アリ得ないほど強いアリ ③ヒアリの首を落とすハエ

 ※文末に今回の「まとめ」を掲載しています。

  読みにくい文章に耐えられない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


 アリの恐ろしさを紹介している今回のシリーズ。

 第2回目からは、話題のヒアリに目を向けています。


 前回紹介したように、彼等は世界中で根絶すべき対象になっています。 


 各国がヒアリを駆除しようとする理由は、幾つかあります。

 第一に、彼等は毒を持つ生き物です。

 凶暴な上に数も多く、人間が被害にう可能性は低くありません。


 それ以上に懸念けねんされるのが、生態系への悪影響です。


 外国から侵入した生物は、多くの場合、在来ざいらいしゅのエサや住処すみかを奪ってしまいます。

 特にヒアリは攻撃的で、在来ざいらいしゅのアリや昆虫に容赦なく攻撃を仕掛けます。

 彼等をのさばらせておく限り、在来ざいらいしゅは数を減らしていく一方です。


 経済への被害も、見過ごすことの出来ない問題です。


 ヒアリは雑食で、農作物を食い荒らします。

 しかも彼等は、地中に巣を作る昆虫です。

 トンネルを掘り進めている内に、植物の根を傷付けることは少なくありません。


 彼等の巣は、複数のそれがトンネルで繋がっています。

 一つの巣には、およそ25万匹のヒアリが住めるそうです。


 ヒアリは他のアリのように、アブラムシを守る習性まで持っています。


 アブラムシはカメムシの仲間で、植物の汁を吸う害虫です。

 彼等に栄養を奪われた植物は、生長が悪くなってしまいます。

 更には植物から植物に移動することで、伝染病を媒介ばいかいするケースもあるようです。


 彼等の尻からは、「甘露かんろ」と呼ばれる液体が排泄はいせつされます。

 甘露かんろは多くの糖分を含む液体で、アリの大好物です。

 アリはこの液体を分けてもらう代わりに、アブラムシのボディーガードを務めています。


 甘い液体が大好きなのは、アリだけではありません。

 甘露かんろに含まれる糖分は、植物を病気にするカビも繁殖させてしまいます。


 カビにおかされた植物は、葉や果実が黒く汚れてしまいます。スス状のそれは光合成をさまたげ、植物の生長を阻害そがいします。見た目がよくないのも、売り物としては問題です。


 ヒアリが侵入して以降、アメリカ南部では農作物の生産量が減少しました。品質にも問題が生じ、農家の方を悩ませています。ヒアリが経済に与える打撃は、日本円にして年間数億円にも及ぶそうです。


 今やヒアリは、世界中に悪名を轟かせています。

 しかし南米で暮らしていた頃は、アリの一種としか見なされていませんでした。


 南米にはヒアリの他にも、グンタイアリやアルゼンチンアリと言った強力なアリが棲息しています。また天敵の存在もあり、ヒアリだけが増えすぎることはありませんでした。


 アメリカではこの「天敵」を使い、彼等を駆除する実験を進めています。


 恐ろしいヒアリを襲うのは、獰猛なクモやカマキリでしょうか?

 いいえ、彼等よりずっと小さなハエです。


 ノミバエと呼ばれるそれは、アマゾンに棲息しています。

 身体は非常に小さく、ヒアリの頭ほどしかありません。

 反面、姿形は普通のハエで、特に変わったところはないように思えます。


 その実、彼等は恐ろしく奇っ怪な習性を持っています。エイリアンも真っ青な惨劇を披露することから、「ゾンビバエ」と言う異名まで持つ始末です。


 ヒアリを見付けたノミバエは、執拗に獲物の周囲を飛び交います。そしてヒアリが隙を見せた瞬間、尾に付いたトゲを突き立て、卵を産み付けてしまいます。


 一連の動作は非常に素早く、ヒアリが反応した時には後の祭りです。

 また一匹のノミバエは、体内に約200個の卵を持っています。

 一分もあれば、数匹のヒアリに卵を産み付けることが可能です。


 ヒアリの体内で孵化ふかした幼虫は、彼女たちの体液を吸って成長します。

 同時にヒアリの体内を移動し、およそ二週間掛けて宿主の頭に移動します。


 この間、ヒアリは普段と同じように活動します。外側から見ても、ノミバエに寄生されていることは判りません。しかし彼等には、金田一きんだいちシリーズの被害者的な運命が待ち構えています。


 ヒアリの頭に到達した幼虫は、宿主の脳を食べ尽くします。更には酵素こうそを分泌し、ヒアリの頭を切断してしまいます。ヒアリの頭がポトンと落ちる様子は、ギロチンとしか言いようがありません。


 地面に転がった頭からは、ノミバエの成虫が這い出てきます。

 アリの頭から脱出するハエには、引田ひきた天功てんこうも白旗をげることでしょう。空っぽになった頭が散乱する様子は、まさに地獄絵図です。


 前回紹介しましたが、ヒアリは20世紀の初めにアメリカへやって来ました。

 アマゾンに棲息するノミバエとは、100年近く遭遇していないはずです。


 しかし北米に棲むヒアリは、未だにノミバエを敵と認識しています。

 その証拠にノミバエと遭遇したヒアリは、仲間に警戒を促す匂いを発します。


 何しろ、相手は刺された瞬間、首ちょんぱが確定する化け物です。遺伝子に恐怖が刻み付けられていても、無理はないでしょう。


 幸いノミバエが卵を産むのは、ヒアリだけです。

 ヒアリが全滅すれば、産卵する場所を失った彼等も姿を消します。そのため、本来棲息しない土地にばらまいても、生態系に悪影響を及ぼすことはないようです。


 このままヒアリが増え続ければ、近い将来、日本にもノミバエが持ち込まれるかも知れません。ヒアリに刺されるのはごめんですが、彼等の頭が落ちるところは見てみたいかも(笑)。


 ◇今回のまとめ◇

 ☆ヒアリには、アブラムシを守る習性がある。


 ☆ヒアリには、ノミバエと言う天敵がいる。


 ☆ノミバエは、ヒアリの体内に卵を産み付ける。幼虫はヒアリの体内で孵化ふかし、彼等の体液を吸って成長する。


 ☆ノミバエの幼虫は、二週間掛けてヒアリの頭に移動する。それから宿主の脳を食べ尽くし、ヒアリの頭を切断してしまう。


 ☆地面に転がった頭からは、ノミバエの成虫が出て来る。


 参考資料

 植物の病気と害虫 防ぎ方・なおし方

 草間祐輔著 (株)主婦の友社刊


 アリの生態 ふしぎの見聞録

 ―60年の研究が解き明かすアリの素顔―

 久保田政雄著 (株)技術評論社刊


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊


 トンデモない生き物たち

 白石拓著 宝島社刊


 地球ドラマチック 

「増殖中! アリ 大地を支配! 毒針の脅威」

 放送局:NHKEテレ 放送日:2017年7月22日

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