明日自慢出来る(かも知れない)話ZZ

烏田かあ

語源百景 植物篇 ①かば焼きの「かば」ってなに?

 ※今回から文末に「まとめ」を掲載します。

  読みにくい文章に耐えられない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


亡霊葬稿ゴーストライター 紫文しぶん』には、白亜紀はくあきに絶滅したはずの大木が登場します。


 さすがに劇中のような大木はまれですが、我々にとって植物は身近な存在です。

 コンクリートのジャングルで暮らしていても、緑を見ない日はありません。

 ガーデニングが流行している昨今、花や木を育てている方は多いのではないでしょうか。


 それ以前に植物は、人間の衣食住に欠かせない存在です。


 事実、日本人は毎日のように、イネかられるお米を食べています。

 世界中の方に愛されるお茶や紅茶、コーヒーも、葉っぱから抽出ちゅうしゅつされるものです。パンやパスタの原料となる小麦に、トウモロコシ、ジャガイモと、主食になっている植物は枚挙まいきょいとまがありません。


 衣服の材料となるコットンは、綿花めんかから作られます。

 また古くから家を建てる際には、必ずと言っていいほど木が使われてきました。最近は断捨離だんしゃりやミニマリストが流行はやっていますが、木製の家具を一つも持っていない方はいないはずです。


 人々の生活に浸透した存在は、自然と言葉の材料になります。


 今までも当シリーズでは、神話や宗教、歌舞伎から生まれた言葉を取り上げてきました。

 勿論もちろん、植物も例外ではありません。数千年――いや数万年にも及ぶ人類との付き合いの中で、様々な言葉を生み出して来ました。


 例えば「蒲焼かばやき」の由来は、「ガマ」だと言われています。


 そもそも「かば焼き」とは、開いた魚を串に刺し、タレを付けて焼いたものです。

 イコールウナギなイメージがありますが、ドジョウやハモのかば焼きも存在します。


 語源になったガマは、日本中の水辺に生える植物です。

 最大で2㍍にもなる草で、夏にはソーセージそっくりな穂を付けます。

 ダイエット中に川辺を走っていたら、お腹が鳴ってしまうかも知れません(笑)。


 ソーセージの正体はめしべだけを持つ花で、雌花めばなと呼ばれています。

 ではおしべがどこにあるのかと言うと、雌花めばなの先端にある黄色い花です。

 雌花めばなとは逆におしべしかないそれは、雄花おばなと呼ばれます。


「かば焼き」と言う名前は、「がま焼き」がなまったものだと言います。

 しかし一体なぜ、その名がかば焼きに使われたのでしょうか?


 確かに、特徴的な穂は、串状の茎に刺さっているようにも見えます。

 しかしそれだけで、かば焼きと同一視されるものでしょうか?


 秘密は、かば焼きの変遷へんせんにあります。


 かば焼きの歴史は古く、室町時代にまでさかのぼります。

 当時、かば焼きはぶつ切りにしたウナギを串に刺し、焼いただけの食べ物でした。

 現代のようにウナギを開くことはなく、味付けも味噌や塩だけだったと言います。


 細長いウナギをぶつ切りにし、串に刺した姿を想像してみて下さい。

 どうです? 「がま焼き」と呼ばれるのも無理はないでしょう?


 現代のようにウナギを開くようになったのは、江戸時代になってからだと考えられています。

 今でこそ高級品のウナギですが、当時はむしろ庶民の味でした。


 特に隅田すみだがわ深川ふかがわれるウナギは、江戸っ子の大好物だったと言います。

 現在、寿司に使われる「江戸前えどまえ」と言う表現は、元々ウナギを指す言葉だったそうです。


 ウナギ屋が店を構えだしたのは江戸時代後期のことで、それまでは露店や屋台で営業を行っていました。なんと1850年頃の江戸には、数百軒もウナギ屋があったとか。


 現代でもかば焼きは、東京を代表する料理の一つです。しかし実のところ、現在の調理法を編み出したのは、京都や大阪の人々だったと考えられています。


 残念なことに、ウナギの値段は年々高くなっています。

 多少安価あんかな外国産でも、庶民の味と言うのは無理があります。

 しかし土用どよううしには、多少無理をしてもウナギを食べる方が多いのではないでしょうか。


 精の付くうなぎは、夏バテを防ぐのに最適な食べ物です。

 まあ、人間が元気になる分、お財布はやつれてしまいますが……。


 以前(『明日自慢出来る(かも知れない)話Z』の『陰陽いんよう五行説ごぎょうせつと黄色』)で説明しましたが、土用どようとは立春りっしゅん立夏りっか立秋りっしゅう立冬りっとうの前18日間を指す言葉です。

 ※アドレスをクリックすると、該当する話に飛びます。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054883436079/episodes/1177354054883451501


