蝶サイコー! ①チョウとガの違いとは?

 ※文末にまとめを掲載しています。

  読みにくい文章に耐えられない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


亡霊葬稿ゴーストライター 紫文しぶん』に登場する〈紫文しぶん〉は、チョウをモチーフにしています。世界には約2万種のチョウが棲息していますが、〈紫文しぶん〉のモチーフになったのはナミアゲハです。


 ナミアゲハはアゲハチョウの仲間で、多くの場合、単に「アゲハチョウ」と呼ばれます。

 都会から山野まで日本各地に棲息する昆虫で、一年に数回は必ず見掛ける存在です。


 軽やかに羽ばたく姿は美しく、老若男女に愛されています。反面、幼虫がミカンの葉を食べることから、害虫扱いされることも少なくありません。


 はねを開いた時の大きさは10㌢前後で、日常的に見掛けるチョウとしては大きな部類に入ります。はねの大部分は黄色と黒に塗り分けられていますが、尾のほうには青と赤が散りばめられています。


 2017年現在、アゲハチョウの仲間は約600種ほど確認されています。

 ナミアゲハは勿論もちろん、クロアゲハやアオスジアゲハもよく見掛ける存在です。


 身近なせいで意識しづらいですが、アゲハチョウは大柄なチョウの多いグループです。中でもパプアニューギニアに棲むアレキサンドラトリバネアゲハは、世界最大のチョウとして知られています。


 チョウはガと共に、チョウもくに分類されています。チョウもく鱗翅目りんしもくと呼ばれることもあるグループで、その名の通り、はね鱗粉りんぷんに覆われているのが特徴です。


 鱗粉りんぷんは体毛が変化したもので、チョウの模様や色を形作っています。人間の目には粉にしか見えませんが、電子顕微鏡を覗くと、ちゃんとうろこじょうになっているそうです。


 2017年現在、鱗翅目りんしもくの昆虫は、約16万5000種ほど確認されています。とは言え、先ほど書いたようにチョウは2万種ほどで、大半をガが占めています。


 日本に棲むチョウは240種程度ですが、ガはおよそ6000種も確認されています。これだけ差があるなら、「ガと言う昆虫の中に、チョウと言うグループがいる」と言っても過言ではないでしょう。


 実際、街で見掛けるチョウは、ある程度種類が限られています。一方、ガの顔ぶれは非常に多彩です。夜の自販機や街灯には、わけの判らないガがまっていることも珍しくありません。


 人々に愛されるチョウとは対照的に、ガは毛嫌いされる昆虫です。


 家の中にアゲハチョウが入ってきても、殺虫剤を掛ける人はいないでしょう。

 しかし同じサイズのガが侵入してきたら、即キンチョールです。


 チョウのアクセサリーはよく見掛けますが、ガのネックレスやブローチはほとんどありません。姿形はほぼ同じなのに、なんとも不思議な話です。


 しかしどんなに姿形が似ていても、ガとチョウは区別されています。

 常識的に考えるなら、両者には何か異なる点があるはずです。そしてガとチョウの違いを聞かれたら、多くの方は4つの特徴をげるのではないでしょうか。


 ①チョウは派手だが、ガは地味な色をしている。

 ②チョウは昼間活動するが、ガは夜行性。

 ③チョウははねを閉じてまる。ガははねを開いてまる。

 ④チョウの触角は直線で、先端が膨らんでいる。一方、ガの触角は糸状か、やけにモサモサしている。


 一般的なイメージにのっとるなら、4つの説明は正しいように思えます。

 しかし詳しく調べてみると、どれも根拠に乏しいようです。


 まず①は、単なる思い込みに過ぎません。


 美しいはずのチョウにも、地味なものは存在します。

 日本の国蝶こくちょうであるオオムラサキも、メスは非常に地味です。

 またジャノメチョウの仲間は、おおむね枯葉のような色をしています。


 彼等と比べれば、ガのほうがよっぽど色鮮やかです。


 スズメガのオオスカシバは、華やかな黄色です。

 花の蜜を吸いに来たところを、ハチに間違えられることも少なくありません。


 マダガスカルに棲息するニシキオオツバメガに至っては、鱗翅目りんしもくで最も美しいと言われることさえあります。実際、カラフルに色分けされたはねは、ステンドグラスを彷彿ほうふつとさせます。


 ②もまた、正しいとは言えません。


 先程紹介したオオスカシバやニシキオオツバメガは、昼間に活動します。

 逆に中南米に棲息するシャクガモドキは、夜行性のチョウです。


 ガとチョウの双方に当てはまるのは、③も同じです。


 実のところ、チョウははねを開いたまままることが出来ます。

 現に昆虫図鑑には、はねを開いたまままるチョウが多数掲載されています。

 対するガにも、はねを閉じてまるものが確認されています。


 ④に関しても、決定的な違いとは言えません。


 カストニアのガは、チョウにそっくりな触角を持っています。またマダラガに分類されるガも、触角はチョウに瓜二つです。ただし彼等は外国にしか棲んでいないため、日本のチョウとガは触角で区別出来ます。


 早い話、チョウとガに決定的な違いはありません。


 勿論もちろん、多くのチョウやガは、直感的に区別することが可能です。

 自販機にまるガを見て、チョウと思う人はいないでしょう。

 反面、こうならチョウ、こうならガと線を引くのは、生物学的に無理があると言います。


 この問題には、ガの数が多すぎることも関係しています。


 冒頭で語った通り、ガの種類はチョウの何倍にも及びます。

 当然、外見や生態もバリエーション豊かで、「これがガだ!」と決めるのは難しいところがあります。そもそもガの定義があやふやでは、チョウと比較することなど出来ません。


 日本語ではガとチョウを呼び分けていますが、両者を区別しない言語も珍しくありません。代表格がフランス語で、ガもチョウも「papillonパピヨン」と呼んでいます。


 ◇今回のまとめ◇

 ☆アゲハチョウの仲間は、世界中に600種ほど存在する。


 ☆世界最大のチョウは、アレキサンドラトリバネアゲハ。


 ☆チョウやガの仲間は、約17万種確認されている。


 ☆ただしチョウは2万種程度で、ほとんどがガ。


 ☆日本には約240種のチョウがいるが、ガは約6000種も確認されている。


 ☆チョウとガに明確な違いはない。


 ☆フランス語では、ガもチョウも「パピヨン」と呼ぶ。


 参考資料

 ときめくチョウ図鑑

 今森光彦著 (株)山と渓谷社刊


 新装版 蝶

 猪又敏男 松本克臣著 (株)山と渓谷社刊


 世界チョウ図鑑 500種

 華麗なる変身を遂げるチョウとガの魅力

 ケン・プレストン・マフハム著 大谷剛監修・訳

 (株)ネコ・パブリッシング刊


 徹底図解 昆虫の世界

 岡島秀治監修 (株)新星出版社刊

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