやオオゴマシジミの幼虫も、アリの巣で生活している。しかも、この二種類はアリの卵や幼虫を食べてしまう。


 参考資料

 アリの生態 ふしぎの見聞録

 ―60年の研究が解き明かすアリの素顔―

 久保田政雄著 (株)技術評論社刊


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊


 トンデモない生き物たち

 白石拓著 宝島社刊


 ときめくチョウ図鑑

 今森光彦著 (株)山と渓谷社刊


 新装版 蝶

 猪又敏男 松本克臣著 (株)山と渓谷社刊


 海野和男 昆虫擬態の観察日記

 海野和男著 (株)技術評論社刊

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