 早い話、土用どようと呼ばれる期間は、一年に四回訪れます。

 この内、ウナギを食べるのは、立秋りっしゅうの直前にあたる土用どようです。

 また「うし」の「うし」とは、十二支のうしを指しています。


 古来、日本では時間や方角に十二支を割り振って来ました。時代劇が好きでなくても、「丑三うしみつどき」や、「うしとらの方角」と言う言葉は聞いたことがあるはずです。


 つきも同様で、十二支が割り当てられています。

 日の場合、十二支は12日間で一巡し、最初のに戻るそうです。


 つまり「土用どよううし」とは、土用どようの前18日間で、うしが割り振られた日を指します。


 勿論もちろん立春りっしゅん立冬りっとうにも土用どよううしはあります。

 とは言え、単に「土用どよううし」と言った場合は、立秋りっしゅうのそれを指すのが普通です。


 日本には元々、「うしの日に『う』の付く食べ物を食べると、縁起がいい」と言う俗信がありました。

 勿論もちろん、「ウ」ナギは「う」の付く食べ物ですが、日本には「う」めぼしや「う」どんもあります。一体なぜ、ウナギだけが特別視されるようになったのでしょうか?


 一説によると、土用どようにウナギを食べるようになったのは、平賀ひらが源内げんないの仕業だと言います。


 平賀ひらが源内げんない享保きょうほう13年(1728年)生まれの実業家で、エレキテルを修復したことで知られています。

 世間的には発明家と言う印象が強いですが、実際は文学や絵画にも精通する多才な人物です。コピーライターや博物はくぶつ学者がくしゃとしての一面も持ち、日本初の物産展も開催しました。


 ある時、売上げ不振に悩むウナギ屋が、源内げんないに妙案を求めました。

 源内げんないくだんの言い伝えに着目し、ウナギ屋に「本日土用どよううし」と言う張り紙をさせます。


 結果、ウナギ屋には多くの客が集まり、それまでが嘘のように繁盛したと言います。それを見た他店も次々と張り紙を貼ったことで、土用どようにはウナギを食べる習慣が定着していったそうです。


 現代でもコンビニの宣伝によって、節分せつぶん恵方えほうきを食べる習慣が広まりました。しかしいまいち定着しきっていないところを見ると、広告代理店より源内げんない先生のほうが優秀なようです。


 土用どようにウナギを食べるようになった理由には諸説あり、平賀ひらが源内げんない説はその一つに過ぎません。

 ただ、ウナギが夏バテに効くことは、古くから知られていたようです。


 実際、奈良時代に編纂へんさんされた「万葉集まんようしゅう」には、ウナギを題材にした和歌が登場します。作者は万葉集まんようしゅうの編者と言われる大伴おおともの家持やかもちで、痩せた知人をからかい、夏やせに効くうなぎを食べろとんでいます。


 実は「かば焼き」の語源にも諸説あり、本当のところは判然としません。


 別の説では、「かばの木に形や色が似ているから」と主張しています。

 また匂いが早く伝わることから、元々は「香疾焼かばやき」と呼ばれていたと言う説もあります。


 なんだか暴走族のような当て字ですが、確かにかば焼きほど嗅覚に訴え掛ける料理は存在しません。ウナギ屋の店先を通っただけで、よだれを垂らしてしまう方もいるのではないでしょうか。


「しわい」と言う落語には、ウナギの香りだけでご飯を食べる男が登場します。

 どケチっぷりに笑ってしまう反面、同じことが出来てしまいそうな自分が怖い(笑)。


 ◇今回のまとめ◇

蒲焼かばやきの語源になったのは「ガマ」。


☆ただし「かば」の木や、「香疾焼かばやき」が語源と言う説もある。


☆かば焼きは元々、ぶつ切りにした魚を串に刺した料理だった。


☆現在の形に変わったのは、江戸時代。


土用どよううしにウナギを食べる習慣は、平賀ひらが源内げんないが考案した(かも)。


☆少なくとも奈良時代には、「夏バテにはうなぎがいい」と言う認識があった。


 参考資料

 日本語源辞典

 村石利夫著 (株)日本文芸社刊


 週刊 日本の100人 №30 平賀源内

 (株)デアゴスティーニ・ジャパン刊


 週刊 江戸 №27

 (株)デアゴスティーニ・ジャパン刊


 江戸を知る事典

 加藤貴編 (株)東京堂出版刊


 日本の年中行事事典

 福田アジオ 菊池健策 山崎祐子 常光徹 福原敏男著 (株)吉川弘文館刊


 江戸早わかり事典

 花田富二夫著 (株)小学館刊


 新装版 野草の見分けのポイント図鑑

 林弥栄総監修 (株)講談社刊


 タイムスクープハンター スペシャル 「緊急指令! 守れ秘伝の味」

 放送局:NHK総合 放送日:2014年1月2日

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